賀知章回郷偶書詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 hezhizhang

                     　       　　
      回郷偶書
　　　　　　　　　　　　　　
      　　　　　　　　　　　　賀知章　

離別家鄕歳月多，
近來人事半消磨。
唯有門前鏡湖水，
春風不改舊時波。

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回郷偶書　　　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
家鄕( かきゃう)を　離別( りべつ)して　　歳月　多く，
近來(きんらい)　人事(じんじ )に　　半(なか)ば　消磨(せうま )す。
唯(た)だ有(あ)り　門前　　鏡湖(きゃうこ )の水(すゐ)，
春風(しゅんぷう)　改(あらた)めず　　舊時(きうじ)の波を。

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◎　私感註釈

※賀知章：盛唐の詩人。６５９年（顯慶四年）～７４４年（天寶三年）。字は季真。浙江の四明山に取った四明狂客と号する。越州永興（現・浙江省蕭山市）の人。則天武后の代に進士に及第して、国子監、秘書監などに任じられた。

※回郷偶書：帰郷してたまたま詩を書く。この作品は「少小離家老大回，鄕音無改鬢毛摧。兒童相見不相識，笑問客從何處來？」と二首一組のものになる。

※離別家郷歳月多：故郷を離れてから歳月は多く（経った）。　・離別：はなれ別れる。人と別れる。別離する。　・家郷：故郷。郷里。　・歳月：年月。

※近來人事半消磨：近ごろは、俗世界の人間関係に、半ばうんざりしてきて消耗している。　・近來：近頃。このごろ。　・人事：俗事。人の世の出来事。人間社会の事件。（自然界のことがらに対して）人間に関することがら。　・半：なかば。　・消磨：〔せうま；xiao1mo2○○〕磨（す）り減ること。磨（す）れてなくなること。磨滅。

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賀秘監（賀知章）祠：賀知章の旧居

※唯有門前鏡湖水：ただ、（郷里の家の）門前の鏡湖の水（面）だけは。　・唯有：ただ…だけがある。　・門前：門の前。門の向かい側。家の前。　・鏡湖：浙江省杭州の東南５０キロメートルのところで、現・浙江省紹興市越城區にあった。北宋の初めに鑑湖と改称されたが、やがて、田地となり、今は賀秘監祠（＝右：地図中心。俗称：湖亭廟）となって遺っている。水郷地帯とも謂える地方で、多くの沼沢や河川・疏水が流れていた。長湖、太湖、慶湖ともいう。開元中に秘書監・賀知章に『鏡湖溪』一曲を賜う。因って、賀監湖ともいう。杭州の南にある紹興市越城區。（地図：右）。秋瑾の鑑湖女侠の号の由来の地。なお、安徽省の撫湖市にも鏡湖があるが、賀知章の活動範囲ではない。　・湖：みずうみ。なお、「湖」は洞庭湖のように大きなものに附けられるのが相当だが、日本語でいう「いけ」のようなものでも“■■湖”と呼んでいる場合がある。昆明湖や未名湖、本渓湖…と。この詩句の鏡湖も『中国歴史地図集』第五冊　隋・唐・五代十国時期（中国地図出版社）５５－５６ページ「唐　江南東道」にもなく、その規模は小さいものだったのか。

※春風不改舊時波：春風に、昔と変わることなく波を立てている。　・春風：春の風の意。ここでは、前出「人事」に対して、「鏡湖水」とともに、不変の大自然の営みの意で使われている。　・不改：改まることがない。変わらない。　・舊時：昔の時。過ぎ去った昔。往時。もと。　・波：小波。ここでは､鏡湖の波のことになる｡

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◎　構成について

　韻式は、「AAA」。韻脚は「多磨波」で、平水韻下平五歌。この作品の平仄は次の通り。

○●○○●●○，（韻）
●○○●●○○。（韻）
○●○○●○●，
○○●●●○○。（韻）