罪なき血(P・D・ジェイムズ)
弁護側の証人(小泉喜美子)
天使の卵(村山由佳)
将棋殺人事件(竹本健治)
危険な童話(土屋隆夫)
囲碁殺人事件(竹本健治)
変身(東野圭吾)
トランプ殺人事件(竹本健治)
魔術師(江戸川乱歩)
蜘蛛男(江戸川乱歩)
黒蜥蜴(江戸川乱歩)
第三の目(K・N・スミス)
黒い塔(P・D・ジェイムズ)
死の味(P・D・ジェイムズ)
策謀と欲望(P・D・ジェイムズ)
わが職業は死(P・D・ジェイムズ)
黒頭巾の孤島(C・アルレー)
(以下、ひとくち感想)
アンダーソン家のヨメ(野中柊)
とかげ(吉本ばなな)
透明な水(斉藤由貴)
愛情の限界(連城三紀彦)
ドグラ・マグラ(夢野久作)
黄泉戸喫(中井英夫)
P・D・ジェイムズ 青木久恵訳『罪なき血』ハヤカワ文庫HM
1988
P.D.James, INNOCENT BLOOD, 1980
*内容紹介(裏表紙より)
18歳の誕生日を迎えて、フィリッパは実の両親を捜し始めた。だが、彼女が探りあてたのは、父は少女暴行罪で服役中に獄死、母はその少女を殺害した罪で服役中という事実だった。母の出所が間近であることを知ったフィリッパは、出所後一緒に暮らす決意をする。だが娘を殺された父親もまた、復讐のために彼女の出所を待ち構えていたのだった(後略)。
*感想
続けて読む時間がなく、かなり時間がかかってしまいましたが、時間を空けてもきちんと読み終えたい本でした。『女には向かない職業』
『皮膚の下の頭蓋骨』 のコーデリアに似て、この本の主人公もまた、凛とした人です。フィリッパを復讐しようとする男性と対峙する場面は、まさにコーデリアを髣髴とさせます。
復讐をしようとする男性は、どちらかというと頼りなげな人で、それがまたいいのでしょう。それ以外にも登場人物それぞれに背景があるので、説得力があり、厚みも出てきてると思います。
P・D・ジェイムズのどこが好きかというと、その場面にあまり関係のない事柄に登場人物が思いを馳せるところです。地の文で。うまく言えませんが、人間は何も「それだけ」に意識が集中しているわけでもないだろうし、例えば人を見ている場合に、「この人は、こういう人かな」などと、それがその場にそぐわない思考だとしても、心の隅で考えているものだと思います。そういうところが描写として表れているところが、私は好きです。格言めいたセリフや文も多いので嫌いな人は嫌いかもしれませんが。
あまりミステリぽくないし、地味な話ではありますが、読んで損はないと思います。抱腹絶倒もいいけれど、たまにはちょっと重いものを、と思っている人にはちょうどいいかも。解説で、「ロマンティシズム」という言葉が使われていたけれど、その通りなんだなあ。
*内容紹介/感想
最初、1963年に発表され、のち1978年に集英社文庫に入りましたが、現在入手不可能なためあきらめていたところ、つい先日本屋で見つけて喜んで買ってきました。
元ストリッパーのミミイ・ローイこと漣子は、お金持ちの放蕩息子、杉彦に見初められ結婚するが、案の定、一族からは冷たくあしらわれ孤立無援の状態に陥る。そんな中、杉彦の父親、龍之助が殺され、杉彦の仕業だと思った漣子は、逆に容疑者として逮捕されてしまう。死刑の宣告を受けた漣子だったが、かつてのストリッパー仲間の友人が連れてきた頼りなげな弁護士とともに、新たな証人探しを始める。
話の流れは、こうなるだろうと思う通りに進んでいたのですが、それでも魅力的なつくりです。根っからの悪人が出てこない物語もありますが、この中には「根っからの」がつく人物が登場します。
物語が(いい意味で)単純明解なため、余計なことをいうとネタバレになりそうです。せっかく感想を、と思っても、うむむ、という感じですね。損はしないから読んでない人は読め、という他ないかな。
1963年発表ということに驚きます。上質な香りのする話です。文章にそこはかとない品の良さが出ているようで、私は好きです。おすすめします。
読んで良かった。読めなきゃソンしてた。フツーの話でもあり、かわりばえのしないテーマなのかもしれないし流れも予想がつく。しかし! いい!すごく、いい! やはり、これも読め! なのだ。恋愛したことある人ならきっとわかる。
*内容紹介/感想
長らく読めなくなっていた『囲碁』 『将棋』
『トランプ』 のゲーム三部作ですが、近年ピンポイントから『定本 ゲーム殺人事件』が、三部作+書き下ろしの「チェス殺人事件」を加えて発売されていました。しかし、これがかなり高価だったため買うのを躊躇していたところ、嬉しいことに今回角川文庫で発売され、読めることになりました。『囲碁』『トランプ』も順次発売されるそうです。
奇妙な噂の発信源をたどるうちに、殺人事件との関係が見えてくる。それに加えて、何ら関係のないように見える詰将棋の盗作問題も絡んでくる。謎が謎を呼び、いったいどこがどうつながってゆくのか。
章が細かく分かれ(まるで、法月綸太郎の『密閉教室』のように)、章ごとに場面がめまぐるしく変わるため、最初のうちは、一体これはどういうことなのかさっぱりわからないまま読みすすめてゆく感じです。その内容自体も暗示的な文章が多く、意味が解読されるのを拒んでいるようです。解説に、”一般的な本格ミステリが「謎→推理→解決」へと直進する一本道だとするなら、本書は脇道だらけの迷宮である”と書かれていますが、まさにその通りでしょう。
なんだかわからないままに終わってしまったなぁ、という印象。竹本健治は『匣の中の失楽』の印象が強すぎて、他の何を読んでもそれより下に見えてしまいます。しょうがないことなのでしょうが。
*内容紹介/感想
服役中の男性が、仮出所で従姉妹をたずねた。が、その家で殺されてしまう。その従姉妹にあたる女性を逮捕したものの凶器も動機も見つけることができない。女性は、殺された男性の従兄弟にあたる人物と結婚していたが、彼の事故により未亡人となっていた。周りの誰もが認める貞淑な女性である彼女と、殺された男性の間には何もないはずなのだが。
犯人とおぼしき人物は、その人以外にいないのに、決定的な証拠を見つけられない。少しずつ、動機やトリックの糸口を探し出してゆきますが、そのペースが私と同じスピードに感じ、なかなか快かったです。先にわかりすぎられて説明ばかりなのもシャクですし、私がわかって中の人物がわからないのももどかしすぎますから。
トリックは、単純と言えば単純、素直なものでしょうが、逆にそれが新鮮です。犯行の動機の原因となったことについてや、実際の犯行がそんなにうまくゆくものなのか、という疑問も多少ありますが、品の良い しめたという点から許せてしまいます。
少し前に読んだ、小泉喜美子の『弁護側の証人』少し昔の作品には、最近の作品にはないようなそこはかとない雰囲気が漂っている気がします。
*内容紹介/感想
『囲碁』 『将棋』 『トランプ』
のゲーム三部作の第1作目。今回の再刊においては、先に「将棋」が発売されました。
プロの棋士が対戦中に首なし死体で発見された。続いて囲碁好きな眼医者の死体も発見され、二つの事件には関連性があるのではないかと世間は色めきたつ。そして、推理を行う牧場少年も、碁石による暗号で脅迫されたり、命を狙われたりする。殺して得をする人物が見あたらない。つまり動機が不明で推理も想像の域を出られない。いったい、犯人は誰なのか。そしてその動機は。
2作目の『将棋』に比べて、格段に読みやすい内容です。というよりは、竹本健治の中でとっつきやすい部類に入るのではないでしょうか。囲碁がわからなくても楽しめますし(興味もわいてしまうほど)ちょっと意外な幕切れでした。不思議と後味は悪くないですね。物悲しい真相でもあります。どこかで似たような話を読んだ気もするのですが。
読者をいつものように混乱に陥れないというだけで、かなり評価できます(?) 竹本健治の良くない毒気が抜けている感じです。それが物足りないといえば物足りないのですが。私は悪い毒気に当てられたくて竹本健治を読んでいるようなところもありますから。
*内容紹介
不動産屋で強盗にあってしまい、女の子をかばった為に銃で撃たれてしまった主人公、成瀬純一。脳を撃ち抜かれて、奇跡的に助かったという。それは他人の脳を移植したからだというが、脳移植の適合性の確率は極めて低く、彼はその世界第1号であった。手術後の経過もよく、世界初の試みは大成功に見えたのだが、だんだんと彼の意識の中に違和感が生じてきたのだった。
*感想
思ったより恐怖感を感じませんでした。しかし、例えば、他人の角膜を移植しても、もとの人物であることに変わりはない、という考えには簡単にうなづいてしまいそうなのだけど、他人の脳の一部あるいは全体を移植しても、もとの人物かどうか、とことに関してはすぐさま即答できかねます。その人がその人たりえているのは、やはり精神なんだろうか、と考えてしまいました。
他人の意識が自分の意識を支配するという恐怖は大変なものだと思います。それを心の隅で意識できてしまう、というのが、また恐怖であり、絶望であるのかもしれません。
*内容紹介
コントラクト・ブリッジ仲間の4人の男女。その中の戸川(男)と詠子(女)は、いつも影のように寄り添っていた。いつもと組み合わせを変えて対戦した日、詠子が失踪し、数日後、死体で発見される。
*感想
暗号解読があり、わくわくしてしまいます。暗号が出てくる作品は、あまり読んでない気がします。印象にあるのは井沢元彦『猿丸幻視行』くらい。『トランプ』はどこか『匣の中の失楽』に通ずるものがあるように感じます。いかにも竹本健治の世界。謎の真相は、深いですねえ。一筋縄ではいきません。それに、それが本当に真相なのかどうか結局わかりかねているところも(こういうところが、竹本なんですね)。
『囲碁』『将棋』『トランプ』のゲーム三部作は全て、ルールを知らなくても読めるものです。知っていたらもっと面白いかな、という程度。たまたま小道具に使ったというだけで、竹本健治のゲーム好きに由来しているのでしょう。ですから、躊躇せずに読めます。それぞれに味があって面白いと感じました。
*内容紹介(背表紙より)
東京の大宝石商の一家を恐怖のどん底へと突き落とす不気味な数字の通信。日一日と減っていくその数は、いったい何を意味しているのか。一家に異常なまでの復讐心を抱く怪人<魔術師>とは何物? 玉村家からの依頼を受けて保養先から帰京するなり、賊の手にかかって誘拐された名探偵明智小五郎の運命やいかに!? 壮絶な結末に至るまで息つく間もなく展開される波乱万丈の物語。
*感想
あらすじにあるように「息つく間もなく展開される波乱万丈の物語」にすっかりはまってしまい、あっという間に読み終えました。以前、『孤島の鬼』を読んだ時のような興奮を思い出しました。大人になってからは「やめられない本」に出会えるのが極端に少なくなった気がしていますが、まだ乱歩があるなと思い、わくわくしています。
小・中学生頃に読んだら今よりももっと刺激的で次から次に読みあさっていたでしょう。今まで殆ど読んでいなかったのはこれから楽しめるから幸せなのか、純粋な心(?)のうちに読んでいたほうが幸せだったのかというのはありますが。
よくよく考えてみれば納得できない点もあるし、最後は広げたふろしきをあわててたたんだという感じがなきにしもあらずだけれど、それでも文句なしに面白い。これは連載物だったそうですが、解説にもあるように、それでは読者はたまらないでしょうね。いてもたってもいられない。
私は、創元推理文庫版で読みましたが、連載物だった体裁をそのまま採用しており、”次回予告といった体裁の編集部の囲み記事が載って”います。これがまた楽しい。
*内容紹介(背表紙より)
とある貸事務所の十三号室を借り受けた奇妙な紳士。彼は、さっそく新聞に女事務員募集の記事を出し、応募者の中からひとりの美女を選び出すと自宅に連れ帰り、刃物類が転がる不気味な風呂場へと案内するのだった。かくして、東京中を震撼させる恐るべき事件が続発する。この残虐な殺人鬼に対するは民間の犯罪学者畔柳友助。
*感想
ふむふむと数ページ読み進めてると、あっという間に人が殺されてしまいました。なんなんだっ、このとてつもなく不気味な男は、という間にやっぱり物語にはまっていったのでした。犯人は、大変意外な人物です。ただし、この物語の中「以外」だったら。この物語の中では、それよりも、もっともっと信じられない現象が起きているため、それくらいじゃ驚けなくなっているのです。
『魔術師』に続けて読んだのですが、実は既にごっちゃです。それほど似通っている雰囲気はあるのですが、それでもなお、やっぱりやめられないことは確かだからしょうがない。
*内容紹介(背表紙より)
社交界の花形にして暗黒街の女王、左の腕に黒蜥蜴の刺青をしているところから、その名も<黒蜥蜴>と呼ばれる美貌の女賊が、大阪の大富豪岩瀬家が所蔵する日本一のダイヤ「エジプトの星」を狙って大胆不適な挑戦状を叩きつけてきた! 妖艶な女怪盗と名探偵明智小五郎との頭脳戦は、いつしか立場の違いを越えた淡く切ない感情へと発展していく。
*感想
読んだことのある友達に「どうだった?」と尋ねたところ、「う〜ん、ロマン」という答えが返ってきました。読み終えて「うむ。なるほどね」。しかししかし、悪人たちの「夢」には、よくもまあこんなことを思いつくもんだ、と毎回驚嘆してしまう。
創元推理文庫から出ている中では、『孤島の鬼』『魔術師』『蜘蛛男』そして『黒蜥蜴』と読んできたわけですが、ここまでの4つで比べてみると(これだけで比べるというのが間違ってるけど)、『孤島の鬼』はひときわよくできているな、というのはあります。改めてそう感じました。他は「通俗小説」とか「大娯楽小説」などという風に少し軽く見られてしまうかもしれないな、と感じましたが、『孤島の鬼』は、人にすすめても絶対楽しんでもらえるんじゃないかと。
ケイ・ノルティ・スミス 小泉喜美子訳『第三の目』ハヤカワ文庫HM
1994
Kay Nolte Smith, THE WATCHER,1980
*内容紹介(背表紙より)
大統領候補のブレーンも努める著名な社会学者が謎の転落死を遂げた。直前に彼と口論していた女性記者のアーストリッドに殺人の容疑がかかるが、彼女は自己を主張するばかりか、逆に驚くべき告発をする。死んだ社会学者は、悪魔的な第二の顔を持っていたというのだ。アーストリッドの無実を信じ、かつての恋人であるデイモン刑事は捜査を開始するが
*感想
実は、ふと、訳者に惹かれて買ってしまっただけだったのですが。半分くらいまでは読むのが苦痛でした。読む側にはおおよそ話の筋は見えているのに、それを繰り返される感じ。そして、一番知りたいことは提示されず、後回し。けれども、「彼女は殺していないに決まっている」というあまりにも当たり前な答えを最後に確認しなくては、という思いと、途中ではわからなかった謎を知りたいがために我慢していました。
ところが、中盤に入り法廷の場面になってくると、俄然面白くなってきました。刑事デイモンが、弁護士から刑事に方向転換してしまった理由、容疑者であるかつての恋人と別れた理由、それが、今回の事件の鍵と一致しだし、デイモンにとっての捜査は、いやがおうもなく自分と向き合うことになってきたからです。
このあたりに関しては、背表紙のあらすじにある「アーストリッドの無実を信じ」というのも少々微妙で、デイモン刑事としては、素直にそれを受け入れたくはなかった理由がありました。死んだ社会学者が悪であった所以が明らかにされるに従い、彼の屈折がいかに解き放たれて行くのかは読みがいがありました。
地味な本だと思います。万人向きではないかもしれません。読み終えても、私にとって訴えるものがあったのかなかったのか、漠然としていた感じです。けれど、こうして書いていると、不思議と素直に感想が出てきた気がしています。これを読んだみなさんが、そのインスピレーションでもって面白そうだと感じたのでしたら、きっと楽しめる本だと思います。そんなふうに控えめにおすすめしておきます。
P・D・ジェイムズ 小泉喜美子訳『黒い塔』ハヤカワ・ポケット・ミステリ#1268
1976
P.D.James, THE BLACK TOWER,1975
*内容紹介
病気療養と昔からの知人に会うため、ダルグリッシュ警視は身体障害者用療養所を訪れる。知人であったバドリイ神父から相談したいことがあるという手紙をもらっていたからであった。が、到着してみると神父は数日前に死んだ後。今となっては「相談したいこと」も永遠の謎となってしまった。そうなると、神父は自然死だったのかどうかの疑問も出てきた。そして、それを調べていくうちに、療養所内に変死者が出て。
*感想
うーん、地味です。ちょっと退屈でした。登場人物が多いのもあって、いつまでも巻頭の「登場人物表」と照らし合わせながら読み進めていました。
が、ぎりぎりになって犯人がわかり、対峙する場面はものすごく迫力に満ちていたと思います。よくあるように犯人がわかったからといってほっとして、ああ、解決したというわけにはいかなかったのです。犯人が降参したり、警察が出てきて捕まえることによってあっさりと終わりではなく、かなりドキドキする犯人とのやりとりが待っていました。
途中地味だったけど、これでよしとしようと思えました。
P・D・ジェイムズ 青木久恵訳『死の味』上・下
ハヤカワ・ポケット・ミステリ#1500,1501 1987
P.D.James, A TASTE OF DEATH, 1986
*内容紹介
元国務大臣のポール・ベロワンと浮浪者のハリー・マックが、教会の聖具室で死んでいるのを発見される。二人の間に面識はないはずだ。ベロワン氏の周りでは不可解な氏を遂げたものが多く、彼自身の最近の行動にも、周りには理解しかねるものがあった。突然辞職したり。教会で死ぬことになったのも、一晩の宿を求めての結果だった。彼の周りの人物、過去の事件を再び洗い始めるダルグリッシュ。
*感想
ほんとは陳腐な言葉で感想を述べたくない、というのがあります。私のつたない感想で、物語の面白さが半減してしまってはかなわないな、と。
『黒い塔』でもそうでしたが、犯人がわかってからも、終わりではないんですね。むしろ、そこからが正念場というか。しかし、なんと印象的なことをしてしまったのでしょうね、この犯人は。私にとっては、2つすごいことをしてくれました。1つに対しては、「こんな犯人、私、今までに知らない。それになんて深い心理を描き切ってるんだろ」と思い、人間て深いんだろうな(ああ、やっぱり陳腐な表現しかできない)と感じてしまったわけです。はぁ。
この中の一人一人にドラマがありました。ダルグリッシュと一緒に捜査する警部にもです。特に女性警部。解説にも書かれていますが、「ベロワンの死に関わりながら以前のままでいられる人間は一人もいなかった。」まさに、その通り。人が一人死んだことで、こんなにも動いてしまった現実。ささやかだった日常に変化が生じてしまった人。
終わりに近づくのがもったいなくてしょうがありませんでした。終章もいい。最後の言葉を読んで「はあー」っと深くためいきをついて本を閉じる。そんな感じでした。
P・D・ジェイムズ 青木久恵訳『策謀と欲望』ハヤカワ・ポケット・ミステリ#1559
1990
P.D.James, DEVICES AND DESIRESY, 1989
*内容紹介
なくなった叔母の遺産整理の為にその地へ赴いたダルグリッシュ。その地には原子力発電所があった。折しも連続殺人が多発しており、二人続いて原子力発電所に関係した人間が殺されていた。ところが。
*感想
物語の途中であっけなく解決を出したのかと思いきや、実はもっと深い根があった、という展開。しかし、厚さの割には薄味に感じました。『死の味』の後ということで期待しすぎてしまったのかもしれません。動機としてもまあ通俗的かな、と思えてしまったし。残念ながら、『死の味』のような「はぁっ」という感慨にまでは達しませんでした。
ただ、いつもながらのきめ細かい描写には魅せられてしまいます。ある人が何か一つ証拠を告白するのにも、何故それを言いたくなったのかの背景がきちんと描かれているところ。つまり、小説中の人物に突然言わせたりしないで、その人にちゃんと物語を付けているのです。それは、ほんの数ページの物語だったりしますが、それだけで納得できてしまうわけです。
それから印象的だったのが、死体を発見した人が海から死体を引き上げて、上着を脱いで着せかけてあげるなんていう場面。「あったかいか?」なんてことを彼に言わせたりしているのです。全くこういうのには参ってしまいます。そういうのに惹かれてP.D.Jamesを読んでいるのかもしれません。
P・D・ジェイムズ
青木久恵訳『わが職業は死』ハヤカワ・ポケット・ミステリ#1365 1981
P.D.James, DEATH OF AN EXPERT WITNESS, 1977
*内容紹介
法科学の世界を舞台にした物語。殺されたエドウィン・ロリマーを嫌う人物は多く、多すぎる動機の割には手がかりが掴めなかった。
*感想
P・D・ジェイムズを続けて読んできて、思ったこと。殺された人に対する周りの人の思いが描かれることによって、どんな人物だったのか浮かんでくるわけですが、それが大変顕著だと思います。ともすれば、殺された人のことなどは忘れ去られがちだと思いますが、彼女の本の中では、どうも殺された人の印象が残ることが多いのです。『死の味』は、特にその印象が強かったです。
ただ、「何故」殺されなければならなかったのか、つまり、動機についてですが、いつも物足りなさを感じてしまいます。物語全体は重厚なのに、動機がいまいち通俗的に感じてしまうのはどうしてなのでしょう。
今回は、終盤の盛り上がりに少々欠けた気がします。かと言って、前半が盛り上がっていたわけでもない。平坦なまま終わってしまった印象です。
カトリーヌ・アルレー 安堂信也訳『黒頭巾の孤島』創元推理文庫
1976
Catherine Arley, ROBINSON-CRUAUTE, 1973
*内容紹介(とびらより)
飛行機事故で父を亡くし孤児となった女主人公は、住みなれたスイスの寄宿舎を後に、唯一の肉親である伯父に連れられて遠くバルチック海の孤島へと向かう。たどり着いた島の古びた陰気な館で彼女を出迎えたのは、まるで中世の死刑執行人のように黒頭巾をすっぽりかぶった男だった。外科医の伯父はこの島でいったい何を研究しているのだろう。そして、黒頭巾の下に隠された謎とは? 恐怖に震えつつも乙女の胸は高鳴った。
*感想
アルレーは『わらの女』しか読んだことがありませんでしたが、これまた同じく後味の悪い話。それほど強烈ではありませんが。本の薄さなりの内容かもしれませんが、嫌いではありません。短時間のスリルを味わいたい重いものを読んだあとの気晴らしに、といった感じで読むには楽しめると思います。P.D.ジェイムズの後にふと手に取ってしまいました。
94/6/28
94/1/23
野中柊『アンダーソン家のヨメ』(福武書店:現ベネッセ)を読んでいます。オモシロイ!
94/2/26
最近、1年前に買ってツン読してた吉本ばななの『とかげ』(新潮社)、斉藤由貴の『透明な水』(角川文庫版)(どちらも短編)を読んだり。それから初めて連城三紀彦を読んでみたのですが、推理ものではなく、何故か『愛情の限界』(光文社)。
斉藤由貴の才能にはやっぱり驚いてしまうし(今「月刊カドカワ」に連載してる小説を早く読みたい!
→『NOISY』)、『愛情の限界』を読むと、小細工した恋愛はしたかないな、と思ったり。何事も、シンプルがいちばんです。
94/5/12
ようやっと、今ごろになって夢野久作 『ドグラ・マグラ』 を読んでいます。しかし、これは感想書けそうにないです。脳髄について考えてしまった、とでもしておこうかな。
期待しすぎたからか、呑み込まれずに読めたかな、という感じ。ただ、わけわかんなくなったのは認めますけど。
94/5/18
中井英夫の未刊行作品集『黄泉戸喫(よもつへぐい)』を読んでいます。読みやすそうでいて、ちょっと拒まれる感じもあって。思ったよりすいすい読めません。
雰囲気的にもそれでいいのかな、という内容ではありますが。