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五色の雲/R.ファン・ヒューリック

Judge Dee at Work/R.van Gulik

1967年発表 和爾桃子訳 ハヤカワ・ミステリ1763(早川書房)

 一部の作品のみ。

「五色の雲」

 狄判事は、侯{ホウ}“置いて出て、わずか二、三時間で!”(14頁)という言葉を決め手としていますが、これは“置いて出てから訃報を耳にするまでのわずか二、三時間の間に”という意味にもとれるのではないでしょうか。そう考えると、この言葉だけで直ちに侯が夫人の死亡時刻を知っていたとは言い切れないようにも思います。

「赤い紐」

 殺人のトリックを明らかにする文字通りの“赤い紐”に加えて、もう一つの“赤い紐”(お役所仕事)が事件の背景につながっていくという、“手がかりのダブルミーニング”ともいうべき趣向が非常に面白いと思います。“超人技”系のトリックはいかがなものか、とも思いますが、手がかりとの絡みはよくできています。

「化生燈」

 138頁で狄判事が口にした“蕙蘭”という名前が、一体どこから出てきたのか気になっていたところ、訳者の和爾桃子氏から“蕙蘭”の由来についてのメールをいただきました(どうもありがとうございます)。以下、その一部を許可を得て転載しておきます。

「蘭」という字は本来「ふじばかま」であり、orchidを意味しません。
「蕙」または「惠蘭」で、香り高い蘭を意味します。「蘭」も「蕙」も、詩経の昔から香草として匂い袋に入れて身におびるならわしがありました。そこから、以下の意味合いが生まれてきます。

・徳や文雅の象徴
・貴人の寵愛(宋文公の故事にもよる)

前者の意味合いで、文人画にも好んで描かれます。
手がかりとなった文人画のほか、香り高い蘭の鉢を多く所有していたこと、「才はじけた美貌」で「文人筋のひいき客が多かった」ところから、蘭蘭でなく惠蘭と名づけた次第です。
なお、訳出にあたって、女名前は唐代―明代までの俗文学およびその英訳を参考にした上で決めておりますが、惠蘭は迎春と同じく「金瓶梅」の登場人物から採りました。

 というわけであの場面は、蘭にちなんだ愛称で呼ばれていたのではないかと考えた狄判事が、蓋然性が高そうな(比較的ポピュラーで、本人の雰囲気に合っている)名前を挙げてみた、ということのようです。

「西沙の柩」

 殺人事件の真犯人は見え見えですが(他に候補もいませんし)、その動機が何ともいえない印象を残します。

2005.01.25読了