一代和平風掃沙,
海天雷雨鬪龍蛇。
舊潮垂死碧城血,
大地重生春是家。
小住巴山盟菊竹,
待還瀛州醉櫻花。
臨流共誓同舟志,
東海晨開萬丈霞。
******
在華日本人民革命同盟會の成立周年紀年の爲に 詩に題す
一代の 和平は 風 沙を掃くがごとく,
海天の 雷雨は 龍蛇 鬪はすがごとし。
舊潮 死に 垂(なんな)んとして 碧城の 血,
大地に 重ねて生ず 春は是れ家。
小(しば)し 巴山に 住(とど)まり 菊竹を盟(とも)とし,
待ちて 瀛州に 還り 櫻花に醉はん。
流れに 臨みて 共に誓ふ 同舟の志を,
東海 晨(あした)に開く 萬丈の霞(あさやけ)。
*****************
◎ 私感註釈
※老舎:現代中国の小説家、劇作家。1898年暮〜1966年8月23日。本名は、舒慶春。北京市西城区護国寺附近の小羊圈胡同に生まれる。それ故、作品は北京を舞台としたものが多い。最期は、文革発動の初期である66年の8月23日、屈辱の内に北京の太平湖で投身自殺した。
※爲在華日本人民革命同盟會成立周年紀年題詩:1941年・昭和十五年7月の作。当時の延安等にあった日本人の反戦組織か。「在華日本人民革命同盟會」の成立周年記念ということなので、当該団体は40年の夏に成立したことになる。 ・在華:中国在住の。中国にある。在中華。 ・周年:満一周年。 ・紀年:記念。 ・在華日本人民革命同盟會:鹿地亘や野坂参三が参劃した在華日本人民反戦同盟のことか。
※一代和平風掃沙:一代の平和の気運は、沙粒のように吹き飛ばされてしまい。 ・一代:同一世代。代。 ・和平:平和。 ・風掃:(勢いよく)吹き払う。吹き飛ばす。 ・沙:砂。
※海天雷雨鬪龍蛇:海上の空では、雷雨が龍蛇を闘わせるが如き混迷した様相を呈してきた。 ・海天:海上の空。海と天。 ・雷雨:雷の伴う雨。ここでは、険しい状況をいう。 ・鬪:たたかう。 ・龍蛇:隠居している者。優れた者。龍と蛇。
※舊潮垂死碧城血:旧時代の潮流は、死に瀕して、城内の血を忠義の碧血とした。或いは、旧時代の潮流は、死に瀕して、仙人の居る城も血にまみれた。或いは、旧時代の潮流は、死に瀕して、碧血の志をもった壮士(反戦人士)は、奮い立った。 ・舊潮:古い思潮。旧時代の潮流。 ・垂死:死に瀕している。死になんなんとしている。 ・碧城血:城内の血を忠義の碧血とした。或いは、仙人の居る城も血にまみれた。或いは、碧血の志をもった壮士(反戦人士)は、奮い立った。 ・碧:忠義の碧血とする。「碧城血」は、下句の「春是家」と対になるので「春是家」が「春・是家」となるため、「碧城血」は「碧・城血」とすべきだろう。或いは「碧城・血」「春是・家」ともなるか? ・城血:城内の血。 ・碧城:仙人の居る城。或いは、碧血の志をもった壮士。
※大地重生春是家:大地にこの家に春を齎す再び巡ってきた。 ・大地:大地。 ・重生:再び巡ってきた。 ・春是家:この家に春を齎す。 ・春:春にする。動詞の用法。 ・是家:この家。
※小住巴山盟菊竹:(反戦日本人は)巴山の根拠地に暫し留まって、中国の自然を友として過ごし。 ・小住:暫し留まる。 ・巴山:四川東部の山。後出「瀛州」と対にしている。 ・盟菊竹:中国の自然の菊や竹を友として過ごす。或いは、菊が象徴する日本と、竹が象徴する中国の同盟を謀り。ここは、この聯の構成から見る限り前者の意。「小住巴山(暫し中国に留まって)盟菊竹(菊や竹を友として過ごし),待還瀛州(日本に帰るのを待って)醉櫻花(桜花に酔い痴れよ)。」
※待還瀛州醉櫻花:日本に帰還するのを待って機会を得て、日本の桜花爛漫たる春を堪能されよ。 ・待還:…に帰るのを待って。に帰る機会を窺って。 ・瀛州:日本を指す。 ・醉櫻花:日本の春を堪能する。
※臨流共誓同舟志:時代の流れに面して、同じ立場の者同士、互いに助け合うことを、共に誓う。 ・臨流:川の流れに臨んで。時代の流れに面して。 ・共誓:共に…しよう。 ・同舟志:利害を共にする。同じ立場に置かれた者同士が、互いに助け合う。「同舟共濟」の意。
※東海晨開萬丈霞:日本に朝が来て、万丈の朝焼けになることだろう。 ・東海:日本を指す。 ・晨開:朝が来る。夜が明ける。日本革命成就の暁のことでもある。 ・晨:朝。 ・萬丈霞:一面の朝焼け。 ・霞:朝焼け。
***********
◎ 構成について
作品全体の韻式は「AAAAA」。韻脚は「沙蛇家花霞」で、平水韻下平六麻。この作品の平仄は次の通り。
●●○○○●○,(韻)
●○○●●○○。(韻)
●○○●●○●,
●●○○○●○。(韻)
●●○○○●●,
●○○●●○○。(韻)
○○●●○○●,
○●○○●●○。(韻)
2003.8.23完 9.19補 2009.7.19 2010.1. 6 |
トップ |