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未来方程式 ―fate equation―/神世希

2011年発表 講談社BOX(講談社)

 前作『神戯 ―DEBUG PROGRAM―』で、神薙探偵事務所――神薙劉とトーマの“役割”はすでに明らかにされていますし、箱のあらすじでも初音未来が予知能力を持つことがはっきりと謳われています*1。そして物語中盤、神薙劉が“彼女は(中略)真正の予知能力者だ”(337頁)と断言することで、初音未来の未来予知が“本物”であることは確実といってもいいでしょう。

 にもかかわらず、そこから予言をテーマとした“普通のミステリ”――超自然的要素のないミステリ――さながらに、“100%的中する予言”を成立させるための(初音未来自身は意図しない)トリックが次々と解明されていくのが面白いところ。“後から予言を捏造する/予言に合わせて事件を起こす”というトリックそのものは、予言を扱ったミステリとして新奇なものとはいえませんが、“本物”とトリックが混在してどこで線が引かれるのかまったくわからない状況はユニークだと思います。

 予言を人為的に成就させた事件にしても単純ではなく、ウェブサイト「The Revelations」のメンバーによる犯行に“便乗殺人”を組み合わせる工夫が凝らされています。連続絞殺事件の被害者の“不連続性”から、“便乗殺人”であることは見当がついてしまうとはいえ、アキバ署の“身内”の犯人という真相に、“男の娘”トリック(?)まで仕掛けてあるところなど、なかなか見ごたえのあるものになっています。また、最初の三人の被害者である女子高生についても、その腹部にあった“痣”という共通点から健康診断を行った医師に着目する推理は秀逸です。

 一方、スカイツリーの倒壊を示唆する最後の予言に対して、神薙劉とトーマがとった豪快すぎる対策も大きな見どころ。大がかりなフェイクを仕掛けてテロリストを騙すトリックには前例*2もありますが、本書ではグローバルな時代らしいスケールの大きさが特筆ものですし、“そのとき、セカイは毎時一〇秒の速さで加速していた。”(406頁)から始まる「Interlude」の、わけのわからない大風呂敷としか思えない記述(苦笑)がその伏線となっているところに脱帽です。

 予言のトリックが次々と暴かれた上に、最後の予言も食い止められたことで、初音未来の能力に関して疑問符が浮かぶのは否めませんが、その能力が未来予知だけでなく“未来創造”でもあるとされ、ある種の曖昧さが導入されていることによって、何となく丸め込まれてしまうところもあるように思います。……と読者を油断させておいて、わざわざ奥付より後に配置した「Interlude」で“裏の結末”をつける趣向がお見事。とりわけ、予言の中の“幾人”を“イクト”と読ませる*3などして、それまでとはまったく違った解釈――“摩天楼が折れる夢を見るだろうが実に巧妙――を成立させているところがよくできています。

 ところで、作中に三度登場する最後の予言が、以下のように微妙に違っているところが少々気になるのですが……。

 ソレハ今年三七五六hメの運命
 鉄ノ翼ガ空カラ舞い降リテ
 アナタは摩天楼が折レル夢ヲ見るダロウ
 宙ヲもがく幾人ノ影
 チに臥したソノ亡骸ハ
 最後ニ朱イ花ヲ咲かせるダロウ
  (295頁)
 ソレハ今年三七五六時間メノ運命
 鉄ノ翼ガ空カラ舞イ降リテ
 アナタハ空樹ガ折レル夢ヲ見ルダロウ
 宙ヲモガク幾人ノ影
 血ニ臥シタソノ亡骸ハ
 最後ニ朱イ花ヲ咲カセルダロウ
  (409頁)
 それは今年三七五六時間目の運命
 鉄の翼が空から舞い降りて
 アナタは摩天楼が折れる夢を見るだろう
 宙をもがく幾人{イクト}の影
 血に臥したその亡骸は
 最期に朱い花を咲かせるだろう
  (524頁)

 実のところ、“一度目”(295頁)からして、初音未来が自分の口で語ったと思われる予言との間には区切りを設けて区別してあり、他の二度も含めていずれも初音未来の予言そのままの形ではないとも考えるので、あまり突っ込んでも仕方ないかもしれません。

 それにしても、前作に登場した佐倉優希が、本書の結末(の一つ)でようやく神薙探偵事務所にたどり着き、佐久良優樹との対面を果たしたのが感慨深いというか(苦笑)。次作がまた楽しみです。

*1: 箱には、“未来予知能力を持つ謎の少女、初音未来。「絶対に外れない」脅威のチカラで運命の歯車すら創り出してしまう彼女は(後略)とあります。
*2: 他にもありそうですが、私が連想したのは1970年代の国産冒険/謀略小説((作家名)田中光二(ここまで)(作品名)『爆発の臨界』(ここまで))です。
*3: 宮沢テンコ視点のパートでは一貫して鳴海少年の名前は“イクト”と表記されていますが、作中で一箇所だけ“鳴海幾人(264頁)と書いてあるのが周到です。

2012.02.06読了