LMF501Tを使ってラジオを試作する

Test&Dataコーナーの他項目で紹介しているMF帯用コイルを使って中波AMラジオを試作した。当初はゲルマニュームラジオを考えていたが、スピーカーを鳴らしたくなりICラジオに落ち着いた。主デバイスはタイトルが示すようにMITSUMIのLMF501T。このICは3MHzまで使えるとデータシートにある。入力Zが4MΩもあり共振回路の負荷Qを気にする必要が無い(これ誤り後述)が入力容量(PF)は不明。また30dBのAGCには興味を引く。しかしもう少し踏込んだ内容のを期待するのは無理なのだろうか。電力利得は70dBありHi-Zのイヤホン駆動には十分だ。スピーカーを鳴らすにはAFパワーアンプが必要で、LM386Nを使った。これで総合的な電力利得は110〜120dBに達しスピーカーが十分な音量で鳴る。LMF501Tの電源電圧は1.5Vと低いため、LM386Nと混在させる場合は変換回路が必要である。電源ラインのZが上昇しないように十分な平滑とRFバイパス処理を施す。回路はデータシートを基本にしているが電子マスカットさんのサイトも参考にさせて頂いた。写真は実験風景。ユニバーサル基板に回路を組み、コイルとバリコンの共振回路を入力に接続し、出力はスピーカーへ導かれる。電源はDC9Vを供給する。回路は浮遊状態なので周辺からの磁界や電界の影響を受け易い。写真の如くワニ口でアースを施し電位を固定すると良い。入力の結合Cは入力が4MΩもあるので微小(18PFに決定)の方が共振回路への影響が無い。

写真は基板のクローズアップ。右上のトランジスタ状の3端子がLMF501T。注意しないと普通のトランジスタと勘違いする。中央のDipがAFアンプのLM386N。両者の総合利得はスーパーラジオ並で、アンテナ無しでもガンガン鳴る。LEDは順方向降下を利用した1.5V生成用。
1WオーダーのAFアンプとμVオーダーのRFアンプが相当な利得を持って混在しているので、電源供給やGND周りで共通Zを持たないように実装する必要がある。この種のラジオでも、通信型受信機でも、KWアンプでもこの心を怠ると発振器に化ける。
コイルのインダクタンスを増減すれば長波や短波ラジオに早代わりする・・・そのうちやってみよう。いやその前にしっかりとした箱に収め、フロントパネルにはボールドライブ機構のダイアルと目盛、それにスピーカーとSW付きVRにヘッドフォンJackを配した「形」にしなければいけない。
単身住まいからJOFG送信所(5KW)までは約3Km、JOPR送信所(5KW)までは約8.2Kmある。本質的にストレート受信機なので最寄のJOFGは共振回路をつがなくても受信できる状況にある。JOPRやJOFC(1KW)から離調するとJOFGが聞こえ出す。LMF501Tの内部構造が詳細まで明らかでないが、AGCのセンシングの方法などどのようなやり方をしているのか興味がわく。どんなものでも物作りは楽しいし夢がある・・・。

左は最終的な回路図。前述の電子マスカットさんの回路をベースにモディファイさせて頂いた。テストして分かったのは共振回路に良質(Hi-Q)なコイルを使用しても、共振回路両端を直接LMF501Tに接続すると負荷Qの低下を招き分離が悪い状況になる。ひどい場合は、VCを回しても常に最寄局の音が聞こえる状態に陥る。LMF501Tの入力はHi-Zを謳っているが、実際にはトランジスタのベースへ100KΩ経由で出力側から戻されるAGC電圧により電流が流れるのでZは低下すると思われる。したがって直接共振回路へ接続すると負荷Qが低下しHi-Qコイルでも満足な分離が期待できなくなる。そこでコイルを思い切りタップダウンして様子を見るとスーパーラジオ並の分離が実現する事が分かった。実際にはリンクコイルと同調コイルをシリーズにつなぎ同調コイルとし、つないだ点をタップとした。巻数比で見ると1/7である。LMF501Tを利用した多くの小型ラジオはLow-Qコイルを使用し、かつタップダウン処理はしていないので分離状況は相当悪いものと想像される。

以上の考えに立っているが、オーナーの単身住いは前述の如く最寄送信所まで3Kmと近い。そのため、想定外の強電界も災いしていると考えられる。VCを取り外してコイルだけにしても最寄局JOFGがガンガンなる状況であるから・・・。ちなみにJOFGをIC-765と3.5MHz傾斜型ダイポールアンテナで受信するとSメーターがスケールアウト(+60dB以上)する。JOPRやJOFCは7〜8dB程度低い。なお、受信電界が揃う地点ではこのような状況にはならないと思われるので悪しからずである。

ここでLMF501Tの使い方について気付いた事を追記する。このICは、外部負荷抵抗(電源抵抗)で発生する電圧を分離し、低周波出力(AC)とAGC電圧(DC)を得る非常に巧妙に作られたデバイスである。出力端子のDC電圧は入力端子が無入力だと1V程度あるが、入力があると低下して行く。この電圧を100KΩ経由で入力端子に戻しAGC動作が実現する。したがって如何に目的信号による良質なAGC電圧を生成するかが鍵と言える。そのためには入力は感度よりも分離を重視した設計をすべきである。100KΩを直接LMF501Tの入力端子へ返す回路を良く拝見するが、上記の理由で100KΩとはいえ同調回路のQを落とす結果となる。またここにはAGC用の制御電圧の他に低周波信号が重畳されている。本来なら純度の高いAGC用DC電圧のみをLMF501Tの入力端子へ返すのが望ましいから、100KΩとバイパスCで構成されるLPFを経由させた電圧を返すべきであろう。ここに記した回路図はそうした考えを基に修正を加えたものである。低周波信号に対しては、LMF501Tの内部回路のf特が伸びていないので問題無いように思われるが、不要なIMDを生まないために処理しておきたい。タップダウンによる適正なレベル管理によりHi-Qの同調回路が生かされ、AGCと相まって見事な分離動作を示してくれる。
ちなみに共振周波数f(KHz)から-3dB落ち(1/√2)の帯域幅冉=f/Qだから、例えばf=1000KHzでQ=200なら冉=1000/200=5KHz、Q=100なら10KHz、Q=50なら20KHzの帯域幅となる。このQを生かすのがストレートラジオでは如何に重要かが分かる。

余談だがLMF501TをスーパーラジオのIF(455KHz)段に使うと、面白いラジオが作れそうだ。例えば6BE6とペアのスーパーラジオとかが超小型で出来そうだ。

左図は同等品のUTC7642の内部回路図。データシートから引用させて頂いた。サイトを探しても回路図が記してあるデータはこれしか無かった。Pin番号がLMF501Tと異なるが回路は同等らしい。 またTA7642はUTC7642に酷似しPin番号も同じ。 現在は生産完了でサンヨーのLA1050はLMF501Tと同等でPin番号も同じ。 それにしても消費電流による電圧降下でのAGC電圧生成や低周波信号との重畳など、一体誰が考え出したのだろうかと感心していると某BBSにJA9TTT加藤氏の記述を発見。英国FERRANTI社のZN414Zシリーズがその原典で、今(2008年)から30年も昔の事らしい。同社は既に半導体業から撤退しているが、その後LA1050やLMF501TにUTC/TA7642へ引き継がれた模様だが、他にRapid ElectronicsMK484と称する同様のデバイスもあり、その影響度の大きさが分かる。Rapid Electronicsではラジオキットも製造販売しており面白い。

作りっぱなしはいけないのでケースに収める一方、SG(URM-25D)を取り出して入出力特性を取ってみる予定。40%程度の変調波の入力レベルに対する出力AFレベルとAF歪み率など・・・。

 ケースに収める

関係部品をブリキ缶に実装した。缶は120mm立方で蓋はプラスチック製。ゴンチャロフ製菓のチョコレート缶で、底以外の5面に「スパイダーマン」のイラストが描かれ、特に蓋は立体画になっていて面白い。
左は真上から覗いた様子。中央に同調コイル、底面にスピーカー、前面にはボールドライブ減速機構&ポリVCとSW付VRにヘッドホンJACK、背面に電源と外部スピーカーJACK、側面の006P電池ケースが見える。
基板の周辺は切落とし、コイルボビンの側面にタッピングビスで固定。ポリVCはボールドライブに金属棒を2本を立て、そこに渡したアルミアングルに取り付ける。コイルはアルミアングルと背面との間にウレタンと共に挟み込む。
下は前面と蓋の様子。前面は白エンビ板を当てた。ボールドライブに赤プラ版による指針を取り付けると、レタリングと相まって雰囲気が出て来る。



なお、ヘッドフォンJACKと外部SP及び内部SPの優先順位は、ヘッドフォン→外部→内部となっている。即ちヘッドフォンJACKを差すと以降は遮断される仕掛け。ヘッドフォン使用時は100Ωが直列に挿入される機構で、SPと同じVR位置でも音量が合うようにしている。ヘッドフォンはステレオ用でもモノラル用でも使える様に工夫してある。

余談だが、ブリキ缶自身は薄い素材なのでスピーカーを鳴らすと箱の鳴きが生ずるだろうと思っていた。それで底面内側に10mm厚の木材によるバッフル板を製作し放り込んだ。そこまでは良かったのだが、いざスピーカーを実装するとどうも高さがある。更にコイルを実装するとぶつかって箱から飛び出してしまう。
うーん読みが浅かったか・・・。コイルを細く巻き直す元気も無いので、あっさりとバッフル板を取り止める事になった。せっかく絶妙の木工を行い楕円穴を開けたのに・・・左。
しかしバッフル板無しでもそれなりの「ラジオの音」がしている。ちなみにスピーカーはPC用のプラスチックケースに入っていた4Ω/2Wの物を流用した。
作業を行った2008年3月29日の夜、このラジオを枕元に置き「ラジオ深夜便」を聞いた。さだまさしがTVスタジオから深夜便スタジオを訪れ、案内役の榊アナとコラボレーション・・・これも一生忘れない記憶になるのだろうか。
こんな小さな事でも、工作が楽しめ人生が豊かになったような気がする。不思議なものである。
 関連情報@:ゲルマニュームラジオを組む
 関連情報A:ゲルマニュームラジオにLMF501Tを組み込む
 関連情報B:1球2ICスーパーラジオの試作・・・真空管とICのコラボ


 COFFEE BREAK1・・・移動走行

3月22日。帰省時、走行中の受信状態を体感。以下日記より・・・せっかくの長距離ドライブ、作り掛けたバラック状態のラジオをダッシュボードに乗せる。アンテナは無いがJOFGがガンガン入る。福井ICから北陸道を南進。武生近くまで聞こえていたがそれから先はさっぱり。アンテナが無いからかと思いながら車載ラジオを聞く。こちらは山間部に入ると外国電波の影響でローカル放送が聞き取り難くなる。内容が分かるのは再送信をしているトンネル位だ。敦賀近くになると敦賀局が受信出来るが海外電波も強い。滋賀県に入り木之本IC辺りまで来ると日の出前だがJOCKが聞こえる。周波数を上手にプリセットしておかないと切り替え操作が大変。岐阜養老SA辺りまで来ると自作ラジオでも聞こえ出し岡崎IC辺りまで続く。その先は再び車載ラジオのお世話になり、牧の原SAでJOPKが聞こえ出し清水の実家まで続く。静岡ICの右手先にJOPKの送信ANTが見える頃は最高潮だが、車載に比べてAGCレンジが狭く音量増減が激しい。自作ラジオをバラックで積んで、長距離を走る人なんて居ないだろうと物好きさに呆れる。写真は牧の原SAの朝6時半過ぎのスナップ。ローカル局の地表波伝播を実感するドライブだった。
実家の縁側でセンバツ高校野球を鳴らす。今年84になる親父がその音を聞いて楽しんでいる。なんとも不思議で温かみのある光景だ。電池は006Pだから袋に下げて何所へでも楽しみを運べる。夜はこれで「ラジオ深夜便」か?。


COFFEE BREAK2・・・LMF501Tデータシートの不思議

以下はMITSUMIのデータシートで日本語版と英語版の「概要(OUTLINE)」からの抜粋である。 気を付けていないと見過ごしてしまうかも知れないが、日本語版には「AM再生ラジオを構成」とある。 ところが英語版には単純に「AM radio」としか記述が無い。 内部構成を見ても再生(Regeneration)している様子はないので、以前からずっと気になっていた。 最近になって英語版を発見しその記述から、日本語版の「AM再生ラジオ・・・」の行は誤りと判断した。本件はMITSUMI社のサイトで2回質問をしているが返答は無かった。

日本語版:本ICは、ワンチップAMラジオ用に設計されたモノリシックICです。少ない外付け部品でAM再生ラジオを構成することができます。
英 語 版:This is a monolithic IC designed for use as a single-chip AM radio. It can be used to configure an AM radio with few external components.