仮名文字を閉曲線の有無で二つに分ける、すなわち文字を図形としてとらえるという意表を突いた発想に脱帽。誤字が解読の手がかりとなっているところもよくできていますし、(“Originated by T. Awasaka”(234頁)で思わずニヤリとさせられる)「消えたドクロ」がヒントになっているのもうまいところです。惜しむらくは、本書(創元推理文庫)の活字が“本来閉曲線を持っていない、や、も、わ、ふ、などの字が、筆の勢いのために閉曲線を生じてしまう”(285頁)というそのまま(*)で、本書の中では暗号が成立していないのが残念。
解読された内容があまりにもあからさまな告白になっているのには驚かされますが、逆にいえば“池銃”にとってはそれほど切実だったということでしょうし、それを強調する何とも不気味な結末も印象的です。