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月落烏啼霜滿天,
江楓漁火對愁眠。
姑蘇城外寒山寺,
夜半鐘聲到客船。
楓橋夜泊
月 落ち 烏 啼いて 霜 天に滿つ,
江楓の 漁火 愁眠に 對す。
姑蘇 城外の 寒山寺,
夜半の 鐘聲 客船に 到る。
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2007年春の蘇州・寒山寺前江村橋。 2007年春の蘇州・寒山寺。 2007年春の蘇州・寒山寺。 一新された『楓橋夜泊』の詩碑。(文化大革命が終結した後の八〇年代初頭とは、場所や環境が異なっている。)
◎ 私感註釈
※張繼:中唐の詩人。字は懿孫。襄州(現・湖北省襄陽)の人。生没年不詳。天宝十二年(753年)の進士。検校祠郎中となった。
『三体詩』より 『聯珠詩格』より
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※楓橋夜泊:楓橋古鎮に夜、泊まった。 *当時からこの辺りは湖沼が多く、水路が発達し、全てが船旅であった。後出の空海も船でここを訪れた。 ・楓橋:蘇州城の西閭門外の西5キロメートルの楓橋鎮にある。楓橋××の地名は多いが「寒山寺」は見つけるのが難しい。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)54ページ「唐 淮南道」には蘇州、呉県、長洲はあるが、寒山寺や楓橋はない。 *この詩は有名であるためにか、詩の描写している場面についての疑問が多く出されてきた。
曰く:「烏啼」ではカラスが一般的に鳴く時間帯からおこる疑問や「月落」との関係、「烏啼」の時刻、「霜滿天」の「霜」、「江楓」の意、「漁火」は夏場ではないのか、「夜半鐘」…というような疑問等等。それらについて、伝統的な解釈と私の考えとを以下の註釈で述べる。
なお、後世、北宋・孫覿がこの詩に基づいて『過楓橋寺』「白首重來一夢中,山不改舊時容。烏啼月落橋邊寺,倚枕猶聞半夜鐘。」と作った。
※月落烏啼霜滿天:月は西に落ちて、カラスが啼き、霜は満天下に降りている。 ・月落:月が西に沈む。夜が更けたことを謂う。ただし、新月〜三日月の頃はそうではなく夕刻ので、「烏啼」の説明がつくので、三日月と見ればよく意味が通る。中唐・司空曙は『江村即事』で「釣罷歸來不繋船,江村月落正堪眠。縱然一夜風吹去,只在蘆花淺水邊。」とする。 ・烏啼:カラスがなく。また、烏啼山ともする。(その場合、烏啼山は楓橋の西にあって、唐代以前にあったかどうかを確認する必要がある)李白の『楊叛兒』に「君歌楊叛兒,妾勸新豐酒。何許最關人,烏啼白門柳。烏啼隱楊花,君醉留妾家。博山爐中沈香火,雙煙一氣凌紫霞。」とある。 ・霜滿天:霜が満天下に降りているような寒気があること。
※江楓漁火對愁眠:川辺の楓が漁り火に映えて、川辺のいさり火は、旅人(作者)の旅愁を帯びた眠りに向かっている。 ・江楓漁火:川辺の楓が漁り火に映えて。 *江楓は、品種名でもあるが、この詩作では関係が無かろう。「江楓」を「江村」ともする。 ・漁火:漁(いさ)り火。 ・愁眠:旅愁を帯びた眠り。また、旅愁のために眠りにくい状態であることも(ここではいえる)。
※姑蘇城外寒山寺:姑蘇城(蘇州城)外の寒山寺(から)。 ・姑蘇城:姑蘇は春秋戦国時代の呉の国都。現・江蘇省呉県で、蘇州東臨で、蘇州とほぼ重なる。『中国歴史地図集』第一冊 原始社会・夏・商・西周・春秋・戦国時期(中国地図出版社)29−30ページ「春秋 楚呉越」にある。呉と五湖(現・太湖)の間。 ・寒山寺:寺院の名で、蘇州の西方五キロメートルの楓橋鎮にある。この寺院は、南北朝の梁の天監年間に建てられた。元は、妙利普明塔院といったが、唐代の僧、寒山(「寒山拾得」の寒山)がここに住持としていたことから、名が寒山寺と改められた。境内にはこの詩をはじめとする石刻や寒山拾得に関する文物があり、蘇州観光の要衝でもある。外観は真っ黄色で塗り上げられ、壁に大きく表札(?)が出されており、日本人の寺院イメージとは大きく異なる、独特の雰囲気を持つ。蛇足になるが、ここへは我が国の空海が延暦二十三年(紀元804年)に、船旅で訪れている。
※夜半鐘聲到客船:(寒山寺から)夜中の鐘の音が(張継の)旅宿としている船に(響いて)きた。 ・夜半鐘聲:夜中の鐘の音が(寒山寺から)。 *ここの句について、宋・欧陽脩は、「三更は鐘をつく時ではない」とし、呉韋は「邱仲孚は読書を好み、宵鐘が鳴るまで続けた」との記録があることに拠り、「夜半の鐘」はありうると見る。 ・到客船:張継が旅宿としている船に(響いて)きた。 ・客船:旅宿としている船。
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◎ 構成について
七絶仄起。一韻到底。韻式は「AAA」。韻脚は「天眠船」で、平水韻下平一先。以下の平仄は、この作品のもの。
●●○○○●○,(韻)
○○○●●○○。(韻)
○○○●○○●,
●●○○●●○。(韻)
2002.11.29 12. 3完 2006. 7.30補 2007.10.27 2010.10. 9 2012. 4. 6 |
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