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私感訳注:
※この作品は『花間集』巻五にある。後朝(きぬぎぬ)の別れ、男女の別れの朝の情景である。
※牛希済:五代前/後蜀の詞人。咸通十三年頃(872年頃〜?。隴西の人。牛嶠のおい。翰林学士、御史中丞に任じられた。後唐に仕えてからは雍州節度副使に任じられた。
※生査子:詞牌の一つ。後期の形式とは異なる。詳しくは 「構成について」を参照。
※春山煙欲收:春の山の霞が収まろうとしている。 ・煙:かすみ、もや。 ・欲收:収まろうとしている。(宵の春霞が、)消えようとしている(が)。
※天澹稀星小:空が白んで、疎らな星影が(一層)小さく見えるようになった。 ・天澹:空が白む。空が薄ぼんやりと明るくなってくる。空が暁けてくる。「天淡」ともする。後世、北宋・范仲淹は『御街行』で「紛紛墜葉飄香砌。夜寂靜,寒聲碎。真珠簾卷玉樓空,天淡銀河垂地。年年今夜,月華如練,長是人千里。 愁腸已斷無由醉。酒未到,先成涙。殘燈明滅枕頭欹,諳盡孤眠滋味。都來此事,眉間心上,無計相迴避。」と使う。 ・稀星:疎らな星影。 ・小:(明るくなってきたことで)星影が小さく見えるようになったことをいう。
※殘月臉邊明:明け方の月の光が顔の辺りを(ぼんやりと)明く照らす。 ・殘月:明け方の月。 臉邊明:(月光が)顔の辺りを明るく照らす。夜の闇が終わって、空が白むことに因って、相手の顔がぼんやりと浮かび上がってきたさまをいう。 ・臉:〔れん;lian3〕顔。
※別涙臨清曉:別れの涙で、清々しい明け方を迎える。 ・別涙:別れの涙。朝になって、相手が帰っていくために流す涙。 ・臨:その時になる。あたる。 ・清曉:すがすがしい明け方。
※語已多:語ることは、すでに充分にした(が)。 ・語:かたること。男女二人の語り合いの言葉。 ・已:すでに…になった。 ・多:充分である。多すぎる。
※情未了:思いは尽きない。情は、まだ終わろうとはしない。 ・情:情愛。想い。 ・未了:まだ終わらない。尽きない。
※迴首猶重道:ふり返って、なおも重ねて言う(には)。白居易の『長恨歌』「臨別殷勤重寄詞,詞中有誓兩心知。七月七日長生殿,夜半無人私語時。在天願作比翼鳥,在地願爲連理枝。」というのに同じ。 ・迴首:ふり返る。かうべをめぐらす。回首ともする。 ・猶:なおも。 ・重道:重ねて言う。繰り返して言う。
※記得緑羅裙:(わたしの)緑色のうすぎぬのスカートを覚えておいてほしい。 ・記得:覚えておく。 ・緑羅裙:緑色のうすぎぬのスカート。女性の姿のこと。
※處處憐芳草:(そして)行く先々で(わたしのスカートと同じ色の緑の)芳草を(見るにつけては、)愛おしく(思い出してほしい)。島崎藤村の詩で言えば「ああ花鳥の 色につけ 音につけ我を 想へかし」になろう。 ・處處:方々で。あちらこちらで。 ・憐:いつくしむ。可愛がる。愛おしく想う。 ・芳草:香しい草花。
◎ 構成について
双調四十字。仄韻。一韻到底。韻式は「aa aaa」。韻脚は「小暁 了道草」第八部上声十七筱(小曉了)、十九皓(道草)。次の詞調はこの作品のもの。
○○●○, ●○○●。(韻) ●●○○, ●○○●。(韻)
●●○
○●●。(韻) ●○○●。(韻) ●●○○, ●○○●。(韻)
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