菩提寺禁,裴迪來相看説:逆賊等凝碧池上作音樂,供奉人等舉聲,便一時涙下。私成口號,誦示裴迪。
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萬戸傷心生野煙,
百官何日再朝天。
秋槐葉落空宮裏,
凝碧池頭奏管絃。
凝碧詩
菩提寺の禁に,裴迪 來り相ひ看て説ふに:「逆賊等(は) 凝碧池上にて 音樂を作(な)すに,供奉人等 聲を舉ぐ,便(すなは)ち 一時に涙 下れり」と。 私(ひそか)に 口號を成し,誦して裴迪に示す。
萬戸 傷心して 野煙 生じ,
百官 何れの日か 再び 天に 朝せん。
秋槐 葉は 落つ 空宮の裏,
凝碧池頭に 管絃を 奏づ。
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◎ 私感註釈
※王維:盛唐の詩人。701年(長安元年)?〜761年(上元二年)。字は摩詰。太原祁県(現・山西省祁県東南)の人。進士となり、右拾遺…尚書右丞等を歴任。晩年は仏教に傾倒した。
※凝碧詩:洛陽にある御苑内の池の名であり、忠誠の意でもある詩。『全唐詩』での詩題は『菩提寺禁裴迪來相看説逆賊等凝碧池上作音樂供奉人等舉聲便一時涙下私成口號誦示裴迪』。また、『菩提寺誦示裴迪』(『菩提寺にて誦み 裴迪に示す』)ともする。作者の王維が安禄山の乱の時、賊軍のために菩提寺に拘禁されていた際の作品。乱が平定された後、王維は、賊軍に仕えた嫌疑を受けたが、この 裴迪ために作った詩のために一命が助かったという、いわく付きのもの。このことから、この『凝碧詩』は、「忠誠心を表示する」の意としても使われる。≒化碧。なお、このページでの詩題は、『舊唐書』に合わせて、短く『凝碧詩』とする。本サイトでは本来の詩題を序文、前文扱いとした。『舊唐書・文苑 下』では『凝碧池詩』とする。『舊唐書・列傳・文苑下』の王維の項では「祿山陷兩都,玄宗出幸,維扈從不及,爲賊所得。維服藥取痢,偽稱病。祿山素憐之,遣人迎置洛陽,拘於普施寺,迫以僞署。祿山宴其徒於凝碧宮,其樂工皆梨園弟子、教坊工人。維聞之悲惻,潛為詩曰:「萬戸傷心生野煙,百官何日再朝天。秋槐花落空宮裏,凝碧池頭奏管絃。」賊平,陷賊官三等定罪。維以凝碧詩聞于行在,肅宗嘉之,會縉請削己刑部侍郎以贖兄罪,特宥之,責授太子中允,乾元中,遷太子中庶子、中書舍人,復拜給事中,轉尚書右丞。ここでは、「楽人が悲しんだ」のではなく「王維が悲しんだ」となっている(青字部分)。(わたし・王維が)菩提寺に拘禁された時、(友人の)裴迪がやって来て看て言うには:「逆賊等は、(宮中にある)凝碧池で音楽演奏会をしたが、(演奏のために)供奉した人等が(皇帝の御代を懐かしがって)声を挙げて泣き出し、一斉に涙を流した」ということだった。(そこで、わたしは)ひそかに声に出して詩を作り、口づてに裴迪に示した。なお、「一時涙下」は、「供奉人等」のことなのか、この話を聞いた王維になるのか。どちらとも、都合が良い方にとれる。『舊唐書・文苑 下』では既述のとおり、後者になっている(青字部分)。
※萬戸傷心生野煙:多くの建物に心をいためるモヤがたちこめている。 *安禄山の乱のために皇帝が成都の方に避難して、主がいなくなった長安は、哀しみの煙霧に満ちているということ。 ・萬戸:多くの家々。或いは、宮中に多くの建物群。王維の六言詩『田園樂七首』「出入千門萬戸,經過北里南鄰。」では、宮中に多くの建物が並んでいる壮麗なさまをいう。 ・傷心:心をいためる。心をいたましめる。 ・生:うまれる。出る。湧く。 ・野煙:野のもや。野原の煙。 *ここの「野」の意味を強くとると、ここの句は、長安の市街全体の情景になり、軽く見れば、長安の宮城内のようすになる。
※百官何日再朝天:多くの役人がいつ再び参内するようになるのだろうか。 ・百官:多くの役人。多くの官僚。百僚。 ・何日:いつ。いづれの日。 ・再:ふたたび。 ・朝天:天子に拝謁する。天闕に朝する。盛唐・杜甫の『飮中八仙歌』に「知章騎馬似乘船,眼花落井水底眠。汝陽三斗始朝天,道逢麹車口流涎,恨不移封向酒泉。左相日興費萬錢,飮如長鯨吸百川,銜杯樂聖稱避賢。宗之瀟灑美少年,舉觴白眼望青天,皎如玉樹臨風前。蘇晉長齋繍佛前,醉中往往愛逃禪。李白一斗詩百篇,長安市上酒家眠。天子呼來不上船,自稱臣是酒中仙。張旭三杯草聖傳,脱帽露頂王公前,揮毫落紙如雲煙。焦遂五斗方卓然,高談雄辨驚四筵。」とあり、南宋・岳飛の『滿江紅』に「怒髮衝冠,憑闌處、瀟瀟雨歇。抬望眼、仰天長嘯,壯懷激烈。三十功名塵與土,八千里路雲和月。莫等閨A白了少年頭,空悲切。 康耻,猶未雪。臣子憾,何時滅。駕長車踏破,賀蘭山缺。壯志饑餐胡虜肉,笑談渇飮匈奴血。待從頭、收拾舊山河,朝天闕。」とある。 ・朝:参内する。朝廷に上って皇帝に拝謁する。動詞。 ・天:皇帝。朝廷をいう。
※秋槐葉落空宮裏:秋になって、エンジュの葉が主のいない宮中に散り始めた。 ・秋槐:秋になって葉が散り始めたエンジュ。 ・葉落:葉が散る。 ・空宮裏:主がいなくなって、空しくなった宮中の意。
※凝碧池頭奏管絃:洛陽の宮城内にある凝碧池では、管楽器と弦楽器による盛大な音楽会が催された。(そして、そこでは、題記でいうように、供奉した人等が皇帝の御代を懐かしがって、声を挙げて泣き出し、一斉に涙を流したということなのだ)。ただこの聯を素直に読めば、「いつ再び、にぎやかになって、凝碧池頭で(玄宗皇帝の下で)また管絃が奏されることになろうか」になるのではないか。 ・凝碧池:洛陽の宮城内にある池の名。後、「凝碧池頭翠漣,鳳皇樓畔簇晴煙。新詞欲詠知難詠,説與雙成入管弦。」と宮中の庭の意になる。「化碧」≒碧血(忠義の意)を聯想させることばでもある。 ・〔[場所]+頭〕:…で。…のほとりで。 ・奏:音楽を演奏する。かなでる。 ・管絃:管楽器と弦楽器。音楽の盛大な演奏を謂う。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。 韻脚は「煙天絃」で、平水韻下平一先。次の平仄はこの作品のもの。
●●○○○●○,(韻)
●○○●●○○。(韻)
○○●●○○●,
○●○○●●○。(韻)
2004.2.22完 2005.2. 2補 2011.2.19 2014.6. 3 2015.3.10 |
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