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未来警察殺人課/都筑道夫

1979年発表 徳間文庫103-4(徳間書店)『未来警察殺人課[完全版]』創元SF文庫733-02(東京創元社)
「人間狩り」
 “人間狩り”という題名から、狩猟クラブで何が行われているかは見え見えですが、社長のサトウとホテルのマネージャー・ムラバのつながり、ひいては水沢が(“人間狩り”を告発しようとしただけでなく)肉の味に気づいたために口を封じられた、というあたりが面白いところです。
 殺されたムラバがテレパシストだったことが手がかりとなり、より強力なテレパシスト――ケニア警察三課のラピアが犯人という最後の真相が導き出されるところが、なかなかよくできています。

「死霊剥製師」
 最後の真相につながるはっきりした手がかりはありませんが、星野が指摘しているように“高輪刑事”の説明がうさんくさいのは確か。派手な人体解剖ショーとアクションを目隠しにして、ショーで使われていた人間そっくりアンドロイドの存在が伏線*1となっているのがうまいところです。

「空中庭園」
 自分自身への殺意という真相は、ひねってはあるものの、いささか物足りなく感じられるのは否めません。犯人探しならぬ被害者探しとはいえ、犯人探しにおける〈被害者が犯人〉という真相が念頭にあれば、〈犯人が被害者〉は単に“攻守”を入れ替えたにすぎないわけで、さほど意外なものとはいえないでしょう。
 一方、殺したい相手を機械が検知するのではなく、自らスイッチを入れることによって作動するという仕掛けにはやや脱力を禁じ得ませんが、標的が自分自身だったことを考えれば妥当といえるのかもしれません。

「料理長{シェフ}ギロチン」
 “何が起きているのか?”がこの作品の見どころで、星野が窮地に追い込まれたところで明らかになるラダッツ係長の計画――標的の金森を囮として殺人課の刑事を呼び寄せ、麻薬取引の隠蔽に利用する――は巧妙です。武器を持たない相手を攻撃できないという、三課の刑事に課せられた制約がうまく扱われているのも見逃せないところです。
 途中で受け取った麻薬のカプセルを使った、星野の鮮やかな逆転劇もお見事。

「ジャック・ザ・ストリッパー」
 ここまでの作品では原住民の扱いがあまりよくなかったので、この作品でややバランスを取ろうとしたのかもしれませんが、原住民の復権運動というネタは面白いと思います。そして、殺人課の存在を世間に知らせるために復権運動を利用するという黒幕――チェンバレン課長の計画は、非常に秀逸です。
 テレパシストのトレーシイが星野を制止しようとしたのはもちろんのこと、やけにジャックを射たせようとするチェンバレンの不自然な態度も大きなヒントとなっており、“殺人課の存在を、世間に知らせてやれ”([完全版]212頁)という決定的な一言を待つまでもなく、チェンバレンが黒幕であることは明らかでしょう。また、拡声機の声がチェンバレンに名指しで呼びかけている([完全版]211頁)ことが、復権運動グループとチェンバレンのつながりを示唆する手がかりになっていると思います*2
 ただし、“グリーン博士を見殺しにできるかどうか?”*3という布施博士の思考を殺意ととらえてしまうのは、いささか無理があるのではないでしょうか。

「氷島伝説」
 奇妙な事件から宝探しへとつながっていく展開は面白いと思いますし、政府側の人間と革命グループの衝突を回避する星野の解決策も印象的です。

「カジノ鷲の爪」
 二転三転の末に、首謀者がクレンペラーなのか“マスキリン”なのか、そして“マスキリン”が本物なのか偽者(佐伯)なのか、まったく判然としない困った状況になっているのが面白いところ。しかし星野としては、真相の如何に関わらず至極シンプルに、クレンペラーを衝撃銃で撃った“マスキリン”を“処分”――という具合に、リドルストーリー風の状況を一刀両断する“解決”が実に鮮やかです。

*1: “高輪刑事”の体が“麻酔状態だから、やけに重い。”([完全版]83頁)というのも、アンドロイドであることを示唆する伏線といえるかもしれません。
*2: なぜか作中では言及されていませんが、これがなければ“あなたがたは、チェンバレン氏に、利用されていた”([完全版]212頁)という結論までは至らないはずです。
*3: 布施博士が“英語で考えていた”([完全版]185頁)のならば、なおさらでしょう。

2002.08.13再読了
2014.04.11[完全版]読了 (2014.04.21改稿)

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