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ロープとリングの事件/L.ブルース

Case with Ropes and Rings/L.Bruce

1940年発表 小林 晋訳 世界探偵小説全集8(国書刊行会)

 まず、真田啓介氏の解説でも“ビーフを事件に介入させるための作者の苦しい便法か”(解説300頁より)と指摘されていますが、第一の事件でジムの鍵が発見されなかったにもかかわらず、警察が自殺と判断しているのはかなり無理があります。ジョーンズが持っていた鍵を学校のジムのものと読者に誤認させるという作者の仕掛けを生かすためには、校内のジムの鍵が見つからなかったという状況は動かせないとは思いますが、そのためにこれほどの無理を生じてしまうのは本末転倒でしょう。

 さて事件の真相ですが、グリーンバウがアラン殺しの犯人だったというのは、残念ながらあまり意外ではありませんでした。フリーダの証言する“謎のよそ者”の容貌がグリーンバウとしか思えないからです。
 犯行の動機は確かに意外なものでしたが、これについても不満があります。この事件はいわゆる“交換殺人”とは似て非なるもので、動機がないと思われていたところに隠された動機があった、というのがポイントとなるはずです。しかしながら、アランとグリーンバウの間にはボクシングという接点があり、グリーンバウがアランにマネージメント契約を持ちかけ、そこでトラブルが起こったのではないかという推測が成り立つのではないかと思います。そのため、別の動機が明らかにされてもその意外性が半減してしまうように感じられます。さらに言えば、グリーンバウが金貸しのスタインバーグだったことを裏付けるのはほとんどビーフの説明しかなく(しいて挙げればドイツ系の名前だということもあるでしょうか)、あまり説得力が感じられません。
 一方、ビーチャー殺しの犯人がジョーンズだったというのは意外でしたが、こちらはさらに伏線が乏しく、説得力を欠いていると思います。
 結局、意外な真相ではあるものの、個人的には大満足とまではいきませんでした。

2001.08.03読了