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   如夢令

 
  元旦

            一九三零年一月
寧化、淸流、歸化,
路隘林深苔滑。
今日向何方,
直指武夷山下。
山下,
山下,
風展紅旗如畫。


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如夢令
      
元旦

寧化(ねいくゎ)、 淸流(せいりう)、 歸化( き くゎ)
路は(せま)く  林は深く  苔は滑る。
今日  何方(いづかた)へか 向かはん,
(ひとへ)に (めざ)す 武夷(ぶい)山下。
山下(さん か )
山下(さん か )
風は 紅旗(こう き )を展じて  ()の如し。

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私感注釈


※如夢令:詞牌の一。詳しくは下記の「◎ 構成について」を参照。

※一九三零年一月:毛澤東の一連の井岡山詩詞の一。この時期、毛沢東は、福建省の古田会議の後で、農村根拠地での土地革命運動と、それを取り締まる“反動武装勢力”との遊撃戦争が中心の時代。この詞は毛沢東の部隊が敵の目をかすめて、古田から消え去り、(連城、寧化、淸流、歸化から)江西の方へ逃れていった時の様子を詠ったものである。なお、「1930年」等、西暦の読み方は、「(イー)(ジョウ)(サン)(リン)年」と読む。但し、「七十年代」等は、「七十(チーシー)年代」と日本と同じ方式の読み方。

大きな地図で見る
宁化县·清流县·三明市と並ぶ。宁化县の南に连城县 

※寧化、淸流、歸化:どれも福建省西部の県名。帰化県は現在、三明市と改称。(右のgoogle地図では、中央部西より
宁化县·清流县·三明市)と並ぶ。連城は寧化の南70キロメートルのところ)「寧化」は○●で、詞調はのところ。「清流」は○○で、詞調は○、のところ。「歸化」は○●で、詞調は○●のところ。詞調と町の名の平仄と正しく合致しており、「歸化」の「化」で押韻している。そのため、この三つの町の名の順序は換えられない。この三つの町の名は、部隊が通過した順ではなく、詞の格律の要求からこのようになったと思われる。実際の行程はどんなものかと『星火燎原』第一、第二を見たところ、次の二編が見つかった。先ず、第二集、子恢の『西的春天』で「一九三〇年初,紅四軍四個縦隊便従古田出発,向北経連城、寧化、淸流、歸化,西越武夷山,去江西開展遊撃戦争。」とあった。また、同じく第二集の郭化若『紅軍従遊撃戦到運動戦的偉大戦略転変』に「毛主席自己則因同西負責同志商議併具体指示西工作,稍遅一二日,而同第二縦隊,在最後行進。経過“寧化、淸流、歸化,路隘林深苔滑”的行軍,避免了汀州敵軍尾追和糾纏順利地“直指武夷山下”翻過武夷山,進入江西省境。」とあるのが見つかった。地図で見る限り、福建省を圓い時計と見なすと、寧化は西・九時の方角で江西省に近い山の中、清流はやはり西で八時五十分ですぐ近くで寧下よりも東、歸化はちょうど中央になる。古田会議のところは、南西・七時の方角になる。武夷山は西側全面で・七時から十時時の方角に広がる、山と謂うより山脈。行程を地図上で考えると、古田⇒連城⇒歸化⇒(山道を通って)⇒淸流⇒(山道)⇒寧化⇒(山道)⇒武夷山と見るのが妥当で、『星火燎源』の記録とは異なる。何如。

※路隘林深苔滑:路が隘く、林は深く、こけが(ぬるぬるとしていて)すべる。 *敵の目をかすめていく間道の情景である。S+V構文をが三度重ねている。 ・路隘:路が隘い。「隘路」のSV構文化。 ・林深:林が深い。「深林」のSV構文化。 ・苔滑:こけが(ぬるぬるとしていて)すべる。

※今日向何方:今日は、どこへ向か(おうとする)のか。 *毛沢東の論文中には、自ら問いを発して、自ら答える形式を屢々見受けるが、この句の表現も問答形式。

※直指武夷山:(それは、)真っ直ぐに武夷山をめざしている(のだ)。 ・直指:真っ直ぐにめざす。 ・直:真っ直ぐに。 ・指:めざす。 *「今日向何方」という設問に答えている。 ・武夷山:福建省西部、江西省東部の省境の山系の総称で、黄崗山をはじめとした高い山々がある。この山を越えて西の方、江西省へ逃れていった。

※山下:(武夷山の)山の下。

※山下:(武夷山の)山の下。

※風展紅旗如畫:風は(赤旗を)翻して、絵のようだ。 ・風展:風は(赤旗を)翻す。風にはためく。「展」は
で、ここはのところ。「飄」、「飃」、「翻」、「飜」、「翩」は、すべてであり、両者を入れ換えることはできない。「巻」はで可能だが、意味が稍異なってくる。 ・紅旗:赤旗。紅軍の軍旗。 ・如畫:画のように(美しい)。画のようである。
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◎ 構成について:

 如夢令 単調 三十三字 仄韻の一韻到底。韻式は「aaaaaa」。脚韻は、「化(滑)下下下畫」で、第五部去声。但し「滑」は入声で、全く別の韻部。しかし、現代語の北京音では韻母はほぼ同じで、-ia、-ua韻である。(第五部去声と同じ。北京語では、入声はなくなり、外の声調へ移っている。)
  この詞は基本的には、同じ詞調の繰り返しで、各句末押韻である。第五句と第六句は畳句で、全く同一の句の繰り返しをする。この作品の場合は、第四句の後半から第五句と第六句と、計三カ所が同じになっている。しかし、第四句末も同じになっているのは、この作品の表現法の一であって、格律とは関係がない。

      ○○●,(韻)
      ○○●,(韻)
      ●●○○,
      ●○○●,(韻)
      ○●,(韻)
      ○●,(畳句;韻)
      ○○●。(韻)
                  
2001. 1.23
      1.24
      1.25
      1.26完
      1.27補
2013. 3.12
        



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