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桃花曲 | |
元・劉秉忠 |
一川芳景,
一壺春酒,
一襟幽緒。
今朝好天色,
又無風無雨。
水滿淸溪花滿樹。
有閒鷗、伴人來去。
行雲望逾遠,
更靑山無數。
******
鳳棲梧
一川 の芳景 ,
一壺 の春酒 ,
一襟 の幽緒 。
今朝 好 き天色 ,
又た風 無く雨 無し。
水 は淸溪 に滿ちて 花は樹 に滿つ。
閒鷗 有りて、 人に伴 ひて來去 す。
行雲 望めば逾 よ遠く,
更に靑山 無數なり。
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◎ 私感註釈
※劉秉忠:元代の政治家、作家。1216年~1274年。初めの名は侃。後に秉忠。字は仲晦。号して、蔵春散人。邢州(現・河北省邢台市)の人。曽祖父が金朝の時に邢州の職に就いたために、邢州に移った。モンゴルが金を滅ぼした後、劉秉忠は邢台節度府令史に就任するが、やがて武安山に隠棲する。後に、元・世祖・フビライに仕え、元の国政に参画し、高官となった。
※桃花曲:詞牌の一。四十六字。『憶少年』『十二時』『隴首山』ともいう。
※一川芳景:辺り一面の花のかぐわしい春の景色。 ・一川:一面の原野。=満川(=平野一面に、の意)。辺り一面の素晴らしい、の意。また、全川。また、一すじの川の流れ。 ・川(せん):はら。原(はら)。広野。ここの「川(せん)」は詩語で「平川(へいせん)」((川のある)平野)、「川原(せんげん)」(平原。広野。広々として人影のないところ)の意。詩詞では川(かわ)の有無に関わらず、「一川(いっせん)」「川原(せんげん)」と表現することが多い。南宋・張孝祥の『六州歌頭』に「長淮望斷,關塞莽然平。征塵暗,霜風勁,悄邊聲。黯銷凝。追想當年事,殆天數,非人力。洙泗上,絃歌地,亦羶腥。隔水氈鄕,落日牛羊下,區脱縱橫。看名王宵獵,騎火一川明,笳鼓悲鳴,遣人驚。」とあり、南宋・范成大の『橫塘』に「南浦春來綠一川,石橋朱塔兩依然。年年送客橫塘路,細雨垂楊繫畫船。」
とあり、賀鋳の『青玉案(凌波不過横塘路)』の「若問閑情都幾許?一川煙草,滿城風絮,梅子黄時雨」(一川煙草:一面に茂る草)とあり、呂本中の『滿江紅』東里先生に「東里先生,家何在、山陰溪曲。對一川平野,數間茅屋」とあり、宋・無名氏の『鳳棲梧』に「綠暗紅稀春已暮,燕子銜泥,飛入垂楊處。柳絮欲停風不住,杜鵑聲裏山無數。 竹枝芒鞋無定據,穿過溪南,獨木橫橋路。樵子漁師來又去,一川風月誰爲主?」
とあり、明・辛愿の『亂後』に「兵去人歸日,花開雪霽天。川原荒宿草,墟落動新煙。困鼠鳴虚壁,飢烏啄廢田。似聞人語亂,縣吏已催錢。」
と使う。 ・芳景:花のかぐわしい春の景色。
※一壷春酒:一壷の春の酒。 ・春酒:新春の酒。春にできる酒。また、春に仕込んだ酒。春に造って置いた酒。また、春の酒。酒の美称。『詩經・国風・豳風』中の『七月』「八月剥棗,十月穫稻。爲此春酒,以介眉壽。」は、新春の酒、春にできる酒の意になる。中唐・劉禹錫の『竹枝』に「兩岸山花似雪開,家家春酒滿銀杯。昭君坊中多女伴,永安宮外踏靑來。」とある。
※一襟幽緒:胸中の物静かな心。 ・襟:胸中。心の中。 ・幽緒:奥深く物静かな心。
※今朝好天色:今朝(けさ)の素晴らしい天気(は)。 ・好:素晴らしい。 ・天色:天気。空模様。また、空の色合い。
※又無風無雨:風も無く、また雨もない。 *この詞牌・『桃花曲』のここの句は「又・無風無雨」と切る。=逗(=領字)。 ・又:(…であり、)また(…である)。また。状態が相継いで発生することを表す。 ・無風無雨:風や雨がない。穏やかな天気を謂う。反対に「風」と「雨」がある「風雨」(ふうう)は、「あらし」になる。なお、「無風無雨」は○○●●(○○●○)のところで使い、●●○○(○●○○)のところで使う場合は、「無雨無風」とする。ここでは、「無風無雨」が適切。
※水満清渓花満樹:水は清らかな谷川の流れに満ちて、花は木に満ちている。 *この句は句中の対「水満清渓+花満樹」〔S・V・C+S・V・C〕の構成になっている。 ・清渓:清らかな谷川の流れ。
※有閑鴎、伴人来去:ひまで自由なカモメの、人に付き従って行き来しているのがいる。=「有〔閑鴎+伴人来去〕」。この詞牌・『桃花曲』の形式では、ここの句は「有・閑鴎+伴人来去」と切るのが決まりである。(・=逗)。ただし、この場合の読み下しが難しい。「有閑鴎、伴人来去」を「閑鴎の人に伴ひて来去する有り」とすると、「有閑鴎、伴人来去」の赤字部分を生かし切れない。「「閑鴎有りて、人に伴ひて来去す」とすれば「有」の係っていくのかがやや不明瞭のようであるし…と。 ・閑鴎:ひまで自由なカモメ。 ・伴:お供する。付き従う。連れになる。 ・来去:行き来する。来ると行くと。行き帰り。
※行雲望逾遠:空を流れ行く雲を眺めれば、いよいよ遠く。 ・行雲:空を流れ行く雲。漂う雲。 ・逾:いよいよ。
※更青山無数:その上、樹木が青々と茂っている山が無数(に見える)。 *この詞牌・『桃花曲』のここの句は「更・青山無数」と切る。=逗。=領字。 ・更:その上。さらに。 ・青山:樹木が青々と茂っている山。また、墳墓の地。ここは、前者の意。晩唐・杜牧の『寄揚州韓綽判官』に「靑山隱隱水遙遙,秋盡江南草木凋。二十四橋明月夜,玉人何處敎吹簫?」とあり、清・陳文述の『漁父詞』に「打槳湖邊問酒家,青山澹冶隔明霞。風過處,縠紋斜,蓑衣吹滿碧桃花。」
とある。
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◎ 構成について
桃花曲 四十六字。『憶少年』『十二時』『隴首山』ともいう。双調。仄韻一韻到底。韻式は「aa aaa」。韻脚は「緒雨 樹去數」で、詞韻第四部仄声(上声・去声)。
○
●,
○
●,
○
●。(韻)
○○●○●,
●+○○●。(韻)
●●○○○●●。(韻)
、●○○●。(韻)
○○●●,
●+○○●。(韻)
2017.5.21 5.22 |
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