幸せ家族計画 小ネタ

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Ep2

真夏のある日。
朝も早いうちから遊びに飛び出していった子供達が、小一時間もしないうちに帰ってきた。
息せき切って、一目散に納戸に飛び込み、バケツを手に飛び出してくる。
それからリビングに置きっぱなしだった虫取り網をひっつかむ。
最後にキッチンに駆け込み、ばたばたと戸棚を開けている。
その一連の落ち着きのない動作を眺めていたクラウドは、ため息をつきつつ声を掛けた。
「何を、探してるんだ?」
「水筒!!!」
2人同時に叫ぶように答える。その間も戸棚に頭を突っ込んだままだ。


「水筒はこっちだ」
クラウドは食器棚の上から2人分の水筒を降ろしてやった。ぱっと振り向いたフィーが、それを受け取ると同時に急いで水をくみにシンクに走る。
ディがその場で足踏みをしながら、慌ただしく言った。


「おかーさん!!!おやつ、包んで!今日は冒険行くから!!!みんなと外で食べるの!早く行かないと、おいて行かれるから早く!!!」
「……冒険って…置いて行かれるって?」


顔一杯に疑問符を浮かべながらも、クラウドの手は手際よくクラッカーやチーズケーキを包んでいる。
「遠出するなら、弁当があった方がいいか?」
「すぐ出来る?ホント、急ぐの!!」
「ジャムかピーナッツバターのサンドイッチなら、すぐだ。……何をそんなに急いでいるんだ?」
「これ!!!」
眼をキラキラさせながら、ディはズボンのポケットから一枚の紙をとりだした。無造作に突っ込まれてくしゃくしゃになっていたそれを、フィーは両手でピンと引っ張ってみせる。


「……何々?これ、誰が書いたんだ?」
型くずれした手書き文字は、どう見ても子供の字だ。パンをスライスしながら横目で読みづらいそれを読んでみる。


『まぼろしのピカピカカエル探検隊募集!東の森の奥にある池で、ピンクの大きなピカピカオタマジャクシが泳いでいたのを、花摘みに行っていたリュカとパメラが発見!これは、10年に一度現れるという伝説のカエルである!』
リュカとパメラというのは、年中クラスの女の子だ。


ピンクのピカピカオタマという文字になんだか既視感を覚えつつ、クラウドはパンにピーナッツバターを塗っていく。


『伝説によると、ピカピカオタマは八色あって、中でも100年に一度現れる金色オタマは、望みを叶える金色カエルになるという。今ここに、幻の金色オタマを探すために一緒に冒険に行く勇者を募集する。勇気のあるものは、本日、8時半までに広場に集合すること!』


クラウドはバターを塗り終わったパンを重ねながら時計を見た。
ちょうど、8時だ。


「急ぐの、おかーさん!僕たち、絶対に金色オタマ見つけるの!みんなより早く見つけるんだから、絶対に行くの!!」
ディがぴょんぴょん跳ねながら顔を真っ赤にして騒ぐ。


「なるほど、それでバケツや虫取り網か。帽子とタオルは持ったのか?」
重ねたパンをちょうどいい大きさにカットしながらクラウドが言うと、子供達は今までずっと持っていたような顔で、壁際に掛けっぱなしだった麦わら帽子を頭にのせてにこっと笑って見せた。
そして5分後、クラウドが急遽作ってやった簡単な弁当とおやつと汗拭きタオル入のリュック、そして氷水入の水筒をぶら下げ、子供達は帰ってきたときと同じ勢い出かけだしていった。
出がけに、「金色オタマ見つけたら、金色カエルに育てて、お願い叶えてもらうの!」「おとーさんよりおっきくなって、強くして貰うんだ!」と胸を張って宣言する姿に、クラウドはちょっとだけ引きつった笑顔で手を振った。
子供達が慌ただしく出ていき、一息ついたところで、クラウドは背後の気配に気がついた。


「うわ!あんた、いつのまにいたんだ!」


さっきまで姿の見えなかったセフィロスが、背後に壁のように立っていたのだ。
「気がついたのか。前ばかり見ているから、密着するまで気付かないとふんだのだが」
「この暑いのに、密着するなよ」


げんなりした顔でそうこぼすと、夏の暑さなど屁でもない究極の特異体質持ちのセフィロスはおかしそうに笑う。


「……あいつらは何をあんなに慌てていたんだ?金色オタマがどうとか…」
その言葉に、クラウドははっと既視感の正体を思い出した。


「そうだ!金色オタマじゃなくて、ピカピカピンクの大きなオタマジャクシ!」
思わず指さし確認のように人差し指を立てしまう。
「……なんだか、どこかで見たような気がしたんだけど、ピカピカピンクって……あれと違うのか?昔、神羅にいた頃の零号寮の……」
「ああ、そんな事もあったな」


人気のなくなった古い寮の一画で、神羅化学部門が作った失敗作の飼料をエサに繁殖した蛍光色の大きなカエル。たしか、スラムの肉屋に卸される直前に逃げ出したはずだ。


「……ひょっとして、あのカエルが自然界で繁殖してるなんて事、ありえるのかな?」
「さて。一応、検査結果では一代限りで遺伝はしないだろうという事だったが。まあ、化学部門製作の得体の知れない薬品が使われていたのだろうと思えば、何があってもおかしくはないが」
冷静なセフィロスの意見に、クラウドはまたげんなりとなる。


「……やだな。気がついたら、その辺であの巨大蛍光カエルが鳴いてたりしたら」
「フィーとディが喜んでペットにしそうだ」
クラウドは本気で嫌な顔をした。カエル自体はそう嫌いというわけではないが、やはり蛍光色は不気味だ。
そこまで考えて、クラウドはようやく一番重要なことに気付いた。


「なんだか、その蛍光カエル、10年に一度姿を現すとか、100年に一度、金色が生まれるとか、いろいろ伝説が出来てるみたいなんだが。ひょっとして、あれ以前にも蛍光カエルって存在していたのか?」
「いや、オレは聞いたことがない」
明快な返事に、クラウドは呻った。
あの蛍光カエルが誕生したのは、せいぜい10年経つか経たないかといった程度の昔だ。
一体全体どこから、100年に一度なんて話が出てきたのだろう。
大体にして、金色カエルなんて、出典は一体何なのだろうか。尾鰭背鰭がつきすぎて、もう訳が分からないほどにむやみやたらと壮大な話になっている。
変な薬で巨大化蛍光化しただけの、元はただの普通のウシガエルなのに!


真剣に悩むクラウドに、セフィロスは伊達眼鏡を指先で押し上げながら、密かに含み笑いをする。
子供達はあの調子なら夕方まで戻っては来ないだろう。
久々に朝からベッドに連れ込んでやろうか、などと不埒なことを考えるセフィロスに無防備な背を晒し、クラウドは今ひとつ納得のいかない顔でため息をつく。


都市伝説誕生の瞬間に立ち会った気分だった。





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