******
羅袖動香香不已,
紅嫋嫋秋煙裏。
輕雲嶺上乍揺風,
嫩柳池塘初拂水。
阿那曲
羅袖 香を動かして 香 已(や)まず,
紅(こうきょ) 嫋嫋(でうでう)たり 秋煙の 裏(うち)。
輕雲 嶺上にありて 乍(たちま)ち 風に揺られ,
嫩柳(どんりう) 池塘に 初めて水を拂ふ。
*****************
◎ 私感註釈
※楊貴妃:楊太真。唐の玄宗の愛妃。安禄山の乱が起こり馬嵬坡で死を賜う。白居易の長恨歌に詳しい。この詞は、舞姫の舞姿を恰も自然の景観を詠うように見せながら、詠い上げている。
※阿那曲:〔あだきょく;e1nuo2qu3〕(柳の)たおやかで美しく茂ったさまの歌。 *阿那」〔あだ;e1nuo2〕」と読み、 「たおやかなさま柔弱なさま。しげって盛んなさま」の意。「阿那」を一字ずつ見ると「阿(あ)」「那(な)」と読んでしまいそうになるが、ここは「阿那」〔あだ〕という単語で、それぞれ「阿(あ)」と「那(だ)」。 蛇足になるが、同じことが中国語でも謂える。 中国語で「阿那」を一字ずつ分けて読むと、「阿(a1)」と「那(na4)」と(普通では)読んでしまいそうになるが、 「阿那」という単語では〔e1 nuo2〕であって、〔a1 na4〕ではない。唐代では樂府に分類されたが、実質は(仄韻の)七言絶句。
なお、宋詞では七言絶句体(=七言絶句様式=七言絶句と同じ形)の填詞の形式名(=詞牌)となっている。正式には仄韻の七言絶句形式で、
○●●○○●●,(仄韻)
○○●●○○●。(仄韻)
○○●●●○○,
●●○○○●●。(仄韻)
となっており、別名は『鶏叫子』。 詞牌の由来は、このページの楊貴妃の作品が元にあってできたもの。
※羅袖動香香不已:踊ってうすぎぬの衣裳のそでが揺れ動き、衣裳に焚きしめている香のかおりが次から次へ漂ってきて、やむことがない。 ・羅袖:うすぎぬの衣裳のそで。・動香:(踊ることで、衣裳に焚きしめている香の)かおりを起こし。 ・香不已:(漂ってくる)かおりはやむことがない。
※紅嫋嫋秋煙裏:秋のもやのなかに霞むあかいハスの花にも似た(舞姫の)たおやかなすがたは。・紅:〔こうきょ;hong2qu2○○〕あかいハスの花。舞姫のことをもいっている。 ・嫋嫋:〔でうでう;niao3niao3●●〕しなやかなさま。風がそよそよと吹くさま。音声が細く長く響くさま。 ・秋煙裏:秋のもやのなかに。
※輕雲嶺上乍揺風:軽やかな雲が、みねの上で、急に風に揺らいでいる。美しい女性の髪は、うなじの上で、急に風に揺らいでいる。 ・嫩柳:若葉の柳(の枝)。 ・嫩:(どん;nen4)わかい。柔らかい。草木の新芽などの形容によく使う。ここでは女性のしなやかな指と腕のこともいっている。 ・輕雲:軽やかな雲。雲は美しい女性の髪の形容でもある。 ・嶺上:みねの上。嶺は(美しい女性の)うなじか胸のことでもあろうか。蛇足になるが、日本語でいう「みね」で、一つだけ高く聳える「みね」を「峰」といい、複数で盛り上がっている「みね」は「嶺」という。 ・乍:たちまち。 ・揺風:風に揺らぐ。
※嫩柳池塘初拂水:若葉の柳の枝が池の水面を撫でるように動いた。女性の踊る振りのさまをもいっている。ここのくだりが李U『柳枝詞』の「風情漸老見春羞,到處消魂感舊遊。多謝長條似相識,強垂煙穗拂人頭」に影響を与えたか。この作品の詞牌の『阿那曲』と李Uの『楊柳枝』とは、詞調が同じ。ただし、『楊柳枝』は平韻になるところが異なる。 ・池塘:浅い池。池の堤。後者の意。 ・初:いましがた。 ・拂水:(柳の枝が風に揺れて、)水面を撫でるように動くこと。
***********
◎ 構成について
単調。二十八字。仄韻一韻到底。この作品は上声。七絶と基本的には同じ。韻式は「aaa」。韻脚は「已裏拂」で、第三部上声四紙。この作品の平仄は次の通り :
○●●○○●●,(韻)
○○●●○○●。(韻)
○○●●●○○,
●●○○○●●。(韻)
2002. 3.12 3.16 3.17完 2007. 9. 9補 2011.10.4 |
次の詩へ 前の詩へ 絶妙清風詞メニューへ ************ 詩詞概説 唐詩格律 之一 宋詞格律 詞牌・詞譜 詞韻 唐詩格律 之一 詩韻 詩詞用語解説 詩詞引用原文解説 詩詞民族呼称集 天安門革命詩抄 秋瑾詩詞 碧血の詩編 李U詞 辛棄疾詞 李C照詞 花間集 婉約詞:香残詞 毛澤東詩詞 碇豐長自作詩詞 漢訳和歌 参考文献(詩詞格律) 参考文献(宋詞) 本ホームページの構成・他 |
メール |
トップ |