Epその3
「パンプキ〜ン、パンプキ〜ン、おっきなカボチャ♪」
「バター、シナモン、生クリーム♪」
「おっきなパンプキンパイ♪」
この一週間程、毎日毎日歌っている歌を今日も歌いながら、子供達は画用紙に濃い黄色のクレヨンで、大きなカボチャの絵を描いている。
その隣ではカボチャ色のケープの裾に、キラキラのスパンコールを真剣に縫いつけているクラウド。
「飯が出来たぞ」
セフィロスがそう声をかけると、3人同時に顔を上げた。
「今日のゴハン、何?」
ディが期待に目をキラキラさせて聞く。
「パンプキンスープにミートパイ」
「わーい、カボチャ、カボチャ」
「おっきなパンプキン」
「ちゃんと手を洗え」
クレヨンで手に黄色いまだらを作っている子供達にそう言うと、二人は争うように洗面所に駆け込んでいった。
セフィロスは、疲れた顔で針を片付けているクラウドに、気遣うように言う。
「仕上がりそうか?」
「……仕上げないと……明日は1日カボチャパイ造りだし…」
はあ〜〜っと長い息をクラウドは吐く。
「あんたも明日は会場設営の手伝いだっけ?」
「ああ、畑からカボチャを運ぶのだそうだ」
そう言ってセフィロスは口元だけで笑った。
明後日の週末は、町を上げての秋の収穫祭『パンプキン祭り』の日だ。
子供達も年少、年長組に別れて歌と踊りを披露することになっている。
頭にかぶるカボチャのお面と、スパンコール付きのカボチャ色ケープの製作にクラウドと子供達は1日費やしていた。
教えて貰ったカボチャの歌は子供達の大のお気に入りで、さんざん聞かされてセフィロスもうっかりすると口ずさんでしまうほどだ。
「カッカッカボチャ、ほんのり甘いの。甘くて美味しいパンプキンパイ。ほっぺと一緒にカボチャも空から落っこちた〜〜♪」
「落っこちたのは、カボチャじゃなくてカラスだよ〜」
「ほっぺと一緒にカラスも空から落っこちた〜〜、カボチャ!♪」
歌詞を間違えても全然平気で歌っているディに、正しく歌おうとするフィー。
そっくりに見えても、細かいところではやはり個性が出ると、クラウドは微笑ましく思う。
「ほら、食事の時は歌うの止めて」
と注意すると、「はーい」と返事をし、二人で顔を見合わせてにまっと笑っている。
食事が終わると、歌いながらダンスを見せるのが日課になっているので、きっと今夜も踊ってみせるのだろう。
夕べ、子供達が踊っていると、隣でこっそりセフィロスがカボチャの歌を口ずさんでいた。
驚いて顔をまじまじと見てると、少し照れたような表情をしたのが、なんだか可愛いと思ったクラウドだった。
翌日、クラウドは町の集会場の台所でひたすらカボチャ割りの手伝い。
集会場前の広場では男達がテントやステージを設置し、「カボチャ抱えコンテスト」のための特大カボチャが畑から運び込まれてくる。それらの作業の音に混じり、子供達が練習している歌声もする。
大きな蒸し器からは甘い香り。蒸し上がったカボチャを潰し、パイやプリン、ケーキが大量に作られている。
「やっぱり、男の人がいると楽よね〜。カボチャ、固くて割るの大変なのよ」
「倉庫から箱で運んでくるのも、大変だったしね」
あんまり誉められてる気がしないと思いつつ、クラウドは指示されるままに手伝いをしていた。炊き出しをしていた別の婦人部の女性が顔を出し、「クラウド〜スープのお鍋、運ぶの手伝って」と呼びに来る。
頼りにされているんだか、ただ使いやすいだけなのか、どっちなのかちょっとハッキリしないが、クラウドは女性には重い鍋を取りに行った。
広場のテーブルに大きなスープ鍋を運び出すと、準備中の男達や子供達が集まってくる。
「おかーさん」と、フィーとディが飛びついてきた。
「お歌、聞こえた?」
「僕たち、上手に歌えてたでしょ?」
と自慢げだ。
クラウドは子供達の頭を撫でながら、にっこりと笑った。
「明日が楽しみだな」
「うん!」
大きく頷いた子供達は、他の子供達と一緒にカボチャクッキーを配っている場所へ走っていった。いくつか手渡して貰うと、一番遠い場所から近づいてくるセフィロスに向かい、転がるように走っていく。セフィロスは足下にきた子供二人を軽々と抱きあげ、両肩に1人づつ座らせた体勢になった。
普段よりも遙かに高い視界に子供達は目をキラキラさせ、近寄ってきた友人達に手を振っている。
それを見たリューやルイまで肩車を強請りだし、辺りは父親の肩に座って高さ自慢をする子供だらけだ。
「ねえ、ねえ、かっこいい旦那さんよね。いーなぁ、羨ましい」
と、隣でパンを配っていた若い娘が、クラウドの肩を揺さぶりながら羨ましそうに言う。
セフィロスがかっこいいのは同感だが、自分も男であるという意識がこの女性にはあるのだろうかと、ちょっとだけ悩ましくクラウドは思った。
そして、ついにお祭り当日となった。
「うわー、人が一杯!」
いったいどこから沸いてきたのか、という程の人の群を見て、ディとフィーは大興奮だ。
仕事や学校のためにジュノン住まいの身内や近隣の村の人、また、農作物の買い付けのバイヤーなど、小さな町の祭りとは思えないほどの客が集まっている。
「こいつらの出番はいつなんだ?」
「午後一番。パレードに参加して、それからステージ。……興奮しすぎて、本番まで疲れないように見ていないと」
クラウドは目を離すとすっ飛んでいきそうな子供達の手を繋いで、そうセフィロスに伝える。
町の婦人部で作ったカボチャの菓子の他にも、近在から集まった地元の特産料理や、菓子、野菜やハム、チーズといった加工品の市が立ち、その他には古着やアクセサリー、家財道具のフリーマーケットも出来ている。
「……子供服、買い足しておこうか……」
「えーー、お菓子ーお菓子ー!」
「おっきなソーセージがいいーーー!」
「……古書市もあるな……」
興味のある店がそれぞれ違うので、結局、端から順番に覗いていくことにした。
クラウドは子供達の少し大きめのパーカーを見つけ、フィーとディーは湯気の立つ大きなソーセージをくわえ、手にはクッキーとキャンデーの詰め合わせ。
セフィロスはなぜか、少年少女向けのファンタジー小説を数冊。思わずクラウドは「自分で、それ、読むのか?」と聞いてしまったが、答えは当然「こいつらがもう少し大きくなった時用だ」だった。
その次は、早めの昼食用に買い込んだホットドッグを囓りながら、大道芸人のリングやスティックを使った芸を眺める。
背が高すぎるセフィロスは背後の見物客に邪魔扱いされ、気がつくと一番後ろに下がっていた。
一番前ではしゃぐフィーとディと一緒に最前列にいるクラウドが振り向くと、頭一つ背の高いセフィロスの顔が、群衆の頭上にぽつんと浮いている。なんだか可笑しくなった。フィーとディはピエロからフラフープを貸してもらい、大喜びで挑戦している。幼い子供達が順番にフープを回すのを見て観客も拍手をしながら笑っている。
クラウドは子供達に一枚ずつコインを渡し、回ってきた缶に入れさせた。初めての体験に大喜びの子供達は、セフィロスに突進すると感動を支離滅裂に説明をしている。意味不明ながら真面目に頷いているセフィロスに、クラウドはまた笑った。
フィー達の興奮が移ったのかも知れない、とクラウドは思う。些細なことが可笑しくて堪らない。
集合時間になって子供達を集会場に連れて行くと、はしゃく子供と対照的に、「お祭り、仕切るの初めてなんです…」と、若い教師が蒼い顔をしている。その蒼い顔がクラウドを見て赤くなる。
今も昔も自分の容姿に無頓着なクラウドは気がついていないが、実はこの教師はクラウドを見るたびに赤くなると母親達の間では有名で、年長の子供の親がこっそりとクラウドに耳打ちした。
「先生、緊張しているから、励ましてあげて」
「俺が?」
「そ、クラウドさんが」
母親達がなぜニヤニヤしているのか判らないまま、クラウドは教師に「よろしくお願いします。頑張ってください」と声をかけた。
若い教師は爆発しそうなくらいに顔を赤くすると、握り拳でどもりながら「は、はははは、はい!頑張ります!」と力んでいる。
カボチャ色ケープにカボチャお面をつけてスタンバイしているフィーとディがむやみにくるくる回り、セフィロスは仏頂面で腕組みして真っ赤な顔でぽーっとしている教師を睨む。なんだかよく判らないが、とりあえず、祭りだからいいか、とクラウドは珍しく暢気に考えた。
「そ、それじゃあ、パレード開始地点に移動します」
教師が緊張気味の声を張り上げた。トトトっと軽い足音を上げ、真っ黄色なカボチャ色に染まった子供達が並ぶ。ミッチの髪に結んだシフォンのひらひらのリボンまでカボチャ色だ。
「おとーさん、おかーさん、ちゃんと見ててね」
「見ててね」
親に手を振り、子供達は教師の後をついて出発地点に向かっていった。きゃわきゃわと緊張感のない様子にクラウドはちょっと不安になるが、それは他の親たちも同じだったようで、「失敗したらどうしましょ」とか、「うちの子、緊張すると頭真っ白になる癖があるのよね」などと言っている。
それを聞いているうちに、クラウドはまるで自分のことのように緊張してきた。動悸が速まり、落ち着かない。
「……あいつら、大丈夫かな」
思わずクラウドがそう呟くと、セフィロスが頭に手を乗せる。いかにもクラウドの心配性に苦笑しているような顔だ。クラウドは頭に乗った大きな手を払うようにして下ろさせた。
「あんた、暢気すぎ」
「お前は人事に心配しすぎだ」
「人事って……自分たちの子供のことだろ」
「子供は子供であってお前ではない。お前が気を揉んだところで、実際に行動するのも結果を出すのも、あいつらだということだ」
言ってる事はもっともだが、なんとなくクラウドは釈然としない。というか、自分よりも過保護なセフィロスに心配しすぎなどと言われたくない。クラウドは不機嫌に睨むと、セフィロスを無視するようにパレードの見える場所へと歩き出した。そのすぐ後ろを黙ってセフィロスがついてくる。
苦笑しているのだろうと思うが、振り向いて表情を確かめるのは癪に障るので知らんぷりで歩きつづけた。
適当な場所で立ち止まると、すぐ後ろでセフィロスが立ち止まる気配。見物客がごった返す雑踏の中でも紛れることのない気配に、不意にクラウはさっきまでとは違う意味で動悸が速くなるのを感じた。
人混みからクラウドをかばうよう立つセフィロスの気配。
かばって貰わないと人混みに紛れてしまうような、もうそんな小さな身体じゃないのに。
クラウドは拗ねた顔で背後を振り返った。
「あんた、いつまでも過保護すぎだ」
「子供はいつかは独立する。それを見据えて、退いて見守る事も大事だ。だが、お前は違うからな」
「かってに人を放り投げてったのは、あんたの方なのに」
「その間の分も含めると、この程度ではまだ足りない」
「今よりもまだ過保護になる気かよ」
「そのつもりだ」
人には聞こえないほどの小さな声で語られる告白に、クラウドはこれ以上拗ねていることが出来なくなった。
「……あんたって我が儘だ」
「オレはこういう男だ。あきらめろ」
セフィロスは笑うと、宥めるようにクラウドの頭に手を置く。クラウドは精一杯いかめしい顔を作ながら、ぶっきらぼうにその手を下ろした。
「こういう子供扱いは嫌だ」
「そのつもりはないが、嫌なら改めるよう努力しよう」
どこまで努力してくれる気なのかは疑わしいが、機嫌が良さそうなセフィロスの笑顔を目にして、それ以上不機嫌でいるのもばからしくなったクラウドは聞こえてきた音楽の方へと目を向けた。
パレードは、伝統の祭り衣装を身に纏い手にした花籠から花びらを散らす若い娘達を先頭に、お揃いの白いシャツに紺のボトムで縦笛を吹く年長の子供達、カボチャケープにタンバリンを鳴らす年少の子供達、最後は大太鼓やギター、アコーディオンを抱えた青年達の順でやってきた。娘達は子供や青年達の演奏にあわせてステップを踏みながら、にこやかに色とりどりの花びらを左右の客に向かって降らせていく。
そしてさらにその後ろには農耕馬や牛、羊等の家畜も続いている。首に付けた大きなベルがカランカランと一緒になって演奏に参加しているようだ。
自然と観客からも手拍子が沸き上がってくる。
そんな時だった。
きょろきょろとよそ見しながら歩いていた子供達の足並みが乱れ、数人が巻き込まれるようにして将棋倒しになったのだ。
驚いた女性達の悲鳴じみた声が挙がった。
「ディ!」
クラウドは口元を抑えて大きな声を出した。
数人の子供達の下敷きになっていたのは、間違いなくディだったからだ。
無事だったフィーが急いでしゃがみ込んだ。
「ディ、しっかり」
そう言って、投げ出されていたディの小さな手を引っ張ろうとする。
「あーーーん……」
ディがもどかしげな声を上げる。上に乗ってしまった子供達は状況がよく判らないのかその上でじたばたしているが、体勢が悪いのか上手く起きあがれない。セフィロスとクラウドは人混みをかき分けながら止まってしまったパレードに近づいた。教師がおろおろと駆けつけてくる。
フィーに覗き込まれながら、一番下で顔を顰めたディは、両手を突っ張らせると一生懸命顔を上げ、そして大きな声を上げた。
「お、もーーーーい!早く、どいて!」
「おもい、おもい!はやく、おーりーて!」
パタパタと手を動かして重いと抗議はしているが、けして苦しがったりしている様子はない。青年達が急いで子供達を助けおこし、上がいなくなって動けるようになったディはフィーに手を借りながら立ち上がると、大人びた口調で言った。
「あー、やれやれ。重かった!」
「ディ、怪我してない?」
「ぜんぜん、してないよーーー」
「ふんじゃって、ごめんねー」
ディの上に重なってしまったリューがそう謝ると、他の子供達も口々に「ごめんねー」「大丈夫?」と口々に言ってくる。
「いーよ。痛いとこ、ないし」
そう答えディはフィーと顔を見合わせ、何が可笑しいのかケラケラ笑っている。
教師が蒼い顔で怪我を調べようとすると、「せんせー、邪魔!後ろ、行って」と背後に押しやり、心配顔の年長者に向かって「ねー、行かないの?僕たち、カボチャさんの歌、歌うんだよ」と訴える。
全然堪えていないディのケロリとした顔に、周囲から好意的な笑い声と拍手がわき起こった。
パレードは再開し、きちんと並び直した子供達はニコニコしながらまたタンバリンを叩いている。人垣の最前列まで来てけろっとした子供達の顔を見たクラウドは、その場に留まっていた。その前を通り過ぎるとき、ディとフィーはにこっとして手を振っている。まるっきり、本当に、アクシデントなど何もなかったように。
クラウドはため息をついて進んでいくパレードを見送ると、隣のセフィロスにだけ聞こえるくらいの小さな声で呟いた。
「……あいつら、たくましいな」
「ん?」
セフィロスが聞き返すと、クラウドはくすぐったいのを堪えているような、そんな顔で笑っている。
「俺ならきっと、転んだ時点で頭真っ白になって立ち往生してたかも知れない。失敗してどうしようって」
言葉を切り、クラウドは視線を落とす。上手く立ち回れず、1人孤立しがちだった自分の子供時代を思い出しているのかも知れない。あんな風に失態を笑い飛ばし、何事もなかったように動き出せる強さがあれば、もっと違う友人関係を築いて行けたんじゃないかと、そんな風に考えているのかも知れない。
セフィロスは軽くその背に手を添える。
「あいつらがたくましくいられるのは、1人じゃないからだ。何があっても、片割れがいる。そしてオレ達がいる。そう信じているから、強くいられる」
力無く自分を見上げるクラウドに、セフィロスは微笑みかける。
「今のお前も同じだ。あいつらもいるし、オレもいる。頭が真っ白になったら、オレ達を頼ればいい」
「……ぬけぬけと言うよな」
クラウドは拳で軽くセフィロスの胸を叩く。相変わらず固い体だ。そして心は以前よりもずっと強かで柔軟になった気がする。
自分も成長しないといけない、とクラウドは思う。いつまでも昔の自分に囚われている訳にはいかない。
「当てにしてるよ」
そう言って、クラウドは笑った。セフィロスは満足そうに微笑んでる。ステージでは子供達の歌が始まった。
パレードのハプニングで緊張が溶けたのか、子供達は全員元気に楽しそうにのびのびと踊っている。踏まれてちょっとよれよれになったケープを翻してディも元気だ。フィーは時々心配するようにディを見ている。目が合うと微笑みあい、くるっと回ってポーズを決める。大きな拍手をもらって子供達は嬉しそうだ。
ステージが終わると、子供達は満面の笑顔で親の元へ駆けよった。
「おかーさん、おとーさん、見てた?」
「僕たち、上手だったでしょ」
クラウドは飛びついてきた子供達を抱きしめた。
「ほんとに、上手だったよ」というと、「やったー」と二人で掌を打ち合わせている。
きゃっきゃっと飛び跳ねる子供達は、その後はケープを着たままカボチャ抱えコンテスト子供の部にチャレンジし、一抱えもある大きなカボチャを頭上に持ち上げるのに成功した。景品のカボチャマドレーヌを無事に獲得して得意そうに見せる。
はしゃいで走り回って、祭りの最後の花火が上がる頃には、フィーとディはクラウドとセフィロスの腕に抱かれて、ぐっすりと眠り込んでしまった。
子供達をそれぞれ腕に抱いて帰路につきながら、クラウドは眠る子供達に愛しさの籠もった眼差しを向けた。
「はしゃぐだけはしゃいで、寝ちゃったな」
「よほど楽しかったのだろうな」
セフィロスも腕に抱いたディの顔、次にクラウドの腕の中のフィーの顔を覗き込んだ。二人とも両手でぎゅっとカボチャマドレーヌの袋を抱いているので、中身はきっと歪んでいるに違いない。
「俺も……こんなにお祭りが楽しいと思ったのは初めてかも知れない」
クラウドが少し照れくさそうに言うと、セフィロスも
「そうだな。オレは、祭りとは面倒で煩わしい物だと思っていた。こうやって楽しむものだと知らなかったな」
「みんな一緒だと、楽しいんだよ」
「そうだな」
セフィロスは薄く笑う。秋の夜はそろそろ冷え込みも厳しくなってくるが、腕の中でぐっすり眠る子供の体温が寒さを感じさせない。
「……次の祭りも、楽しければいいな」
そう呟くセフィロスの横顔をクラウドは見上げた。
白い月明かりの中、少しだけ照れているように見える。
「大丈夫だよ……」
クラウドは低く、そして確信を持った声で囁くように告げた。
「次も、その次のお祭りも、きっと楽しいよ」
「……ああ、そうだな」
月光に照らされる白い夜道。家族一緒に家路をたどる。
規則正しく聞こえる子供の寝息。
傍らを歩くのは、やっと取り戻した大事な人。
胸の奥からこみ上げてくる幸福をクラウドはしっかりと噛みしめていた。