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      十牛圖第九返本還源
              
                  廓庵 
頌曰:
返本還源已費功,
爭如直下若盲聾。
庵中不見庵前物,
水自茫茫花自紅。


******

 十牛圖第九 返本還源       
(うた)ひて 曰く:
本に返
(かへ)り 源に還(かへ)りて  已(すで)に功を費(つひや)す,
(いかでか)か如(し)かん 直下(ぢきげ)に  盲聾の若(ごと)くならんには。
庵中には  庵前の物を 見ず,
水は 自
(おのづか)ら 茫茫(ばうばう)  花は自ら紅(くれなゐ)なり。

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◎ 私感註釈

※廓庵:宋代の禅僧。

※十牛圖第九:廓庵和尚の『十牛圖頌』。初めは「八牛」で後世、九、十図が加えられたものという。人が真実の自己の姿を追い求めて、禅の悟りに至る境地を絵に表し詩でうたったもので、その過程の姿をさまざまな人と牛との関係として描き、「尋牛」「見跡」「見牛」「得牛」「牧牛」「騎牛歸家」「忘牛存人」「人牛倶忘」「返本還源」「入垂手」と表現する。その第九番目のものになる。この作品は含蓄あるものというが、禅については分からないので、漢字の字義を逐っての漢詩としての解釈であることに、御注意。

※返本還源:根源にたち返る。 ・返:かえる。かえす。もどってくる。ひっくり返す。 ・還:かえる。行った先からかえる。くるりと向きを変える。Uターンをしてかえる。 ・本:もと。根元。中心。もともと。昔。 ・源:みなもと。ものごとのはじめ。水流の発する所。根源。

※頌曰:うたっていうことには。 *「曰」の後にはそのいう内容がくる。

※返本還源已費功:根源にたち返ってみれば、すでに充分な修行や努力をしてきた。 ・已:すでに。とっくに。 ・費:無駄に使う。ついえる。ついやす。 ・功:働き。仕事。業。ききめ。

※爭如直下若盲聾:(見聞きして迷わされてきたが、それならばいっそのこと)目や耳が不自由であった方がよかったともいえる。 ・爭如:どうして…に及ぼうか。…でない方がよい。≒不如。 ・爭:いかでか。どうして。いかんせん。反語。 ・直下:真っ直ぐに下る。直(す)ぐ下。真下。 ・若:同じだ。…のようである。似ている。しく。及ぶ。如し。 ・盲聾:目や耳の不自由な(人)。

※庵中不見庵前物:僧侶のいる(狭い)草庵の中からは、庵室の外に(存在する)事物は見え(てこ)ない。 ・庵中:庵室の中。僧侶のいる草庵の中。 ・庵:〔あん;an1○〕大寺に付属する小僧房で、僧侶が仏を安置して住む家。草葺きの小さな家。草庵。 ・不見: ・庵前:庵室の前。 ・物:実在する物質。

※水自茫茫花自紅:(個人の修行や、努力をするしないにかかわらず、自然にある)湖水は、果てしもなく拡がっており、花は働きかけずとも、赤く色づいて(できあがって)いる。 ・水:河川や湖水。 ・自:それ自身。働きかけることをしなくてもそれ自体で。 ・茫茫:〔ばうばう;mang2mang2○○〕(水面が)広々としてはるかに拡がるさま。ぼんやりとしてはっきりしないさま。 ・紅:あかい。くれないである。





◎ 構成について

 韻式は「AAA」。韻脚は「功聾紅」で、平水韻上平一東。平仄はこの作品のもの。
●●○○●●○,(韻)
○○●●●○○。(韻)
○○●●○○●,
●●○○○●○。(韻)

2006.5.20
     5.21
     5.22

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