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推定相続人/H.ウェイド

Heir Presumptive/H.Wade

1935年発表 岡 照雄訳 世界探偵小説全集13(国書刊行会)

 この作品は、主人公の犯行計画とその実行を描く倒叙ミステリであったはずが、途中で主人公の予期せぬ事件が発生し、最終的には主人公が他者の掌で踊らされていたというところがポイントになるわけですが、個人的にはどうしても物足りなく感じられてしまいます。一つの理由としては、ラストが謎の解明ではなく真相の単なる提示に終わってしまっていることが挙げられるでしょう。しかもその真相が見え見え(ヘンリー・カーの言動、特に176頁の台詞などは、見るからに怪しすぎです)だというところも残念です。

 ネタバレなしの感想で挙げた“ある日本人作家の作品”とは、岡嶋二人『あした天気にしておくれ』です(未読の方はぜひお読みになって下さい)。本書と同じく倒叙形式で幕を開けながら、何者かの介入によって予想外の事態に遭遇するという展開の作品ですが、明らかにこちらの方が本書よりもよくできています。最大の理由は何といっても謎解き(“真犯人”探し)の要素が加わっていることですが、さらにもう一つ見逃せないのが誘拐事件であることです。現在進行中の誘拐事件に正体不明の“真犯人”が介入することで、弱みを握られて協力を余儀なくされる主人公(=最初の犯人)の緊張感は全編を通じて維持されています。これに対して本書では、上位相続人の排除という大きな計画はあるものの、それぞれの殺人は個別の事件であるわけですから、デズモンドの死後、手を下さなかった主人公ユースタスの緊張感は明らかに落ちています。つまり、デズモンド殺しに関しては倒叙形式から完全に逸脱しているのです。

2002.03.09読了

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