櫻花落盡階前月, 象牀愁倚薰籠。 遠是去年今日恨還同。 雙鬟不整雲憔悴, 涙沾紅抹胸。 何處相思苦? 紗窗醉夢中。 ![]() |
櫻花 落り盡くす 階前の 月,
象牀に 愁ひて 薰籠に 倚る。
遠(はる)けきは是れ 去年の 今日 恨みは 還(な)ほ同じ。
雙鬟 整はずして 雲 憔悴し,
涙は沾(ぬ)らす 紅き 抹胸を。
何處ぞ 相思の 苦しみは?
紗窗 醉夢の 中。
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私感注釈
※謝新恩:詞牌の一。双調。平韻。詳しくは下記「構成について」を参照。この詞は女性の身になって作っている。
※櫻花落盡:桜の花がすっかり散ってしまった。
※階前月:きざはしの前の空に月がある。
※櫻花落盡階前月:(春もやがて終わろうとして)桜の花がすっかり散ってしまった。きざはしの前の空に(以前のあの時と変わりなく)月がかかっているが。
※象牀:象牙の装飾のあるベッド。
※愁倚:愁いながら寄りかかる。
※薰籠:香炉の上に竹籠状の物をかぶせ、その上に衣類を置いて香を焚きしめるようにしたもの。伏籠。
※象牀愁倚薰籠:象牙の装飾のあるベッドで、愁いを含みながら伏籠に寄りかかる。
※遠是:遙かなのは。「遠似」ともする。遠似の場合は、極めて似る。
※去年今日:去年の今日(いとしい人(男)と別れた日)。韋荘の「女冠子」に「四月十七,正是去年今日。別君時。忍涙佯低面,含羞半斂眉。」とあるように「別君時」を云いたいのだろう。 韋荘の「依前此地逢君處,還是去年今日時。」や白居易の「柳絮送人鶯勸酒,去年今日別東都」など、全て別れた思い出の時に使われる。
※恨還同:恨みは、なおも同じである。恨む気持ちは変わっていない。 ・還:(白話)なお、まだ。
※遠是去年今日恨還同:遙かな去年の今日、(いとしい人がわたしの許を去っていったが、そのときの)恨めしい気持ちは変わっていない。
※雙鬟:左右二つのまげ。
※不整:整わないで。乱れたままで。男性がいなくなったので、身繕いする気も起こらずに。白居易の「長恨歌」に「雲鬢半偏新睡覺,花冠不整下堂來。」を借りているか。
※雲憔悴:豊かな雲なす髪は、やつれはて。 ・雲:美女の髪の毛の形容。
※雙鬟不整雲憔悴:左右二つのまげはアンバランスで乱れ、豊かな雲なす髪は、やつれはてたままである。
※涙沾:涙は…をぬらす。
※抹胸:古代の女性の衣裳の胸当て。ブラジャーのように下着として着けるのではなく、衣服の上にしているようだ。
※涙沾紅抹胸:涙は胸当てをぬらす。
※何處:どこ。いづこ。
※相思苦:(異姓を)思い焦がれる苦しみ。 ・相:必ずしも「相互に」、「お互いに(恋い焦がれる)」の意ではない。動作が対象に及ぶときに使う。「明月來相照」の「相」と同じ。
※何處相思苦:(異姓を)思い焦がれて苦しんでいるのはどこなのだ。
※紗窗:女性の部屋の窓を云う。緑窗に同じ。
※醉夢中:酔って寝入った時の夢に。酔って意識が朦朧としたときに。
※紗窗醉夢中:(それは)女性の部屋の(主の女性が哀しみを紛らわせるために飲んだ酒に)酔って寝入った時の夢の中だ。
◎ 構成について
謝新恩は臨江仙の外、多くの異名がある。臨江仙は、六十字、また五十八字等。李煜の数篇の謝新恩は、詞調が不揃いで字数も異同がある。この作品は、四十四字。双調。平韻字一韻到底。韻式は「AA AA」。韻脚は「籠同 胸中」で第部声。以下にこの作品の詞調を掲げておく。
○○●●○○●,
●○○●○○。(平韻)
●●●○○●●○○。(平韻)
○○●●○○●,
●●○●○。(平韻)
○●○○●,
○○●●○。(平韻)
2002.2.24 2.25 2.26完 |
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