オフェーリアの物語/山田正紀
2008年発表 理論社ミステリーYA!(理論社)
- 「顔なし人形の謎」
- 真相の中心となっているのは、与吉と芦名宗助の入れ替わりという典型的な“顔のない死体”トリックで、そこに様々なミスディレクションが仕掛けられているのですが、芦名宗助の最期の言葉と竹刀ダコは少々あざとすぎるのではないでしょうか。前者については、
“自分をこんなめにあわせたのは誰か”
(178頁)と問われたつもりで“与吉”と答えたのであれば、その後に“人形にやられた”と答えているのは矛盾しているように思われます。また後者については、影華が“老爺”(与吉)の手を見て“竹刀ダコがあるように見えた”
(93頁)というのはやりすぎでしょう。
小春の顔までが切り裂かれていたことが“顔のない死体”の状況を複雑にしているところは面白いと思いますが、芦名宗助の仕掛けようとしたトリックが不発に終わったという真相は、やや物足りなく感じられるところです。
一方、水銀朱が漆青伊の顔と紙雛を赤く染め、さらに美里の命までも奪ったという真相は印象的。十分な手がかりが示されていないのは残念ではありますが。
- 「落ちた人形の謎」
- “人間”が人形に変わるトリックはどこかで見たような気がするのですが、思い出せません。また、エドガー・アラン・ポー「モルグ街の殺人」の細かいところはすっかり忘れてしまったのですが、“サルの声がフランス語に聞こえた”というのは、オマージュなのでしょうか。
- 「消えた人形の謎」
- 作中で言及されている
“千波阿古十郎”
(360頁)は久生十蘭『顎十郎捕物帳』ではないかと思われるのですが、正しくは“仙波阿古十郎”のようです。単なる間違いなのでしょうが。
結末でリアとオフェーリアが別れてしまったのには驚かされましたが、次作「オフェーリアのつづきの物語」はどうなってしまうのでしょうか。「理論社ミステリーYA! ラインナップ・刊行予定」を見る限り、本書ではさほど重要な役割を果たしているとはいえないミシェル少年が主役となるようにも思われますが……。