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◎私感訳注:
※菩薩蠻:詞牌の一。詞の形式名。双調。四十四字。換韻。詳しくは「構成について」を参照。この作品は『花間集』第二で韋荘の菩薩蠻其三としてあり、同其二が「人人盡説江南好,遊人只合江南老。春水碧於天,畫船聽雨眠。 爐邊人似月,皓腕凝雙雪。未老莫還ク,還ク須斷腸。」であり、前作を受けている。これらの作品のモチーフは、杜牧の七絶『遣懷』「落魄江南載酒行,楚腰腸斷掌中輕。十年一覺揚州夢,占得樓薄倖名。」等の一連の江南の詩に得たのか、或いは、当時の文人の共通の感情なのか。
※如今却憶江南樂:(年取った)今となっては、かえって、江南での楽しかった(日々)が思い起こされる。 ・如今:いま。ただいま。現今。・却:かえって。逆に。・憶:思い起こす。 ・江南樂:江南での楽しかった(日々)。前出「人人盡説江南好,遊人只合江南老。」に同じ。
※當時年少春衫薄:そのころ、若者(であったわたしは、格好をつけて)春の単衣の衣は薄ものであった。 ・當時:(過去の)その時。そのころ。当時。 ・年少:年若い者。若者。年が若い。 ・春衫:春のひとえの衣。 ・春衫薄:春の服が薄ものである。粋ななりをしているということ。
※騎馬倚斜橋:馬に乗って(颯爽として)色里にある橋のたもとで、止まり。 ・騎馬:馬にうち跨ることだが、それができるのは経済的に豊かで、地位のあるものになる。エリートの象徴でもある。 ・倚:よりかかる。 ・斜橋:色里にある橋。遊里に架かる橋。
※滿樓紅袖招:・滿樓:建物いっぱいの。 ・紅袖:若い女性の衣服で、うら若い女性を指す。 ・招:手招きをする。
※翠屏金屈曲:翡翠色に青く輝くびょうぶに、金色をしたちょうつがい。 ・翠屏:翡翠のびょうぶ。 ・金屈曲:屏風の金色をしたちょうつがい。
※醉入花叢宿:美しい女性のいる所で、酔っぱらってしまった。 ・醉入:酔っぱらってしまう。 ・花叢宿:花の繁みになっている宿。美しい女性のいる所。
※此度見花枝:このたび、美しい女性に出逢った(ので)。 ・此度:このたび。 ・見花枝:美しい女性に出逢った。 ・見:まみえる。会う。 ・花枝:美しい女性をいう。
※白頭誓不歸:老齢になっても、(貴女を捨てて故郷へは)誓って帰らない(と、若い頃、女性に言ったものだった)。これは、若い頃女性を口説いた時に言った言葉を、今、懐かしく、また、ほろ苦く思い起こしている。 ・白頭:白髪頭。老齢になること。 ・誓不歸:誓って帰らない。前出「未老莫還ク」をさらに一歩進めている。
◎ 構成について
双調 四十四字。換韻。各句が押韻し、押韻の平仄が入れ替わる。韻式は「aaBB ccDD」。 韻脚:「樂薄 橋招 曲宿 枝歸」で、詞韻第第十六部入声十藥(樂薄)、第八部平声二蕭(橋招)、第十五部入声一屋(宿)、二沃(曲)通用、第三部平声四支(枝)五微(歸)通用になる。
○●○○●。(a仄韻)
○●○○●。(a仄韻)
●●○○。(B平韻)
○●○,(B平韻)
○○●●。(c仄韻)
●○●,(c仄韻)
●●○○,(D平韻)
○●○。(D平韻)
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