ゐのした時空大サーカス/山田正紀
1989年発表 (中央公論社)
登場人物たちの関係が少し複雑なので、整理してみます。
- 「オープニング」 (健一)
- 小学校三年生の時に、ピエロにサーカスの切符をもらう。健一には兄がいる。母方の祖父は自宅で鶏を飼っている。
- 「パレード」 (“ぼく”)
- 別れた友人(によく似た男)との再会。男は声を上げて手を振る。
- 「火の輪くぐり」 (健一)
- 小学校三年生の時に見たサーカスで、金時計を手渡された男の思い出。それから三十年近くが過ぎ、街で見かけたピエロに向かって声を上げ、手を振る。
- 「空中ブランコ」 (“ぼく”と“K”)
- 食品会社に勤める四十代後半のサラリーマン・“K”は、九歳の時にピエロにもらった動かない金時計に、人生を狂わされたと思いこんでいる。責任を感じ、九歳の“K”から動かない金時計を取り戻そうと決意した“ぼく”は、“K”の人生に飛びこみ、サーカスの舞台に上がった九歳のKに、動かない時計ではなく動いている時計を手渡す。
- 「パントマイム」 (第三者)
- 第三者の視点。
- 「綱わたり」 (健一)
- 中学生の時に、再びゐのした大サーカスを見に行く。
- 「猛獣つかい」 (“ぼく”)
- 猛獣つかいの思い出。食品会社に勤める三十八歳のサラリーマン・“K”の人生を想像する。
- 「魔術」 (健一の兄?)
- 四十二歳のシナリオライター。食品会社に勤める弟がいる。子供の頃、ゐのした大サーカスを見たことがある。自宅で鶏を飼っていた母方の祖父の思い出。
- 「マチネ」 (健一?)
- 小学校三年生の時に家出をして、ゐのした大サーカスについて行こうとする(夢? 家出をしたのは事実だが、記憶は定かではない)。サーカスについて行った、見知らぬ双子の兄弟(もう一人の自分)。転職の決断をする。
- 「フィナーレ」 (健一と“ぼく”)
- 健一は転職した。
こうしてみると、まず「パレード」で“ぼく”が出会った男は健一であると思われます。また、「魔術」の視点人物は健一の兄であり、「マチネ」の視点人物は健一である可能性が高いのではないでしょうか。
逆に、「空中ブランコ」の“K”は、健一ではないのではないかと考えられます。「火の輪くぐり」では、九歳のときにサーカスを見に行った健一は舞台には上がらず、金時計を手渡されてはいないからです。“ぼく”は9歳の“K”に、動いている金時計を渡しているので、「火の輪くぐり」の健一の記憶が、「空中ブランコ」で“ぼく”が過去を改変した結果であるとも考えられません。
2000.08.08再読了