陶潜　陶淵明帰園田居　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 taoqian　taoyuanming

                     陶淵明


　　　　　　　　　　　　　　     東晉　陶潛
      歸園田居　五首
       其二

野外罕人事，
窮巷寡輪鞅。
白日掩荊扉，
虚室絶塵想。
時復墟曲中，
披草共來往。
相見無雜言，
但道桑麻長。
桑麻日已長，
我土日已廣。
常恐霜霰至，
零落同草莽。

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園田の居に　歸る　五首

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　其二
野外　　人事　罕に，
窮巷　　輪鞅　寡し。
白日　　荊扉を　掩ひ，
虚室　　塵想を　絶つ。
時に復た　　墟曲の　中，
草を披きて　　共に　來往す。
相ひ見て　　雜言　無く，
但だ道ふ　　桑麻　長ずと。
桑麻　　日びに　已に長く，
我土　　日びに　已に廣し。
常に恐るは　　霜霰の　至りて，
零落　　草莽に　同からんことを。

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◎　私感註釈

※陶潛：東晉の詩人。官吏をやめて、隠棲をする折りの詩。
※歸園田居：田舎へ帰る。帰田、帰耕すること。これは、全五首の中の第二首。
※野外罕人事：田舎での人とのつき合いは、稀になって。　・野外：郊外。作者のいる田舎のこと。　・罕：まれである。　・人事：他人との交際などの諸事。俗事。塵事。『歸去來兮辭』の「歸去來兮，請息交以絶遊。世與我以相遺，復駕言兮焉求。」とあるのに同じ。
※窮巷寡輪鞅：行き詰まった貧しげな辻の奥には、（訪れる）車馬も少ない。　・窮巷：袋小路状の細く貧しげな路地。　・寡：少ない。　・輪鞅：〔りんあう；lun2yang1〕車と馬。　・鞅：馬のむながい。馬の頭に取り付けて、馬車を御するのに用いたもの。
※白日掩荊扉：昼間からイバラのとびらのような見苦しい扉は、覆い閉ざして。　・白日：昼間。日が射している明るい昼間の時間帯。明るいうち。暗い夜間に対して使う。必ずしも正午頃を指すとは限らない。現代語でいう“白天”。　・掩：覆い閉ざす。門を閉ざす。『歸去來兮辭』では、「園日渉以成趣，門雖設而常關。」とあるのに同じ。　・荊扉：イバラのとびらのような見苦しい扉。
※虚室絶塵想：がらんとした部屋の中には、俗世間でのような思いは絶えてない。　・虚室：がらんとした部屋。　・絶：絶えてない。　・塵想：世俗の思い。俗念。
※時復墟曲中：時にはまた、村の片隅で。　・時復：時にはまた。　・墟曲中：荒れた村里のすみで。
※披草共來往：草を押し分けて、（村の農民と）ともに行き来している。　・披：ひらく。ひろげる。　・共：…と。　・來往：行き来する。交流する。つき合う。
※相見無雜言：出会っても無駄口は言わず。　・相見：会う。　・無雜言：無駄口を言わない。
※但道桑麻長：ただクワやアサが大きくなったことを言うのみである。農事のみを言う。　・但道：ただ…だけを口に出して言う。　・桑麻：クワとアサ。田舎の代表的な作物。田園の象徴でもある。田園。　・長：大きくなる。動詞で上声。形容詞の「ながい」ではない。
※桑麻日已長：クワやアサは、日増しに成長し。　・日：日ごとに。日増しに。　・已：すでに。とっくに。
※我土日已廣：わたしの畑は、（開墾のため）日増しに広くなっていく。　・我土：わたしの畑。わたしの領域。「はたけ」の意は「圃」「畦」で、「畑」「畠」は国字。現代語では、“…田”“…地”系の表現が多い。　・廣：広くなる。動詞の用法。
※常恐霜霰至：いつも恐れているのは、霜やアラレが来ることである。「常恐」以降の句「霜霰至，零落同草莽。」が、恐れている内容になる。　・常恐：いつも恐れている　・霜霰：霜やアラレ　・至：やってくる。
※零落同草莽：（畑の作物が）枯れ凋んで、草むらのようにならないかということである。・零落：枯れ凋む。落ちぶれる。前者の意。　・同：…に同じ。　・草莽：草むら。

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◎　構成について

韻式は「aaaa（a）aa」の上声韻。韻脚は「鞅想往長（長）廣莽」。平水韻で見れば上声二十二養になる。この作品の平仄は次の通り。

　　　●●●○●，
　　　○●●○●。（韻）
　　　●●●○○，
　　　○●●○●。（韻）
　　　○●●●○，
　　　○●●○●。（韻）
　　　○●○●○，
　　　●●○○●。（韻）
　　　○○●●●，（？）
　　　●●●●●。（韻）
　　　○●○●●，
　　　○●○●●。（韻）
　　　