郵便配達は二度死ぬ/山田正紀
1995年発表 (徳間書店)
“君島”(篠田)、“早瀬邦夫”(志村)など、登場人物たちの“なりすまし”が多く、必要以上にわかりにくくなっている部分もあります。例えば“君島”(篠田)などは不要ではないでしょうか。
しかし何といっても〈マンション小井思坂〉の“緒方貞子”・“楠本夫婦(二人)”・“佐々木親子(二人)”・“日暮一家(四人)”(日暮“一家”(四人))という“なりすまし”には驚かされました。各章の冒頭にあるモノローグ(第一章:日暮夫人、第二章:日暮家の息子、第三章:管理人・緒方貞子、第四章:日暮、第五章:佐々木家の母親)も、本人たちの思いこみもあって見事なトリックになっています(特に第一章・第三章・第五章)。そして、彼らがそうしなければならない理由にも、十分な説得力があります。
童話に隠された暗号といえば、泡坂妻夫「掘出された童話」(『亜愛一郎の狼狽』収録)という例がありますが、本書の暗号もこれに負けず劣らずの労作です。作中で瑞枝は「ちょっと考えれば誰にも解ける暗号なんだよ」
(255頁)と言っていますが、そう簡単に解けるものではないでしょう。何より、しんありさへ宛てたラブレターでありながら、邦夫自身、解かれることを期待していないように思えます。届くことが期待されていない哀しいラブレターには、暗号という手段は最適ともいえるでしょう。
それにしても、特に横向きになった数字などは、編集者に校正されてしまうのではないでしょうか。
2000.09.24再読了