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白夫人の幻/R.ファン・ヒューリック

The Emperor's Pearl/R.van Gulik

1963年発表 和爾桃子訳 ハヤカワ・ミステリ1789(早川書房)

 まず、物語序盤で紛失し、後になって思わぬ形で使われたことが発覚する骨牌ですが、どのようなものかよくわからなかったのが残念。何となく麻雀牌程度の大きさのものを想像していたので、通行鑑札(というからには、もっと大きな札のようなものでしょう)とは結びつきませんでした。しかし、その骨牌を狄判事のもとから盗んでいく機会の有無という手がかりはまずまず。特に、黒幕である楊には機会がなかったところがよくできています。

 狄判事が、(骨牌を盗む機会があった)容疑者である寇・卞・匡の三人を集めて対決する場面、木彫りに代わる別の“白い手”の登場によるサスペンスは見事ですし、その手の主である金蓮夫人の告発は強烈な印象を与えます。また、木彫りの手を動かしていたの働きも見逃せないでしょう。これらが相まって、鮮やかな演出効果を上げているところが秀逸です。

 狄判事の解決はおおむね妥当だと思いますが、気になるところが一点。“ひとつの大理石から台座ごと彫り上げたのははるか漢代だそうです。台座手前の方形祭壇も大理石で(後略)(92頁)という楊の台詞では、“台座と祭壇がべつべつだと知っていた”(149頁)と言い切るにはやや微妙に思えます。確かに別物だというニュアンスにも受け取れるのですが……。

 狄判事がでたらめだと断言していた皇帝の真珠が、最後に発見されるのはお約束というべきでしょうか。そして、再三“鳩の卵”と形容されていた真珠が、本当に小鳥の巣に隠されていたという真相には、やはり苦笑を禁じ得ません。しかしそれによって琥珀夫人の不貞の疑いが晴れたのがせめてもの救いです。

2006.07.13読了