******
天涯也有江南信,
梅破知春近。
夜闌風細得香遲,
不道曉來開遍、向南枝。
玉臺弄粉花應妬,
飄到眉心住。
平生箇裏願杯深,
去國十年老盡、少年心。
虞美人
宜州に 梅を見て作る
天涯 也(も また)有り 江南の 信,
梅 破(ほころ)びて 春の近きを 知る。
夜 闌(た)けて 風 細(かす)かになれば 香りを得ること 遲し,
道(はか)らざりき 曉來 開くこと遍し、 南枝に向(おい)て。
玉臺に 粉(おしろい)を 弄(ほどこ)せば 花 應(まさ)に妬むべし,
飄(ただよ)ひて 眉心に 到りて 住(とどま)る。
平生 箇(かく)の裏(さま)ならば 杯の深きを 願ひしも,
國を去ること 十年 老(ほと)んど盡きたり、 少年の心。
*****************
◎ 私感註釈
※黄庭堅:北宋の詩人。慶暦五年(1045年)〜崇寧四年(1105年)。字は魯直、号は涪翁。山谷道人。洪州の分寧(現・江西省修水県)の人。
※虞美人:詞牌の一。詞の形式名。詳しくは 「構成について」を参照。
※宜州見梅作:作者が罪を得て宜州(現・広西省宜山県?註:地名は未確認)にいた折り、梅を見た時の作。
※天涯也有江南信:天のはてとも謂えるここ、宜州にも江南から春の知らせが来た。 ・天涯:天のはて。地のはて。ここでは、その時作者がいた宜州のこと。 ・也有:(白話)…にも(がある)。 ・也:…にもまた。 ・江南信:江南からの便り。
※梅破知春近:梅の花がほころび、春の訪れが近いことを知らせている。 ・梅破:梅の花がほころびる。 ・知春近:春の訪れが近いことを知らせる。
※夜闌風細得香遲:夜が更けて、風が弱まったので、なかなか香りの伝わってこない。 ・夜闌:夜がふけて。 ・風細:風が弱まる。 ・得香遲:香りの伝わってくることが遅い。 ・遲:ぐずぐずしている。のろのろしている。
※不道曉來開遍向南枝:思いがけなくも、暁になって、(梅の花が)南側の枝で、全て開いた。 ・不道:思いがけなく。思いもよらず。思ってもいなかった。推量したこともなかった。はからざりき。 ・道:推量する。推しはかる。 ・曉來:明け方になって。暁になって。 ・開遍:(梅の花が)全て開いた。(梅の花が)開くことがあまねき状態だった。 ・向南枝:南側の枝で。 ・向:…に。≒於。一部動詞の後に附けて、「…に(…する)。」の意。〔動詞+向+場所〕。≒〔動詞+於+場所〕。現代語でいえば〔動詞+在+場所〕、と場所を表す語に続く。中唐・白居易の『賣炭翁』「繋向牛頭充炭直」や北宋・蘇軾の『水調歌頭』に「何事長向別時圓」とある。
※玉臺弄粉花應妬:鏡台で(女性が)おしろいを塗って化粧をすれば、花もきっと妬むにちがいない。 ・玉臺:化粧台。鏡台。(美称)。 ・弄粉:(女性が)おしろいをぬる。転じて化粧をする。 ・弄:(白話)あつかう。する。なす。後に名詞をとって「…をする」という句を作る。 ・花應妬:花もきっと妬むにちがいない。
※飄到眉心住:(花びらが)ひらひらと眉間にとまって、(梅花妝のようになった)。 *梅花が眉間にかかる作品は李C照に多いので、そちらも参照。 ・飄到:(花びらが)ひらひらと…にちりかかり。 ・眉心:眉と眉の間。眉根。眉間。 ・住:(白話)とどまる。
※平生箇裏願杯深:いつもは、そのような状況の時は、なみなみと酒を盃に注いで飲んだものだった。 ・平生:平素は。 ・箇裏:この中。盛唐・李白の『秋浦歌』「白髪三千丈,縁愁似箇長。」や中唐・劉禹錫の『竹枝詞』「箇裏愁人腸自斷」での「箇」と同じ用法。旧白話で「そのなかで」「このうち」「このなかで」「此中」に同じ。 ・願:…であることを願う。 ・杯深:酒を注ぐ盃が深いことを。酒を多く飲む。
※去國十年老盡、少年心:故郷を去って十年、若者の風流を感じる心は、もうすっかりなくなってしまった。 ・去國十年:国(京)を去って(この流謫の地に来て)十年になるが。 ・老盡:ほとんどなくなってしまった。すっかりなくなってしまった。 ・老:(白話)非常に。甚だ。常の程度を越えているさまをいう。 ・少年心:若者の心意気、風流を感じる心。
***********
◎ 構成について
平韻一韻到底。韻式は「AAA」。韻脚は「銷朝喬」で、平水韻下平二蕭。この作品の平仄は次の通り :
●●○○●●○,(韻)
●○○●●○○。(韻)
○○●●○○●,
○●○○●●○。(韻)
2002. 4. 9 4.10完 2009.11.12補 |
次の詩へ 前の詩へ 絶妙清風詞メニューへ ************ 詩詞概説 唐詩格律 之一 宋詞格律 詞牌・詞譜 詞韻 唐詩格律 之一 詩韻 詩詞用語解説 詩詞引用原文解説 詩詞民族呼称集 天安門革命詩抄 秋瑾詩詞 碧血の詩編 李U詞 辛棄疾詞 李C照詞 花間集 婉約詞:香残詞 毛澤東詩詞 碇豐長自作詩詞 漢訳和歌 参考文献(詩詞格律) 参考文献(宋詞) 本ホームページの構成・他 |
メール |
トップ |