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妖女のねむり/泡坂妻夫 |
1983年発表 新潮文庫あ23-1(新潮社) |
発端となっている、樋口一葉の未発表原稿をはじめとした様々な“贋作”の謎――静明塾での芸術家たちの“転生”は、それ自体が非常に興味深いものがありますし、静明塾とは直接関係のない西原康介による葛飾北斎の贋作が、結果的にそれを補強することになっているのがうまいところです。 一方、西原牧湖と平吹貢一郎の“心中”事件は、活性炭を使ったトリックにはどこか既視感がある(*1)ものの、二重三重に施された偽装によって様相が変転していくところがよくできています。そしてその中で、西原康介が北斎の絵を思い出しながら牧湖の顔に“死化粧”を施したというエピソードが、何ともいえない印象を残します。 それらの謎は、本書の“解決篇”にあたる「第五章 幻世の思い」の前半部分で解き明かされている――というよりもそれぞれの“犯人”の口から語られているのですが、“解決”のようでいて実はそれ自体が“発端”だったという事件の構図が秀逸で、西原家にようやく訪れた“大団円”が突如として暗転する展開がスリリングです。 最初に事件の犯人が明らかになり、その壮絶な最期――“妖女”がついに迎えた“ねむり”――を経て、ハウダニットやホワイダニットを包含したホワットダニットが焦点となる解決の手順は型破り気味ですが、事件の真相を印象づける上では非常に効果的。長谷屋麻芸を対象とした人為的な転生は細かいところまでうまく説明されていますし、一見すると不条理きわまりない“なぜ麻芸が殺されなければならなかったのか”が、“輪廻転生”の思想を極端に推し進めた結果(*2)としての特異なロジックで説明されているところがよくできています。 “現実”の麻芸に“幻想”(前世)の牧湖が重ね合わされていた物語前半とは対照的に、ついに真一が牧湖と“運命的”な邂逅を果たした結末では、“現実”の牧湖に“幻想”(死者)の麻芸が重なり合い、一際強い印象を残しているのが実に見事です。 2000.05.29再読了 2010.01.09再読了 (2010.02.01改稿) |
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