水調歌頭
            

            
        宋 陸游
多景樓

江左占形勝,
最數古徐州。
連山如畫。
佳處縹渺著危樓。
鼓角臨風悲壯,
烽火連空明滅,
往事憶孫劉。
千里曜戈甲,
萬竈宿貔貅。


露霑草,
風落木,
歳方秋。
使君宏放,
談笑洗盡古今愁。
不見襄陽登覽,
磨滅遊人無數,
遺恨黯難收。
叔子獨千載,
名與漢江流。



    **********************

            水調歌頭
          
多景樓

江左  形勝に 占むるは,
(いつ)に 古き徐州を 數ふ。
連山 畫の如く。
佳き處 縹渺として 危樓を 著はす。
鼓角  風に臨みて 悲壯に,
烽火  空に連なりて 明滅す,
往事  孫・劉を 憶
(おも)ひ。
千里  戈・甲を 曜
(かがや)かす,
萬竈  貔貅を 宿す。


露は 草を霑
(ぬ)らし,
風は 木に落
(おとろ)ふ,
(とき)は方(まさ)に秋。
使君  宏放にして,
談笑し 洗ひ盡くす 古今の愁を。
見ず 襄陽の登覽を,
磨滅して  遊人 無數なれば,
遺恨 黯く 收め難し。
叔子  獨り 千載に,
名 と 漢江は 流る。

             ******************

◎ 私感訳註:

※水調歌頭:詞牌の一。仄韻一韻到底。詳しくは「構成について」を参照。この作品は蘇軾の「念奴嬌」(大江東去,浪淘盡、千古風流人物。)を意識して作っていると思われる。

※多景樓:鎭江の北固山の甘露寺にある建物。

※江左占形勝:江東で有利な地勢を閉めているのは。 ・江左:江東。長江の東。豪放詞で項羽に関係して、しばしば出てくる「江東」のこと。「史記・項羽本紀」には「於是項王乃欲東渡烏江。烏江亭長船待,謂項王曰:『江東雖小,地方千里,衆數十萬人,亦足王也。願大王急渡。今獨臣有船,漢軍至,無以渡。』項王笑曰:『天之亡我,我何渡爲!且籍與江東子弟八千人渡江而西,今無一人還,縱
江東父兄憐而王(この「王」は動詞)我,我何面目見之?縱彼不言,籍獨不愧於心乎?』」。 ・占:(位置を)しめている。 ・形勝:地形が有利。地勢や風景などがすぐれている(土地)。唐・白居易の『餘杭形勝』「餘杭形勝四方無,州傍山縣枕湖。遶郭荷花三十里,拂城松樹一千株。夢兒亭古傳名謝,ヘ妓樓新道姓蘇。獨有使君年太老,風光不稱白髭鬚。」や、北宋・柳永が「東南形勝,三呉都會,錢塘自古繁華。煙柳畫橋,風簾翠幕,參差十萬人家。雲樹繞堤沙。怒濤卷霜雪,天塹無涯。」や、明・高啓の『登金陵雨花臺望大江』「大江來從萬山中,山勢盡與江流東。鍾山如龍獨西上,欲破巨浪乘長風。江山相雄不相讓,形勝爭誇天下壯。秦皇空此黄金,佳氣葱葱至今王。我懷鬱塞何由開,酒酣走上城南臺。坐覺蒼茫萬古意,遠自荒煙落日之中來。石頭城下濤濤怒,武騎千群誰敢渡。黄旗入洛竟何,鐵鎖江未爲固。前三國,後六朝,草生宮闕何蕭蕭。英雄乘時務割據,幾度戰血流寒潮。我生幸逢聖人起南國,禍亂初平事休息。從今四海永爲家,不用長江限南北。」がある。

※最數古徐州:一番に挙げるのは、(古代九州の一の徐州である)鎭江だ。 ・最數:一番に数え挙げられるのは。 ・古徐州:古代の徐州。ここでは京口(鎭江)のこと。古代の徐州とは、(古代の)九州の一で、伝説で禹が全土を開いて冀、、青、
、予、荊、揚、雍、梁の九つの州に分けたその中の徐州のことで、後に幾度か移動し、ここでは京口(鎭江)のこと。

※連山如畫:連なる山並みは、絵のようである。ここはおそらく、蘇軾の『念奴嬌』「江山如畫, 一時多少豪傑。」 を意識していよう。

※佳處縹渺著危樓:(景色が)美しいところは、ぼんやりとしてはっきりと見えないが、(多景樓)の高殿はめだっている。杜甫に『白帝城最高樓』の「獨立縹渺之飛樓」とある。 ・佳處:(景色が)美しいところ。 ・縹渺:ぼんやりとして、はっきりと見えないさま。 ・著:めだっている。顕著になっている。いちじるしい。 ・危樓:高殿(たかどの)。ここでは、多景樓を云う。 ・危:高い。

※鼓角臨風悲壯:合図の太鼓の音と角笛の音色は、悲しげではあるが凛々しさが漂っている。 ・鼓角:軍陣での合図の太鼓の音と角笛の音。 ・臨風:風に吹かれる。風に当たる。 ・悲壯:悲しい内にも凛々しさがあるさま。杜甫の『閣夜』に「歳暮陰陽催短景,天涯霜雪霽寒宵。五更
鼓角悲壯,三峽星河影動搖。野哭千家聞戰伐,夷歌幾處起漁樵。臥龍躍馬終黄土,人事音書漫寂寥。」とある。

※烽火連空明滅:(敵の侵攻を知らせる)のろし火が天空にまで連なっており、ちらちらとまたたいている。 ・烽火:(敵の侵攻を知らせる)のろし火。 ・連空:天空にまで連なっている。 ・明滅:明るくなったり暗くなったりしている。またたいている。ちらちらしている。唐・温庭の『菩薩蠻』に「小山重疊金明滅,鬢雲欲度香顋雪。懶起畫蛾眉。弄妝梳洗遲。   照花前後鏡。花面交相映。新帖刺綉羅襦。雙雙金鷓鴣。」は、きらきらとした表現。

※往事憶孫劉:過ぎ去った昔の孫権と劉備を思い起こせ(ば)。 ・往事:昔。過ぎ去った時。過去。 ・孫劉:孫権と劉備を指す。三国時代の呉と蜀の英雄。魏の曹操とともに三国時代を彩った。

※千里曜戈甲:宏大な決戦場に戈や鎧を輝かせて。 ・千里:遙かな距離。ここでは決戦場を指す。 ・曜:輝く。照り映える。「耀」とほぼ同義。 ・戈甲:ほことよろい。

※萬竈宿貔貅:軍営には、軍の精鋭部隊を駐留させている。 ・萬竈:極めて多くのかまど。兵士に食事を給与するための設備。軍営。 ・宿:宿営している。 ・貔貅:〔ひきう;pi2xiu1○○〕勇猛な軍隊の喩え。精鋭。豹ににた伝説上の動物(貔:雄、貅:雌)で、戦いに使ったという。

※露霑草:露は草をぬらして。 ・霑:〔てん;zhan1○〕うるおす。また、潤う。湿る。

※風落木:風は木の葉を落として。 ・落木:冬枯れの木。葉が落ちてしまった木。

※歳方秋:時はちょうど秋である。 ・方:ちょうど。まさに。

※使君宏放:使君(の方滋)は闊達である。 ・使君:州や郡の長の尊称。ここでは、鎭江の知府の方滋のこと。 ・宏放:(古白話)闊達である。

※談笑洗盡古今愁:談笑の間に、余裕を持って(周瑜や諸葛亮のように)古今の歴史上の愁い(である民族問題)をすっかりと洗い流してしまおう。 ・談笑:談笑して。余裕を持って対応するさま。李白の『永王東巡歌』に「三川北虜亂如麻,四海南奔似永嘉。但用東山謝安石,爲君
談笑靜胡沙。」とあり、蘇軾の『念奴嬌』「談笑間、檣櫓灰飛煙滅。」とある。 ・洗盡:洗い尽くす。この句の部分も蘇軾の『念奴嬌』の「大江東去,浪
淘盡、千古風流人物。」を意識していよう。 ・古今愁:昔から今までの愁い。歴史的な愁い。民族の愁い。

※不見襄陽登覽:「自有宇宙,便有此山。」として志士がここに登ってきて遠望し、「如我與卿者多矣」としていたが、それも今はなくなった。国士はいなくなった、ということ。 ・不見:(白話)なくなった。見えなくなった。また、見ずや。 ・襄陽:〔じゃうやう;Xiang1yang2○○〕襄州。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)52−53「唐 山東東道」にある。現・湖北省北部の襄樊市。洞庭湖の北方200キロメートルのところ。 ・襄陽登覽:晋の羊を指す。晋の羊の故実で、羊山に登り、呉を滅ぼすことが出来なかったことを慨嘆したことによる。『晋書巻三十四列伝第四羊』に「(羊)樂山水,毎風景,必造(造:いたる。行く。)置酒言詠,終日不倦。嘗慨然歎息,顧謂從事中カ鄒湛等曰:『自有宇宙,便有此山。
由來賢達勝士,登此遠望,如我與卿者多矣!皆湮滅無聞,使人悲傷。如百歳後有知,魂魄猶應登此也。(鄒)湛曰:『公コ冠四海,道嗣前哲,令聞令望,必與此山倶傳。至若湛輩,乃當如公言耳。』 …(千二百字ほど跳んで)…(羊)所著文章及爲老子傳並行於世。襄陽百姓於羊)平生游憩之所建碑立廟,歳時饗祭焉。望其碑者莫不流涕,杜預因名爲墮涙碑。荊州人爲諱名,屋室皆以門爲稱,改戸曹爲辭曹焉。」がそれになる。李白の『襄陽歌』に「落日欲沒山西,倒著接花下迷。襄陽小兒齊拍手,街爭唱白銅。傍人借問笑何事,笑殺山公醉似泥。杓,鸚鵡杯。百年三萬六千日,一日須傾三百杯。遙看漢水鴨頭香C恰似葡萄初醗。此江若變作春酒,壘麹便築糟丘臺。千金駿馬換小妾,笑坐雕鞍歌落梅。車旁側挂一壺酒,鳳笙龍管行相催。咸陽市中歎黄犬,何如月下傾金罍。君不見晉朝羊公一片石,龜頭剥落生莓苔。涙亦不能爲之墮,心亦不能爲之哀。清風朗月不用一錢買,玉山自倒非人推。舒州杓,力士鐺。李白與爾同死生,襄王雲雨今安在,江水東流猿夜聲。」とある。

※磨滅遊人無數:(山にやってくる)「賢達・勝士」がいなくなって、遊びに来る人だけが増えた。 ・磨滅:(白話)消滅する。前出の「晋書」で言えば「湮滅無聞」に当たる。「賢達勝士」が「皆湮滅無聞」となったこと。 ・遊人:遊ぶ人。「賢達・勝士」の反対の語句。杜牧の『泊秦淮』でいう「商女」に当たろう。現在でいえば毛沢東の『菩薩蠻・黄鶴樓』「茫茫九派流中國,沈沈一綫穿南北。煙雨莽蒼蒼,龜蛇鎖大江。黄鶴知何去?剩有
游人。把酒滔滔,心潮逐浪高!」も ・無數:極めて多数ある。

※遺恨黯難收:(羊の志である呉を滅ぼすことができなかった、その)遺恨は深く抑えがたいものがある。 ・遺恨:羊がその志である呉を滅ぼすことが果たせず、彼の死後、二年目で呉が滅んだことからいう。 ・黯:失意のさま。悲しむさま。がっかり。暗い。 ・難收:収めがたい。

※叔子獨千載:羊の精神だけは、永遠に不滅である。 ・叔子:羊のこと。叔子はその字。(『晋書巻三十四羊伝』トップにあり)。 ・獨:(羊の精神)だけは。 ・千載:千年。永遠。「名…流」に係っている。

※名與漢江流:憂国憂民の羊の名と漢民族の国を通る漢水は(永遠に流れて(=伝えて)いくだろう)。 ・名:名声。国を想い、民を愛して「襄陽百姓於平生游憩之所建碑立廟,歳時饗祭焉。望其碑者莫不流涕,杜預因名爲墮涙碑。」と慕われた の名声をいう。盛唐・李白の『襄陽歌』に「『襄陽歌』「落日欲沒峴山西,倒著接花下迷。襄陽小兒齊拍手,攔街爭唱白銅鞮。傍人借問笑何事,笑殺山公醉似泥。鸕鶿杓,鸚鵡杯。百年三萬六千日,一日須傾三百杯。遙看漢水鴨頭香C恰似葡萄初醗。此江若變作春酒,壘麹便築糟丘臺。千金駿馬換小妾,笑坐雕鞍歌落梅。車旁側挂一壺酒,鳳笙龍管行相催。咸陽市中歎黄犬,何如月下傾金罍。君不見晉朝羊公一片石,龜頭剥落生莓苔。涙亦不能爲之墮,心亦不能爲之哀。清風朗月不用一錢買,玉山自倒非人推。舒州杓,力士鐺。李白與爾同生死,襄王雲雨今安在,江水東流猿夜聲。」とある。 ・與:…とともに。…と。 ・漢江:漢水。その流れは、名を変えて襄陽を通って、長江へ注ぐ。ここでは、川の流れのみでなく、「漢」の字の持っている漢民族を表すことをも意識していよう。 ・流:流芳(美名を後世に残すこと)、流光、流年…と水の流れのように過ぎてゆく歴史、時間の表現についても使う。





◎ 構成について

      双調。九十五字。 平韻一韻到底。韻式は「AAAA AAAA」。 韻脚は「州樓劉貅 秋愁收流」で、第十二部平声十一尤。

    ○●,
    ●●○○。(韻)
    ●,
    ●●○○。(韻)
    ●,
    ●○○●,
    ●●○○。(韻)
    ○●,
    ●●○○。(韻)


    
    ●,
    ●○○。(韻)
    ●,
    ●●○○,(韻)
    ●,
    ●○○●,
    ●●○○。(韻)
    ○●,
    ●●○○。(韻)

2002. 5. 8
      5. 9
      5.10
      5.11
      5.12
      5.13完
2007. 7.21補
     10.18
     11.21
2008.11.18  

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