少年罕人事,
游好在六經。
行行向不惑,
淹留遂無成。
竟抱固窮節,
饑寒飽所更。
弊廬交悲風,
荒草沒前庭。
披褐守長夜,
晨鷄不肯鳴。
孟公不在茲,
終以翳吾情。
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飮酒 其十六
少年 人事 罕(まれ)に,
游好 六經に 在り。
行く行く 不惑に 向(なんな)んとし,
淹留(えんりゅう)して 遂(つひ)に 成る 無し。
竟(つい)に 固窮(こきゅう)の節を 抱(いだ)き,
饑寒(きかん) 更(へ)る所に 飽(あ)く。
弊廬(へいろ) 悲風 交(まじ)り,
荒草 前庭を 沒(ぼつ)す。
褐(かつ)を 披(き)て 長夜を 守(すご)し,
晨鷄 肯(あへ)ては 鳴かず。
孟公 茲(ここ)には 在らず,
終(つひ)に 以て 吾が情を 翳(かげ)らす。
◎ 私感註釈 *****************
※陶潛:陶淵明。東晉の詩人。。。。
※少年罕人事:若い頃は、他の人との付きあいも、稀で。 ・少年:若い時。 ・罕:まれである。 ・人事:人との交渉。人間社会の事件。人間に関する事柄。
※游好在六經:経書の学問を好んで続けていた。 ・游好:好み続けること。好む思いを深く持つ。 ・六經:儒学の根幹となる五種の経書「五經」に『樂經』が付け加わったもの。六種の経書で、『詩經』『書經』『易經』『春秋』『禮記』+『樂經』になる。この中、『樂經』は秦の焚書で亡びて伝わっていない。また、経書全体をいう。陶淵明が「六經」と使っているが、この時代『樂經』は無くなって、語彙だけが残っていることになるのか。
※行行向不惑:もうすぐ、四十歳になろうとしているが。 ・行行:もうすぐ。ゆくゆく。 ・向:なんなんとする。 ・不惑:四十歳の異称。『論語・爲政』「子曰:吾十有五而志乎學,三十而立,四十而不惑,五十而知天命,六十而耳順,七十而從心所欲,不踰矩。」に基づく。
※淹留遂無成:ずっと留まっていて、ついに成功しなかった。 *立身出世は出来なかった。 ・淹留:〔えんりう;yan1liu2◎○〕久しくとどまる。『楚辭』九辯「獨申旦而不寐兮,哀蟋蟀之宵征。時而過中兮,蹇淹留而無成。」。こことは逆の用法では、『九日闍潤x「世短意常多,斯人樂久生。日月依辰至,舉俗愛其名。露淒暄風息,氣K天象明。往燕無遺影,來雁有餘聲。酒能百慮,菊爲制頽齡。如何蓬廬士,空視時運傾。塵爵恥虚罍,寒華徒自榮。歛襟獨韆潤C緬焉起深情。棲遲固多娯,淹留豈無成。」がある。 ・遂:ついに。 ・無成:成功することがない。成就することがない。上出青字部分。
※竟抱固窮節:とうとう貧窮を固守する節操を抱(いだ)いたままで。 ・竟:結局。ついに。とうとう。つまり。 ・抱:いだく。 ・固窮節:貧窮を固守する節操。『論語・衛靈公第十五』に「君子亦有窮乎?」という問いかけに「君子固(もと)より窮す,小人窮斯濫矣」と答えた。『論語』では「固」は副詞、「窮」は動詞として使われているが、陶潜は、「固」は動詞、「窮」は名詞として使っている。『飮酒二十首』其二「積善云有報,夷叔在西山。善惡苟不應,何事立空言。九十行帶索,飢寒况當年。不ョ固窮節,百世當誰傳。 」
※饑寒飽所更:貧窮生活は、充分に経験してきた。飢えや寒さについては、通り過ぎたところは充分であった。 ・饑寒:飢えや寒さ。貧窮生活をいう。前出青字。『飮酒二十首』其二「飢寒况當年。」 ・飽:いっぱいになる。じゅうぶんである。あきる。 ・所:ところ。名詞化する。「所更」⇒「へたところ」。 ・更:〔かう;geng1○〕歴(へ)る。通り過ぎる。
※弊廬交悲風:茅屋には、寒い風が吹き込んできて。 ・弊廬:〔へいろ;bi4lu2●○〕ぼろ家。茅屋。 ・交:まじえる。こもごもにする。 ・悲風:寒い風。すざましい風。
※荒草沒前庭:雑草は、家の前庭を隠すまでに生い茂っている。 ・荒草:雑草。 ・沒:〔ぼつ;mo4〕没する。隠す。 ・前庭:家の前の庭。
※披褐守長夜:粗末な衣服を羽織って、長い夜を寝ないで過ごせば。 ・披:〔ひ;pi1○〕はおる。着る。かぶる。開く。 ・褐:〔かつ;he4〕粗末な衣服。賎しい者の衣服。粗い毛で織った毛ごろも。 ・守夜:徹夜をする。夜を寝ないで過ごす。 ・長夜:長い夜。秋や冬の夜をいう。
※晨鷄不肯鳴:朝(を告げる)ニワトリも遠慮して、刻(とき)を告げようとはしない。 ・晨鷄:朝になくニワトリ。 ・不肯:積極的にはできない。あえては…せず。 ・鳴:鳴く。
※孟公不在茲:孟公のような人物眼があるものは、ここにはいない。孟公のような、世に隠れている有能な隠士である張仲蔚のような者を見出せる人物は、今の時代には、いない。 *わたし、陶潛を理解してくれる人物は、今の世にはいない。 ・孟公:劉の字。後漢の劉のこと。張仲蔚という人物は高士であったが、隠棲をしていて誰に知られることもなく世を送っていた。その力を見出したのが、劉になる。晉・皇甫謐の『高士傳』中巻『張仲蔚』に「張仲蔚者,平陵人也。與同郡魏景卿倶修道コ,隱身不仕。明天官博物,善屬文,好詩賦。常居窮素,所處蓬蒿沒人,閉門養性,不治榮名。時人莫識,惟劉知之。」とある。但し、正史には載せられていないようだ。 ・不在:いない。存在しない。 ・茲:ここに。ここでは、今の時代では、の意になる。
※終以翳吾情:(そのようなことが)結局、わたしの心を暗くさせている。 ・終以:ついに。結局。 ・翳:〔えい;yi4〕かげらせる。かげる。 ・吾情:わたしの思い。
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◎ 構成について
一韻到底。韻式は「AAAAAA」。 韻脚は「經成更庭鳴情」で平水韻で見れば、下平八庚など。この作品の平仄は次の通り。
●○●○●,
○●●●○。(韻)
○○●●●,
◎○●○○。(韻)
●●○●●,
○○●●○。(韻)
●○○○○,
○●●○○。(韻)
○●●○●,
○○●●○。(韻)
●○●●○,
○●●○○。(韻)
2004.8. 8完 2014.2.25補 |
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