万空歌
萬空歌
明・悟空
天也空,地也空, 人生渺渺在其中。
日也空,月也空, 東昇西墜爲誰功。
金也空,銀也空, 死後何曾在手中。
妻也空,子也空, 黄泉路上不相逢。
權也空,名也空, 轉眼荒郊土一封。
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萬空歌
天も也(ま)た 空,地も也た 空, 人生 渺渺(べうべう)として 其(そ)の中に在り。
日も也た 空,月も也た 空, 東昇 西墜 誰(た)が爲(ため)の 功。
金も也た 空,銀も也た 空, 死後 何ぞ曾(かつ)て 手中に在りし。
妻も也た 空,子も也た 空, 黄泉の 路上に 相ひ逢はず。
權も也た 空,名も也た 空, 眼を轉ずれば 荒郊に 土に 一封せらる。
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◎ 私感訳註:
※萬空歌:あらゆるものは、実体がないという(教えの)歌。「□也空,□也空,□□□□ □□□」と、極めてリズミカルで、俗な口語を使った平易な歌である。「□也□,□也□」という基本句形で、「A也□,B也□」と、「A」「B」に反義語を入れれば新たな句が完成する。実際、多くの形で流布している。「田也空,地也空」「朝也空,暮也空」「官也空,職也空」…。その調子の良さは、詩句を次のように現代日本語の音読みにして:
「てん や くう, ち や くう, じんせい びょうびょう ざい きちゅう;
じつ や くう, げつ や くう, とうしょう せいつい い すい こう?」
としても、よく伝わってくるだろう。似た雰囲気の詩に明・唐寅の『流水詩』「淺淺水,長悠悠,來無盡,去無休。曲曲折折向東流,山山嶺嶺難阻留。問伊奔騰何時歇,不到大海不回頭。」がある。
※天也空:天も空であり…。 ・天:おおぞら。万物を支配しているもの。「天地」で「この世」の意。 ・也:…も。…もまた。「也…也…」で事物の並列を表す。…も…も。「也」は文語の「亦」に近い。 ・空:むなしい。空(くう)である。また、そらごと。実在しないこと。空(くう)。仏法でいう、世の中のすべての物事は、みな因縁によって起こる仮のもので、実体のないこと。
※地也空:地も空である。 ・地:つち。国土。
※人生渺渺在其中:(天地の間を)人は、はてしもなく生きていく。人の世の営みは、はてしなく続いて、その(天地の)間にある。 ・人生:人がこの世に生きている間。人が生きる。 ・渺渺:広くはてしないさま。遠くかすかなさま。水のはてしなくけむるさま。 ・在:・其中:天地の間のこと。
※日也空:日も空であり…。 ・日:太陽。「日月」で「自然の運行」の意。
※月也空:月も空である。 ・月:つき。
※東昇西墜爲誰功:自然の運行は、誰のせいでもない。東から昇って、西へ沈むということは、誰による功績なのだろうか。(誰によってでもないのだ)。 ・東昇西墜:東から昇って、西へ沈む。 ・爲誰:だれによって。 ・功:てがら。功績。
※金也空:黄金も空であり…。 ・金:黄金。こがね。財産。「金銀」で「富」の意。
※銀也空:白銀も空である。 ・銀:白銀。しろがね。財富。
※死後何曾在手中:(富を)死後も、どうして手の中に持っておれようか。 ・死後:死んだ後。 ・何曾:どうして…であろうか。 ・在手中:手の中にある。所有している。
※妻也空:つまも空であり…。 ・妻:つま。「妻子」で家族関係をいう。
※子也空:子どもも空である。 ・子:こども。
※黄泉路上不相逢:(家族にも)あの世の途上では、出逢わない。 ・黄泉:よみ。 ・路上:途上で。道中で。 ・不相逢:であわない。行きあわない。出くわさない。
※權也空:権勢も空であり…。 ・權:権勢。「権名」で「権勢や名望」、「地位」の意。
※名也空:名誉も空である。 ・名:名望。名誉。
※轉眼荒郊土一封:(権勢や名望も)たちまちのうちに郊外の墓地に埋められてしまう。またたく間に、荒れ果てて雑草が生えている郊外の草むらに、埋葬される。王侯に封(ほう)ぜられていても、結局はたちまちのうちに郊外の墳墓の土の中に封(ふう)ぜられるという皮肉を謂う。 ・轉眼:瞬く間に。目を転じているうちに。 ・荒郊:荒れ果てて雑草が生えている郊外の草むら。 ・土一封:(死んで)土に埋められる。 ・封:(墳墓に土を盛って)密閉する意だが、(王侯に)封(ほう)じて、領土や爵位、称号を与える意も同時にある。
◎ 構成について
平仄よりも内容を重んじている。韻式は「AAA AAA AAA AAA AAA」。韻脚は「空空中 空空功 空空中 空空逢 空空封」で、平水韻上平一東。次の平仄はこの作品のもの。
○●○(韻),●●○(韻),○○●●●○○。(韻)
●●○(韻),●●○(韻),○○○●●○○。(韻)
○●○(韻),○●○(韻),●●○○●●○。(韻)
○●○(韻),●●○(韻),○○●●●○○。(韻)
○●○(韻),○●○(韻),●●○○●●○。(韻)
2004. 3.27
3.28完
2007. 1.14補
2012.12. 6
2013. 4.15
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