劍門道中遇微雨
            

            
        宋 陸游


衣上征塵雜酒痕,
遠游無處不消魂。
此身合是詩人未

細雨騎驢入劍門。



    **********************

           劍門の道中にて 微雨(びう)()
          


衣上の 征塵  酒痕を雜(まじ)ふ,
遠游  處として 消魂せざるは 無し。
此の身 合
(まさ)に是れ  詩人なるべしや 未(いな)
細雨 驢
(ろ)に騎(の)りて  劍門に 入る。

             ******************


◎ 私感訳註:

※劍門道中遇微雨:転勤で劍門を通化している時、微雨に出逢う。 ・劍門:剣門関。山の名。四川省東北の剣閣県の東北にある。長安と成都を結ぶ道中の、四川側に入ったところに位置する。現・剣閣。『中国歴史地図集』第六冊 宋・遼・金時期(中国地図出版社)69−70ページ「南宋 成都府路 潼川府路 夔州(Kui2zhou1)路 利州東路 利州西路」にある。 ・道中:旅路で。陸游が成都府安撫司参議官となっての旅路での作。 ・微雨:かすかな雨。

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地図の中心が剣門

※衣上征塵雜酒痕:衣服の上には、旅塵と旅路で飲んだ酒をこぼしたシミのあとがある。 ・征塵:旅路で付くよごれ。旅塵。 ・雜:まじる。

※遠游無處不消魂:遠くまでのこの旅路では、魂を奪われることことのない処はは無く、(どこも強く心に訴えかけてくる)。 *「遠游 處として消魂さざる無し。」「遠游 消魂さざる處 無し。」。 ・遠游:遠くまでの旅。 ・無處不消魂:うっとりとしない処はは無い。李U「
到處消魂感舊遊に同じ。(「柳枝詞」(風情漸老見春羞))ということ。「感舊遊」も暗に言っている。或いは李C照の「醉花陰(薄霧濃雲愁永晝)」の「莫道不消魂,簾捲西風,人似黄花痩。」も ある。 ・無-不-:…して、…しないということはない。どんな…でも…でないというもの(/こと)はない。…して…といふこと(/もの)せざるなし。…として…せずといふことなし。「無-不-」は、「無不-」の二重否定と似るもののやや異なる。(「無不…」は強い肯定で、「…でないのはない」の意)。 ・消魂:気分が過度の刺激によって、ぼんやりすること。うっとりすること。落胆すること。魂を奪われること。

※此身合是詩人未:この身はまさに詩人と言うべき(境地に達しているか)、どうか。 ・此身:この身。わたし。ここでは陸游自身を謂う。 ・合是:まさに これ。 ・-是:ここでは接続詞・副詞語尾として用いられてる。これ。蛇足になるが、「是」を単独に使えば:…は…である。主語と述語の間にあって述語の前に附き、述語を明示する働きがある。〔A是B:AはBである〕。 ・合:まさに…すべし。当然すべきである。晩唐〜・韋莊の『菩薩蠻』に「人人盡説江南好遊人
只合江南老。春水碧於天,畫船聽雨眠。   壚邊人似月,皓腕凝雙雪。未老莫還ク,還ク須斷腸。」とある。 ・詩人未:詩人なのかどうか。 ・-未:…かどうか。(…や)いまだしや。文末に附いて、疑問を表す語気詞。「否」と似た働きをする。

※細雨騎驢入劍門:しとしとと降る雨の中、(古の詩人のように)驢馬に乗って劍門の山道に入っていく。 ・細雨:しとしとと降る雨。詩題にある「微雨」のこと。「細雨」は婉約詞によく使われる語で、
●●となり、「微雨」は○●となる。 ・騎驢:ロバに跨って。ウサギウマに乗って。「奉贈韋左丞丈二十二韻」の「袴不餓死,儒冠多誤身。丈人試靜聽,賤子請具陳。…」で有名なこの詩も、後に「甫昔少年日,早充觀國賓。讀書破萬卷,下筆如有神。賦料揚雄敵,詩看子建親。李求識面,王翰願卜鄰。自謂頗挺出,立登要路津。致君堯舜上,再使風俗淳。此意竟蕭條,行歌非隱淪。騎驢三十載,旅食京華春。朝扣富兒門,暮隨肥馬塵。殘杯與冷炙,到處潛悲辛。…」と続き、「騎驢」で旅をする杜甫を謂う。 ・騎:(馬、驢馬、自転車などに)跨って乗る。 ・入劍門:劍門の山道に入っていく。





◎ 構成について

   仄起。平韻一韻到底。韻式は「AAA」。 韻脚は「痕魂門」で、平水韻上平十三元。次の平仄はこの作品のもの。

    ○●○○●●○,(韻)
    ●○○●●○○。(韻)
    ●○●●○○●,
    ●●○○●●○。(韻)
    
2002. 5.14
      5.15完
2013. 6.20補
2017.10.20




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