金鑾除夕　詩詞世界碇豊長の詩詞：漢詩 Jin Luan

除夕
	明・金鑾

還憶去年辭白下，
卻憐今夕在黄州。
空江積雪添雙鬢，
細雨疏燈共一樓。
世難久拚魚雁絶，
家貧常爲稻梁謀。
歸來故舊多凋喪，
愁對東風感舊遊。

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除夕

還(な)ほ憶(おも)ふ　去年　　白下(はくか )を辭して，
卻(かへ)って憐む　今夕(こんせき)　　黄州に在(あ)るを。
空江(くうかう)　積雪　　雙鬢(さうびん)に添(そ)へ，
細雨　疏燈( そとう)　　一樓を共(とも)にす。
世 (よ)難(なん)にして　久しく拚(す)てて　　魚雁(ぎょがん) 絶え，
家(いへ) 貧(ひん)にして　常に為す　　稻梁(たうりゃう)の謀(はかりごと)を。
歸り來(きた)れば　故舊( こきう)　　凋喪(てうさう) 多く，
愁(うれ)ひて　東風(とうふう)に對し　　舊遊(きういう)に感ず。

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◎　私感註釈

※金鑾：明代の散曲家。１５０６年？～１５９５年？。字は在衡。号して白嶼。隴西（現・甘粛省）の人。父に随って南京に居留する。詩や散曲に巧みであった。

※除夕：（陰暦の）大みそかの夜。除夜。 *本来は家族が集い、団欒の時を過ごすが旅にあって、それが叶うことのない寂しさをも宿した詩。盛唐・高適の『除夜作』に「旅館寒燈獨不眠，客心何事轉悽然。故鄕今夜思千里，霜鬢明朝又一年。」とある。

※還憶去年辞白下：去年、南京を辞去した（時の）ことを、まだ覚えている（のに）。　・還：〔副詞〕なおまた。なお。また。 *第一聯（首聯、起聯）は対句で構成されており、「還憶」と「却憐」とは対になり、「還」と「却」とは共に副詞であり、また、「憶」と「憐」とも動詞で対になる。　・憶：思い出す。忘れない。覚える。　・辞：辞去する。あいさつをして、やめて帰る。　・白下：南京市の別称。現・南京市白下区。南京市の東南。かつて白石山があり、その山すそが「白下陂」と呼ばれていたことに因る。

※却憐今夕在黄州：それにもかかわらず、今年の大晦日（おおみそか）は、黄州（黄岡）にいる。　・却：にもかかわらず。…のに。ところが。反対に。意に反して。　・今夕：今年の大晦日の夜の意。今年の除夕の意。　・在：…に。　・黄州：斉安郡。現・湖北省黄岡のこと。湖北省の長江中流の北岸にある都市名。武漢の東南東７０キロメートルのところ。隋代に黄州となり、唐代では斉安郡と黄州との名が変わり、戻る。『中国歴史地図集』第五冊　隋・唐・五代十国時期（中国地図出版社）５７－５８ページ「唐江南西道」、『中国歴史地図集』第六冊　宋・遼・金時期２７－２８ページ「荊湖南路荊湖北路」に黄州がある。晩唐・杜牧に『齊安郡後池絶句』「菱透浮萍綠錦池，夏鶯千囀弄薔薇。盡日無人看微雨，鴛鴦相對浴紅衣。」とある。

※空江積雪添双鬢：人気のない川辺には、雪が降り積もり、（その雪が）左右両方の耳際の髪の毛にも附け加わって（髪に白いものが交じって）きた。　・空江：人気のないさびしい川。ここでは人気のない川辺を謂う。　・添：〔てん；tian1○〕付け加える。そえる。中唐・白居易の『逢舊』に「我梳白髮添新恨，君掃靑蛾減舊容。應被傍人怪惆悵，少年離別老相逢。」とある。　・双鬢：左右両方の鬢の毛。左右両方の耳際の髪の毛。南宋・陸游の『感事』に「雙鬢多年作雪；寸心至死如丹。」とある。

※細雨疏灯共一楼：霧雨にまばらな燈（ともしび）が、一つの建物とに共にした。「細雨疏灯　共に一楼」と読み下せば，よく通じるが出句「空江積雪添双鬢」の読み下しと合わせるのが難しい…。　・細雨：こまかい雨。きりさめ。中唐・張志和『漁歌子』に「西塞山前白鷺飛，桃花流水鱖魚肥。靑箬笠，綠蓑衣，斜風細雨不須歸。」とある。　・疏灯：〔そとう；shu1deng1○○〕まばらな燈火。　・共：共にする。また、＝恭。＝供〔gong1〕そえる。

※世難久拚魚雁絶：世の中が難儀であって、長い間、聯絡を取ることも打ち棄てていて。 *この句、平仄の配列から考えると「●●○○○●●」と見るのが妥当。その場合「難」は〔●：災難（名詞）。　○：むずかしい（形容詞/動詞）〕、「拚」は〔●：pan4：拾てて顧みない。　○：pin1 寄せ集める。また、顧みない〕。　・久：長い。久しい。　・拚：〔べん？；pan4●〕捨てて顧みない。　・魚雁：通信・手紙を謂う。　・絶：途絶える。

※家貧常為稲梁謀：家が貧しいために、つねに飯（めし）を食（く）うことのみを考えていた。　・家貧：家が貧しい。赤貧。　・常：いつも。つねに。　・為：〔ゐ；wei4●〕〔介詞〕：…ために。なお、〔動詞〕「なす」は〔ゐ；wei2○〕。詩の平仄配列「○○●●●○○」（この詩の詩句は「○○○●●○○」）から考えると前者。　・稲梁謀：（天下国家のことに思いを致すこと無く、）飯（めし）を食（く）うことのみを考える。口を糊して凌ぐことを考える。≒糊口の計。　・稲梁：〔dao4liang2〕イネとオオアワ。穀物を謂う。

※帰来故旧多凋喪：帰ってみれば、昔なじみの多くは、おとろえ亡くなり。　・帰来：帰ってきたら。戻ってみれば。　・故旧：古くからの友だち。昔なじみ。旧知。　・多：ここでは、多く（は）。　・凋喪：〔てうさう；diao1sang4○●〕しぼみおとろえる。元気がなくなる。

※愁対東風感旧遊：春風に向かって、昔、遊んだところで感慨に耽っている。　・愁：うれうる。かなしむ。うれい。かなしみ。　・対：…に向かって。…に対して。　・東風：春風。東から吹いてくる風。　・旧遊：昔、遊んだところ。曽遊の地。また、旧友。晩唐・杜牧の『自宣城赴官上京』に「瀟灑江湖十過秋，酒杯無日不淹留。謝公城畔溪驚夢，蘇小門前柳拂頭。千里雲山何處好，幾人襟韻一生休。塵冠挂卻知閒事，終擬蹉跎訪舊遊。」とあり、南唐後主・李煜に『柳枝詞』「風情漸老見春羞，到處消魂感舊遊。多謝長條似相識，強垂煙穗拂人頭。」と使う。

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◎　構成について

韻式は、「AAAA」。韻脚は「州樓謀遊」で、平水韻下平十一尤。この作品の平仄は、次の通り。

○●●○○●●，
●○○●●○○。（韻）
○○●●○○●，
●●○○●●○。（韻）
●●●○○●●，
○○○●●○○。（韻）
○○●●○○●，
○●○○●●○。（韻）