『琵琶行』の序はこちら。
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潯陽江頭夜送客,
楓葉荻花秋瑟瑟。
主人下馬客在船,
舉酒欲飮無管絃。
醉不成歡慘將別,
別時茫茫江浸月。
忽聞水上琵琶聲,
主人忘歸客不發。
尋聲闇問彈者誰,
琵琶聲停欲語遲。
移船相近邀相見,
添酒迴燈重開宴。
千呼萬喚始出來,
猶抱琵琶半遮面。
琵琶行 一
潯陽江 頭 夜 客を送る,
楓葉 荻花 秋 瑟瑟。
主人は 馬より下り 客は 船に 在り,
酒を舉げて 飮まんと欲して 管絃 無し。
醉 成さずして 歡 慘として將に別れんとす,
別るる時 茫茫として 江は 月を浸す。
忽ち聞く 水上 琵琶の聲,
主人は 歸るを 忘れ 客は 發せず。
聲を尋ねて 闇に問ふ 彈く者は誰ぞと,
琵琶 聲 停みて 語らんと欲して 遲し。
船を移し 相ひ近づきて 邀へて 相ひ見,
酒を添へ 燈を迴らし 重ねて宴を開く。
千呼 萬喚 始めて 出で來たり,
猶ほ 琵琶を抱きて 半ば 面を 遮る。
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◎ 私感註釈
※琵琶行:これは、第一の部分。長いため、註記の都合で切った。本来は、序を除いて、一続きになっている。『琵琶行』の序はこちら。『琵琶行』は作者自身の身辺の出来事を詠ったものだが、『古詩十九首之二』「青青河畔草,鬱鬱園中柳。盈盈樓上女,皎皎當窗。娥娥紅粉妝,纖纖出素手。昔爲倡家女,今爲蕩子婦。蕩子行不歸,空牀難獨守。」という、昔からの哀しみの感情に依拠して表現を豊かなものにしている。 ・-行:楽府題に使われる。(一人称の)…の歌。 *南宋・戴復古は『琵琶亭』で、「潯陽江頭秋月明,黄蘆葉底秋風聲。銀龍行酒送歸客,丈夫不爲兒女情。隔船琵琶自愁思,何預江州司馬事。爲渠感激作歌行,一寫六百六十字。白樂天,白樂天,平生多爲達者語,到此胡爲不釋然。弗堪謫宦便歸去,廬山政接柴桑路。不尋黄菊伴淵明,忍泣衫對商婦。」と批判して詠った。
※潯陽江頭夜送客:潯陽江(長江)のほとりで、夜に客を送別しようとした。 *客は船で出発する。 ・潯陽江:江西省九江の北を流れる長江のこのあたりでの別名(長江は時代や地域によって多くの名称や通称がある。沱沱河、通天河、岷江、金沙江、長江、川江、峡江、荊江、揚子江、また、大江…と、詩では楚江ともうたわれる)。 ・潯陽江頭:潯陽江(長江)のほとりで。 ・潯陽は地名で、江西省九江市付近の地名。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)57−58ページ「唐 江南西道」にある江州、潯陽。(地名について詳しくは、『陶淵明トップページ』または、「九江市付近の地名」。)白居易は当時、九江郡司馬だった。現在、九江市には、潯陽楼がある。後世、この作品に基づいて「琵琶亭」が建てられ、現在では白居易の漢白玉製の像も建てられている。 ・夜送客:夜に送別の宴を張った。夜に発つ船に乗る人を見送る。
※楓葉荻花秋瑟瑟:カエデの(色づいた)葉やオギの花に、秋のもの寂しい風が吹いてくる。 ・楓葉荻花:カエデの色づいた葉に、オギの花。 ・瑟瑟:もの寂しく(秋)風が吹く。瑟瑟は寂しく吹く風の形容。「瑟瑟」を「索索」ともする
※主人下馬客在船:見送りをする主人(作者)が馬を下りてやって来ると客は(すでに)船に乗っていた。 ・主人下馬:見送りする主人側(作者)は馬を下りて。 ・客在船:客側は(すでに)船にいる。
※舉酒欲飮無管絃:杯を上げて飲もうとするが、音楽がなくて(盛り上がらないまま)。 ・舉酒欲飮:杯を上げて飲もうとするが。 ・無管絃:管楽器と弦楽器がない。音楽がない。
※醉不成歡慘將別:酔っても愉しくならないで、惨(みじ)めな感じで別れようとした。 ・醉不成歡:酔っても愉しくならないで。 ・慘將別:みじめな感じで別れようとした。 ・慘:さんざんである。
※別時茫茫江浸月:別れようとした時、果てしなく広がる潯陽江の水面に、月が沈もうとしていた。 ・別時:別れの時。 ・茫茫:果てしなく広がる(江は)。 ・江浸月:月が江の水面にかかっていた。
※忽聞水上琵琶聲:突然、水上に琵琶の音(ね)が聞こえてきた。 ・忽聞:突然聞こえてきた。 ・忽:突然、たちまち、にわかに。 ・水上:川の流れの上を。 ・琵琶聲:琵琶の音色。
※主人忘歸客不發:主人は帰宅するのを忘れて、客は出発するのをやめた。客は出発しない。 ・主人忘歸:主人は帰るのを忘れて。 ・客不發:客は出発するのをやめた。客は出発しない。
※尋聲闇問彈者誰:(琵琶の音)声の主を尋ねて、闇かに一体誰が弾いているのかと問う。 ・闇問:=暗問とすれば、「ひそやかに問いかける」になるが、『琵琶行・序』の「聞舟船中夜彈琵琶者」を重視すれば、「暗闇に向かって問いかける」が相応しい。 ・聲:音。音声。ここでは、琵琶の音(ね)。 ・彈:弦楽器をはじいて演奏する。
※琵琶聲停欲語遲:(問いかけに対して)琵琶の音(ね)は停まったが、語ろうとしてもぐずぐずしている。 ・停:動作の途中で、一時的にとまること。 ・遲:動作がのろのろしている。動きが緩慢である。ぐずぐずしている。おそい。なお、蛇足になるが「晩」は、時期、時間的に標準よりも後になってしまったことをいう。
※移船相近邀相見:船を動かして近づけていって(琵琶を弾いていた女性を)邀えて見る。 ・移:水平移動をする。 ・相:…していく。。ここは、「相互に」の意ではない。 ・邀:むかえる。招待する。ここでは、生活の手段として琵琶を弾く、流しの女性演奏者を呼んだことをいう。
※添酒迴燈重開宴:酒を追加して灯火の皿に油をつぎ足してもう一度うたげをやりなおすこととなった。 ・添酒:酒を追加する。 ・迴燈:灯火(の油の皿に油をつぎ足し、灯芯をあげて、)もう一度明るくする。
※千呼萬喚始出來:何度も何度も呼びかけて、やっと出てきた。 ・千呼萬喚:何度も何度も呼びかけるさま。蛇足だがこれを「千萬呼喚」とすれば「多数回の呼びかけ」、という事実描写になってしまう。 ・始:やっと。初めて。
※猶抱琵琶半遮面:(出てきたものの)それでもまだ、琵琶を抱え込んで、(琵琶で)半分顔を遮るようにしている。 ・遮面:顔を物でさえぎり隠す。
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