雨の恐竜/山田正紀
2007年発表 理論社ミステリーYA!(理論社)
物語の発端となった浅井先生の死が中心となるのかと思いきや、死因そのものはうやむやになってしまうという肩すかしぶりが、どことなく山田正紀ならではの“味”というか。
というわけで、重点が置かれているのは恐竜の足跡の謎ですが、合理的に解体されるのは当然としても、被害者自身によるものだったという真相はそれなりに意表を突いたものだと思います。
そして、外れた踏み板という手がかりの解釈によってロープの切断された向きが逆転し、“恐竜の無実”が証明されるというロジックがなかなか面白いと思います。吊り橋の他の部分に足跡が残されていたことが、外れた踏み板の足跡も表側に残されたものだという誤認を誘うことになったのも、十分に納得できるところです。
さらにその恐竜の足跡こそが、二十年前の事件を含めたすべての発端だったという構図が面白いと思います。また、そこに佐伯先生・勇魚レイコ・榛名美由紀という、少女三人組のそれぞれに関わりの深い人々が絡むことで、少女たちの視点からは真相が見えにくくなっているところがよくできていると思いますし、最終的に“通過儀礼”としての偶像破壊(もしくは“親殺し”)につながっている点は、少女時代との決別というテーマとミステリ部分とを強固に結びつけるという意味で秀逸です。
自身はいざ知らず、少女たちの視点からみれば強烈に“お呼びでない”雰囲気の漂う謎解き役、“君音{クイーン}”の扱いには苦笑を禁じ得ませんが、このあたりは謎解きそのものよりも“その後”を重視している感のある山田正紀らしいと思います(実際、以前にも『花面祭』で似たようなことをやっていますし)。
2007.03.17読了