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1999年8月の感想

ちょこっとした感想を「日記のフリ」のほうに書くこともあるので、そちらもどうぞ。

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ルーカス・クラナッハの飼い主は旅行が好き(山本容子) (8/1)
天皇ごっこ(見沢知廉) (8/12)
小さなさかな屋奮戦記(松下竜一) (8/12)
東京純情コンバース(佐野裕貴) (8/13)
ふたり(赤川次郎) (8/28)


山本容子『ルーカス・クラナッハの飼い主は旅行が好き』中公文庫 1999(1989)

*感想
言うなれば旅エッセイなのですが、旅先での経験を、物をキーに展開するという形で、一つ一つは短く、間に美しい銅版画がはさまっています(だから薄さの割に高いのか)。懐かしい言葉、知恵の輪と、おいしそうな単語、カルヴァドス。りんごが原料のブランデー。旅というと、視覚的なものばかり残そうとしてしまうのですが、テープレコーダーを持っていくというのを読んで、とても新鮮に思いました。

1999/8/1


見沢知廉『天皇ごっこ』新潮文庫 1999(1995)

*感想
インテリってこういう人のことを言うんだろうなあ。章が5つに分かれていて、登場人物や思想的な語りには、つながるものはあるけれど、物語的には独立している。著者の思想がにじみ出ていると思う。「天皇」という存在について、気の置けない人とあれこれ話してみるのは、結構面白いです。でも、つきつめるのは無理で、混乱したり難しくなったりしていく、語るには、特別な存在。本を読みながら、それを再認識しました。

1999/8/12


松下竜一『小さなさかな屋奮戦記』筑摩書房・ちくまプリマーブックス 1989

*感想
もうちょっと「さかな屋」としての「奮戦」を期待していたのですが、さかな屋に関わっている人たちのエピソードが主です。経営している夫婦の人となりを軸に、人間模様を描いているというふう。あまり深く掘り下げずに、軽くなでるように書かれていると思う。その分少し物足りなさは残るけれど、こういう人たちもいるのだ、という程度に読めるので、疲れなくて良いことは良い。

「いいもの」見てる?

1999/8/12


佐野裕貴『東京純情コンバース』(1)吉祥寺企画・ラキッシュノベルズ 1996

*感想
醜いかけひきのない、純で素直な恋愛。片方は気が付いたら恋だったようですが、もう片方は、初めて心を開ける相手を見つけて友情かと思っていたら恋までいってしまってたって感じ?気持ちの描写を丁寧に読めるのが、私は好きです。この頃、物語として読む恋愛は、どろどろしてないほうがいいと思うようになってきた(そして、現実も)。気持ちがまっすぐなほど、よりしみる。

1999/8/13


赤川次郎『ふたり』新潮文庫 1991(1989)

*感想
電車の中で読み始めてほどなく、「う、これはまずい」と思った。人前で読んでいて、泣いてしまったらどうしよう、という危惧。家族の仲良い感じをきちんと伝えて、加害者の背景の描写も丁寧、おまけに悪人じゃないという設定。こんなのずるいよ、いったい誰をうらめばいいのよ、と思ってしまう。"お姉ちゃん"千津子の立派なセリフも、ただただ胸にしみてくる。

でも、幸い、涙腺の危機は徐々に過ぎ去り、甘くて優しいだけじゃない物語が展開してく。肉親を亡くした悲しみの深さはすごく伝わってくるのに、大げさじゃないところが良かった。

幸せ、不幸せの価値観は、他人にはわからないものだと思う。結局は、本人がどう思っているか、それが一番大きいのだし、他人が決められる部分ではない。

前半、あんなに千津子の不在を感じていたのに、だんだん慣れていってしまった私自身を、「そういうものなんだろうな」と思ったりもした。いるのが当たり前、から、不在に慣れて時々思い出す、になっていく。ただ単に、ここにいないから会えない、という状態と表面的には同じなのに、それが「会いたくても会えない」「私が死ぬまでそれは続く」と気付いてしまうと、途端に耐え難いものに思えてくる。時々「思うのを忘れる」から、時々「思い出すようになる」のが、気持ち的には楽だと思う。

1999/8/28


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