死なない生徒殺人事件/野﨑まど
まず、“死なない生徒”識別組子を殺害した犯人については、かなり見え見えといっていいでしょう。やはり死体の首が切断されていたのがポイントで、作中でも簡単な“首斬り講義”(*1)が行われていますが、被害者の特異性を考えれば“どうやって生き返るのかを試した”
(172頁)という理由に思い至るのは容易で、そうすると読者としては(もともと容疑者が限られていることもあって)犯人は天名珠以外には考えにくいものがあります。
とはいえ、首斬りの理由だけでは伊藤と天名のどちらが犯人か特定できない中、識別が二人に仕掛けた“死なない生徒”ならではの豪快な罠は、単純ながら効果的(*2)。それに対して、罠にかけられた天名の方も意外に(失礼)抜け目のない罠を仕掛けるという、コン・ゲーム風の謎解きが非常に面白いと思います。
一方、“永遠の命”の真相は、別人であるはずの可愛求実が“識別組子”として登場し、なおかつ“識別組子”が殺害された際の記憶がないことが示された時点で、ある程度までは予想できなくもありませんが、それを実現する手段――“教える”という真相には驚愕。具体的にどうするのかが一切示されないのはあざといといえばあざといところですが(苦笑)、作中でも言及されている有賀先生の言葉もさることながら、冒頭の“俺は、“人にものを教える”という事を、舐めていたのだ。”
(6頁)という伊藤の述懐までが“思わぬ伏線”となってくるのに脱帽です。
最後に明らかにされる“もう一つのホワイダニット”、すなわち“なぜ人を殺してまで永遠の命の正体を知ろうとしたのか”の真相はさらに秀逸で、取り出された心臓(*3)から、識別と友達になることへのこだわり、“アライグマと友達になる”のアナロジー、さらには天名の度外れたずれっぷりまでが、すべて“思わぬ伏線”として一つにつながってくるのが圧巻。そして、作中に再三登場した“四角形と五角形の間の図形”が、一つのシンボルとして最後に効果的に使われているのが見事です。
もちろん、《本物》の不死は冒頭の“命の定義”には合致しない、いわば“卓袱台返し”のオチともいえますし、現実的に考えれば“飛び降り自殺”した天名の“死体”は何らかの“後始末”(例えば火葬)がなされるはずですから、そこからの“復活”は相当無理があると思われますが、これもまた“永遠の命”の真相と同様に、“思わぬ伏線”のつながりによるサプライズと腑に落ちる感覚とでうまくカバーされている感があります。このような伏線の使い方が、本書の大きな見どころといえるのではないでしょうか。
*2: ただし、“死なない生徒”とはいってもそれぞれの個体が不死だというわけではないのですから、個体としての可愛求実がどのようにして“殺される”ことを受け入れたのか、少々気になるところではあります。
*3: “行方不明になった豊羽馬高校の女生徒”が、ミスディレクションとしてうまく使われているところも見逃せません。
2010.10.27読了