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1994年7-12月の感想

199401061995


ある殺意(P・D・ジェイムズ)
どこまでも殺されて(連城三紀彦)
戻り川心中(連城三紀彦)
月光ゲーム(有栖川有栖)
二の悲劇(法月綸太郎)
不自然な死体(P・D・ジェイムズ)
りら荘事件(鮎川哲也)
11枚のとらんぷ(泡坂妻夫)
鍵穴のない扉(鮎川哲也)
朱の絶筆(鮎川哲也)
ナイチンゲールの屍衣(P・D・ジェイムズ)
ジャンポ・ジェット機の飛ばし方(非日常研究会編)
姑獲鳥の夏(京極夏彦)
ヨーロッパぶらりぶらり(山下清)
(その他ひとくち感想)
120% COOOL(山田詠美)
ラビット病(山田詠美)
永すぎた春(三島由紀夫)
美奈の殺人(太田忠司)
ジェゼベルの死(C・ブランド)
隅の老人の事件簿(B・オルツィ)
料理に「究極」なし(辻静雄)

P・D・ジェイムズ 山室まりや訳『ある殺意』ハヤカワ・ポケット・ミステリ#1296 1977
P.D.James, A MIND TO MURDER, 1963

*内容紹介
病院の事務長が殺された。彼女を憎む人々は多かった。捜査を進めるダルグリッシュ。

*感想
P・D・ジェイムズの描く小説の舞台は、病院や医学関係が多いです。今回も、じめじめっとした人間関係が描かれています。話としては単調で、動機も犯人も、驚いてしまうほどの単純さ。第1作の『女の顔を覆え』や、本書などと、つい最近の『死の味』『策謀と欲望』などとを比べると、心理が書き込まれているという点では基本的に同じなのですが、やはり「深さ」が違うように感じます。最近の作品には、すごみすら感じてしまってますので。

94/7/7


連城三紀彦『どこまでも殺されて』双葉文庫 1993(1990)

*内容紹介
「僕」は6歳の時に殺されて以来、殺されることに慣れてしまった。小学校の入学式で付き添いの叔母に、12歳の時に学校で先生に、線路に突き落とされて。そうして7度殺されて、また8度目に殺されようとしている自分を感じている。そして学校に舞台は移り、教師の元に「先生、助けて下さい」という電話が入る。

*感想
読み易いわりに、気をつけていないと混乱しそうな内容。助けを求めている人物が誰なのか、お互い罠をかけあっているから。あまり残る内容ではありませんが、読んでいる間はなかなか楽しめる、といった感じです。

94/7/28


連城三紀彦『戻り川心中』講談社文庫 1983(1980)

収録作品
「藤の香」「桔梗の宿」「桐の柩」「白蓮の寺」「戻り川心中」

*内容紹介/感想
花をテーマにした短編5つ。どの内容も、今より少し時代を遡ったところを舞台にしています。そこはかとない色気、情感を感じます。全て恋愛が絡みますが、そんなにまで想うというのは、どういうことなのか、彼女たちの恋の激しさが伝わってくる話でもあります。特に「桔梗の宿」の物悲しさが逸品。気持ちに全く気付かないというのも罪なこと。

94/7/28


有栖川有栖『月光ゲーム −Yの悲劇'88−』創元推理文庫 1994(1989)

*内容紹介
夏合宿のためにキャンプ場へやってきた大学生達を火山の噴火という事態が襲う。助けも求められず、脱出もできない閉じこめられ状態のなかで、殺人事件が発生して。現場にのこったyのメッセージは何を意味するのか。

*感想
満足したかというのは別として、基本を盛り込んだ、という感じがなんだかほほえましかったです。登場人物が多すぎて、少し辟易しましたけど、あざとさがなく、とっつきやすい内容。犯行動機は、う〜ん。全体的に甘口でしたが、きっと『孤島パズル』や『双頭の悪魔』は、もっとこなれているんでしょうね。

ちょっと脱線
参考文献としてあげられているリーバーの『月の魔力』、なかなか面白いですよ。信じる信じないは別として。『月光ゲーム』の中では「リーパー」となってたのですが、実物みると「リーバー」なのですが。

94/7/28


法月綸太郎『二の悲劇』祥伝社ノン・ノベル 1994

*内容紹介(裏表紙より)
東京世田谷でOLが殺されて顔を焼かれ、ルームメイトが重要参考人として手配された。事件は三角関係のもつれによる単純な怨恨殺人と見られたが、ただ一点、被害者の呑み込んでいた小さな鍵が謎とされた。作家にして探偵の法月綸太郎に出馬が要請された矢先、容疑者の死体が京都蹴上の浄水場で発見され、惨劇の舞台は一転、西へ飛んだ! 自殺か? 他殺か? 失われた日記に記された、京都=東京を結ぶ愛と殺意の構図とは?

*感想
久しぶりに法月作品が読めて、たいへん嬉しかったというのが一番。相変わらず、理屈っぽい脱線がありますが、それもまた懐かしい。『ふたたび赤い悪夢』から比べるとふっきれたようで、そういった安心もあり。

『頼子のために』あたりからずっと哲学的カラーがありますが、これもそう。今回は「物語」がテーマでしょう。自分は、自分の人生という舞台から降りることはできない。自分が主人公。終わらない物語。

『頼子のために』『ふたたび赤い悪夢』に少し言及していますので、未読の場合は前に遡って読み始めるほうがいいかもしれません。

殺人事件に巻き込まれる、というのは、もしかしたら、特別なことなんかじゃなくて、偶然が偶然を呼び、重なりあってしまった時にこれまた運悪く当たってしまうものなのかもしれない、などとも思ってしまいます。そして、そういった事件の「真実」を知ることは可能なんでしょうか。私たちが、世間で起きた殺人事件の全貌を知ることはないと言っても良いと思います。私たちが全貌を知ることのできる殺人事件というのは、こういった小説の中でしかありえないのではないでしょうか。

94/7/28


P・D・ジェイムズ 青木久恵訳『不自然な死体』ハヤカワ文庫HM 1989
P.D.James, UNNATURAL CAUSES, 1967

*内容紹介
休暇で叔母のもとを訪れたダルグリッシュ。両手首を切断された男の死体が発見される。死因は心臓麻痺。管轄外とはいえ、事件に関わらずをえなくなったダルグリッシュの捜査が始まる。

*感想
『策謀と欲望』は、ダルグリッシュが亡くなった叔母の遺産整理の為に訪れるところから始まりましたが、その唯一の肉親であった叔母の人となりが少し語られています。のちに亡くなってしまったことを思うと、干渉を嫌い、プライバシーを大切にするダルグリッシュと、叔母のほのかな交流が少しせつなく思えます。彼にとっては数少ない理解者であったのだろうから。

さて、事件のほうはというと、これまた地味に話は進みます。今回の犯人は、弱く見えて実は底力があったかな。迫力を感じて恐かったです。暗いです。

94/8/15


鮎川哲也『りら荘事件』講談社文庫 1992(1968)

*内容紹介(背表紙より)
秩父の山荘に7人の芸術学生が滞在した日から、次々発生する恐怖の殺人劇! 最初の被害者は地元民で、死体の傍にトランプの”スペードのA”が意味ありげに置かれる。第二の犠牲者は学生の一人だった。当然の如くスペードの2が。奇怪な連続殺人を、名探偵星影竜三はどう解く?

*感想
閉ざされた状態、学生が主人公、連続殺人という設定。どんどん殺されていって、さて犯人は二人のうちのどちら? というところまできても、推理が立たなかったなあ。全ての謎において解決がこじつけでないところが好きです。楽しく読むことができました。

しかし、おいそれと人にものを借りることさえ恐くなってしまいました。いつ、どんなことがきっかけで殺されるはめになるか、わかったものじゃないなぁ、と。ぶるぶるっ。

94/8/15


泡坂妻夫『11枚のとらんぷ』創元推理文庫 1993(1976)

*内容紹介(背表紙より)
奇術ショウの仕掛けから出てくるはずの女性が姿を消し、マンションの自室で撲殺死体となって発見される。しかも死体の周囲には、奇術小説集「11枚のとらんぷ」で使われている小道具が、壊されて散乱していた。この本の著者鹿川は、自著を手掛かりにして真相を追うが。

*感想
小説中小説(短編)の形態がとられているのですが、これが楽しめます。長編と短編の2つの面白さを味わえて得した気分。それに、冒頭が奇術ショウで始まるのだけど、参加しているような感じ。ユーモアに溢れていて笑えてしまいます。全体的に暖かい印象の本です。

最後に軽いどんでん返しもあったりして、読者サービス旺盛な内容でした。最終章での終わり方が余韻を残して、この先はどうなったんだろう、と気になってしまいました。

94/8/23


鮎川哲也『鍵孔のない扉』光文社文庫 1989(1969)

*内容紹介(背表紙より)
声楽家で野性的な美貌を誇る妻と、その伴奏ピアニストをつとめる風采のあがらぬ夫。この声楽家夫妻に生じた愛情の亀裂を発端に殺人事件が発生、しかも犯人は第二の殺人を予告してきた! 捜査線上に最後まで残った容疑者には不動のアリバイがある。主任警部の鬼貫は単身蔵王に飛んだ。

*感想
読み始めて、二人の間に亀裂が入っていく様子から殺人事件に巻き込まれていくあたりは面白く感じていたのですが、捜査が進むうちに二人の関係がどうのこうの、過去の人間関係がどうのこうの、という話ではなくなってきてしまうのです。殺された人物も、読者にはどういった人物なのか表面的にわかる程度に感じていますし、全体的に薄味に思えました。ただ、アリバイくずしの面白さは味わえると思います。クロフツの『樽』みたいですねえ。「こつこつ」といった印象の内容でした。

94/8/23


鮎川哲也『朱の絶筆』講談社文庫 1994(1979)

*内容紹介(背表紙より)
人気作家の篠崎が軽井沢の山荘で殺された。同宿者は秘書、編集者、作家志望者など七人で、篠崎の日頃の傲慢ぶりを考えるとそれぞれ恨みを抱いていたとしてもふしぎはない。捜査陣が七人を調べる中で、次々殺人が発生する。

*感想
第一部が大変面白かった。軽井沢に集まることになった7人が何故篠崎に恨みを抱くに至ったかの「過去」が語られているから。物語の展開よりも面白かったくらい。トリックは見破れなかったけれど、話の流れは平凡で想像できてしまう。探偵の影が薄いなあ。

94/9/2


P・D・ジェイムズ 隅田たけ子訳『ナイチンゲールの屍衣』ハヤカワ・ポケット・ミステリ#1246 1975
P.D.James, SHROUD FOR A NIGHTINGALE, 1971

*内容紹介
看護婦養成所、ナイチンゲール・ハウスで「胃内への栄養管による給食」の実地訓練が行われている。口に管を通され、栄養剤がわりのミルクを送り込まれた、患者役の学生が突然苦しみだし、死んでしまった。そしてまた、お茶を飲んで死んでしまった学生が。

*感想
ぶ厚いわりに読み易かったです。内容も、彼女にしては難しくなっておらず、充分ついてゆけます。それでもやはり、彼女らしい終わらせ方。結構満足しています。

一つの章が一つの短編にでも発展しそうな奥の深い文章を書く彼女。いつもながら圧倒されます。その物語の中で、人物の混乱がなく、私自身の中でイメージが出来上がるくらいの書き込みようです。

94/9/2


非日常研究会『ジャンボ・ジェット機の飛ばし方』同文書院 1994

この本には「ジャンボジェット機」「戦闘機」「ヘリコプター」「飛行船」「熱気球」「ハングライダー」「パラグライダー」「戦車」「蒸気機関車」「F1」「豪華客船」「護衛艦」「潜水艦」「ヨット」の操縦の仕方が、本気で書かれています。図解入り。

すごく真面目(?)なのに、すごくふざけている本です。絶対役にたたないでしょうねえ。でも、一度本屋で見てずっと「もったいない」と思って買わずにいたのですが、やはりずーーーーっと気になってしまい、ついに買ってしまったのでした。

94/9/20


京極夏彦『姑獲鳥の夏』講談社ノベルス 1994

物語の最初からひきつける謎を出してくるし、難解な理論が出てくる割にはするする読めてしまいました。ああんなにはちゃめちゃな謎をよくほぐしたものだと感心してしまいました。なるほど、と、納得できましたから(一応)。

94/10/28


山下清『ヨーロッパぶらりぶらり』ちくま文庫 1994(1961)

いやー、ゆかいです。彼の描いた挿し絵がところどころに入っていてそれもまたいい。ほのぼのと楽しめる本です。

アベックの絵を描こうと思ったけれど、腕の組み方がわからなくて、近くに行ってもいいか、と同行の先生に聞いたら、じゃまをしてはいけない、と言われてからの会話。

「ふたりだけではなす話というのは、どんな話かな」
「こんどの休みにはどこへあそびにいこうとか、あなたはほんとにぼくのことがすきかとか、結こんしてくれますかとか、とにかくおれと清が話すのとは、だいぶちがうだろうな」
「結こんしてくれますかとおせじでいって、はいしますといわれてこまることはないかな。結こんすれば子供ができるので、子供ができれば、奥さんと子供をくわしていかなければならないものな。男はうっかりしたことはいえないな」

結構するどいことを言っていたりして、なるほど、と感心もしてしまいます。

94/10/28


94/08/??
山田詠美『120% COOOL』(幻冬社)やっぱりいいな。『トラッシュ』なんかもいい。
山田詠美『ラビット病』、上と違って「おちゃめすぎる」恋愛もの。人によって評価は分かれるんだろうけど、とてもかわいいと思う。

94/9/20
実は最近、三島由紀夫の『永すぎた春』(新潮文庫)を手に取り、面白くてまいってしまったのでした。ユーモア効いているしテンポもよい。三島由紀夫は『春の雪』 と 『音楽』というのしか読んだことなかったんです。

94/12/15
11月に読んだのは確か、太田忠司『美奈の殺人』(講談社文庫)、クリスチアナ・ブランド『ジェゼベルの死』(ハヤカワ文庫)、バロネス・オルツィ『隅の老人の事件簿』(創元推理文庫)。『隅の老人』の最後の事件は、うすうす噂には聞いていたけど、ふむ。あとは、辻静雄(辻料理学校の創始者)が書いた、『料理に「究極」なし』(文藝春秋社)をちょっとかじったくらいかな。これを読んでいると、本当においしい料理というのは自分で作るしかないのかな、頑張ってみようかなーという気持ちになってくるから不思議。料理って奥が深いと感じてしまいます。


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199401061995