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私感訳注:
※韋莊:唐末、蜀の詞人。
※菩薩蠻:詞牌の一。詞の形式名。双調 四十四字。換韻。詳しくは 「構成について」を参照。この詞は、『花間集』韋荘の『菩薩蛮』其四。
※勸君今夜須沈醉:(主人の言葉で:)「あなたにお勧めするが、今夜は(大いに飲んで)酔いつぶれるべきであって。 ・勸君:あなたにお勧める。盛唐・王維の『送元二使安西』に「渭城朝雨浥輕塵,客舎柳色新。勸君更盡一杯酒,西出陽關無故人。」とある。魏・曹操の『短歌行』に「對酒當歌,人生幾何。譬如朝露,去日苦多。慨當以慷,憂思難忘。何以解憂,唯有杜康。」とある。 ・須:すべきである。すべからく…べし。 ・沈醉:〔ちんすゐ;chen2zui4○●〕酔いつぶれる。ひどく酔う。
※樽前莫話明朝事:酒を前にしては、将来の(煩わしい)ことを言いなさるな。」(以上がしゅじんのことば)。 *今日の今を楽しもう。これに似たものに、朱淑眞の江城子『賞春』「斜風細雨作春寒。對尊前,憶前歡,」がある。 ・尊前:晩唐・杜牧の『贈別二首』其二に「多情卻似總無情,惟覺髄O笑不成。蝋燭有心還惜別,替人垂涙到天明。」とあり、同・杜牧の『念昔游』に「十載飄然繩檢外,樽前自獻自爲酬。秋山春雨閑吟處,倚徧江南寺寺樓。」とあり、この詞の作者・韋莊は『江上別李秀才』で「前年相送灞陵春,今日天涯各避秦。莫向尊前惜沈醉,與君倶是異ク人。」と詠う。 ・樽:酒杯。酒を謂う。=尊。 ・莫話:言うな。言いなさるな。 ・莫-:…なかれ。また、なし。禁止、否定の辞。ここは、前者の意で、禁止。 ・明朝事:明日の(煩わしい)こと。将来の事。今を楽しもう、ということ。
※珍重主人心:(「勸君今夜須沈醉,樽前莫話明朝事」と言って下さった)御主人の思いを大切にいたしましょう。 ・珍重:珍しいものとして大切にする。ありがたいことである。 ・主人心:もてなす側の人の思い。ホスト側の配慮。
※酒深情亦深:酒の量が多いばかりでなく、(主人の)人情もまた深いことだ。 ・酒深:酒の量が豊かにあること。 ・深:多い。盛んである。 ・情:思いも深い。 ・亦:…もまた。酒が深いだけでなく、情もまた深いこと。
※須愁春漏短:春(の夜)は、時間の経つのが(速く)短いことをまさしく悲しむべきであり。 ・須:…すべきである。必ず。まさしく。すべからく(…べし)。 ・愁:かなしむ。うれえる。 ・春漏短:春(の宵)は時間の経つのが速い。 ・漏:水時計。漏刻。
※莫訴金杯滿:黄金の酒杯がいっぱいになっていると、訴えなさるな。 ・莫訴:言うな。言ってくるな。うったえるな。 ・訴:(…に)述べる。訴える。言う。話しかける。
※遇酒且呵呵:酒に出逢ったら、しばらくは、大声で笑おう。 ・遇:出逢う。いきあたる。 ・且:しばらく。しばし。短時間を表す。 ・呵呵:〔かか;he1he1○○〕(大声で)笑う。笑い声。ハハハハ。擬声語。
※人生能幾何:人の一生は、一体どれほどあるというのだ(長くはないじゃあないか)。 *前出・曹操の『短歌行』に「對酒當歌,人生幾何。譬如朝露,去日苦多。慨當以慷,憂思難忘。何以解憂,唯有杜康。」とある。 ・幾何:いくばく。どれほど。
◎ 構成について
双調 四十四字。換韻。全ての句が押韻する。押韻の平仄が入れ替わる多彩な詞。押韻は、換韻で、韻式は「aaBB ccDD」。韻脚:「醉事」は第三部去声で、「心深」は第十三部平声で、「短滿」は第七部上声で、「呵何」は第九部平声。
○●○○●。(a仄韻)
○●○○●。(a仄韻)
●●○○。(B平韻)
○●○,(B平韻)
○○●●。(c仄韻)
●○●,(c仄韻)
●●○○,(D平韻)
○●○。(D平韻)
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