上國隨縁住,
來途若夢行。
浮天滄海遠,
去世法舟輕。
水月通禪寂,
魚龍聽梵聲。
惟憐一燈影,
萬里眼中明。
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僧の 日本に歸るを 送る
上國 縁に隨りて 住み,
來る途は 夢の若き 行。
天に浮かびて 滄海 遠く,
世を去りて 法舟 輕し。
水月 禪寂に 通じ,
魚龍 梵聲を 聽く。
惟(た)だ 憐む 一燈の影,
萬里 眼中 明し。
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◎ 私感註釈
※錢起:722年〜780年。中唐の詩人。
※送僧歸日本:日本に帰る僧侶を見送る。多くの聯が対句になっている。 ・送:送別する。 ・僧:(日本からの)留学僧。 ・歸日本:日本に帰る。
※上國隨縁住:大唐の都に、仏縁によって住み。 ・上國:都。都に近い国。豊かなよい国。ここでは、大唐を指す。 ・隨縁:仏縁による。 ・住:すむ。
※來途若夢行:(大唐へ)来た道は、夢の中での旅路のようであった。 ・來途:来た道。日本から中国へ行った時の道程をいう。 ・若:…のようである。ごとし。 ・夢行:夢の中での旅路。
※浮天滄海遠:天の下を漂うように航海し、仏法の守護のある空の下、滄海の彼方、日本のあるところは、遥かに遠く離れている。 ・浮天:天の下を漂うように航海する。また、仏法の守護のある空の下。≒浮屠。 ・滄海:海。あおうなばら。蒼い海。仙人の住居。滄海の彼方、日本のあるところをも指す。 ・遠:とおい。遥かに離れている。
※去世法舟輕:塵の世の中華の地から離れていく、仏法の加護のある僧侶の乗った舟は輕やかである。 ・去世:俗塵の世から離れる。中華の地から離れる。 ・法舟:仏法の加護のある舟。僧侶の乗った舟。 ・輕:かろやかである。
※水月通禪寂:水に映る月影の姿は、仏教の悟りの境地に通じるものがある。 ・水月:(海)水に映る月影。また、「水中月」という仏教用語でもあるという。 ・通:通じる。 ・禪寂:悟りの境地。禅定。
※魚龍聽梵聲:海中の魚龍は、読経の声を聴き。 ・魚龍:魚や竜。鱗獣。水棲の動物。 ・聽:(意図的に)聞く。 ・梵聲:読経の声。
※惟憐一燈影:ただ、悟りの法灯をいつくしんで(いるので)。ただ仏法の真理を尊んで(いるので)。 ・惟:ただ。 ・憐:いつくしむ。かわいがる。あわれむ。ここは、前者の意。 ・一燈:(仏前の)灯明。悟りの法灯。 ・影:火影。
※萬里眼中明:(「惟憐一燈影」なので)万里に亘って、仏法の光明に満ちた眼の輝きがある。 ・萬里:遥かな距離。 ・眼中:(帰国する日本人僧の)瞳。 ・明:(瞳が)輝いている。仏法の光明に満ちている。
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◎ 構成について
作品全体の韻式は「AAAA」。韻脚は「行輕聲明」で、平水韻下平八庚。この作品の平仄は次の通り。
●●○○●,
○○●●○。(韻)
○○○●●,
●●●○○。(韻)
●●○○●,
○○○●○。(韻)
○○●○●,
●●●○○。(韻)
2003.11.19 |
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