夜行 | |
北宋・晁沖之 |
老去功名意轉疎,
獨騎瘦馬取長途。
孤村到曉猶燈火,
知有人家夜讀書。
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夜行
老い去りて 功名に 意轉 た疎なり,
獨 り瘦馬 に騎 りて長途 を取る。
孤村曉 に到りて猶 ほ燈火 ,
知 んぬ 人家の 夜に書を讀む 有るを。
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◎ 私感註釈
※晁沖之:北宋の詩人。生没年不詳。字は叔用。号して具茨先生。鉅野(現・山東省内) の人。官途に就かずに隠棲して終った。江西詩派の詩人として知られる。
※夜行:夜の旅。夜歩き。夜道を行く。 *自分(=作者)は年老いて、立身出世のための努力も遠い存在となったが、この村には、これからの人生の栄達のために奮闘している若者がいるのだなあ…、との感慨を詩にしたもの。そのため、詩中「(夜行)」「老去」「功名」「(轉)疎」「夜讀書」「獨騎」「痩馬」「長途」「孤村」といった心を揺さぶる語彙が多用されている。
※老去功名意転疎:年をとってからは、功績を遂げて名誉を揚げるという思いは、ますます遠ざかり。 ・老去:年をとる。老い去る。「去」は助字。≒老来。 *「老去」と「老来」とについて:「老去」は詩中、平仄で「●●」(「○●」)とすべきところで使い、「老来」は「○○」(「●○」)とすべきところで使う。「老去功名意転疎」は「●●○○●●○」で、「老去」(●●)が適切。南宋・姜夔の『平甫見招不欲往』に「老去無心聽管絃,病來杯酒不相便。人生難得秋前雨,乞我虚堂自在眠。」とある。 ・功名:てがら。功績を遂げて、名誉を揚げる。魏〜西晋・張華の『壯士篇』に「天地相震蕩,回薄不知窮。人物稟常格,有始必有終。年時俯仰過,功名宜速崇。壯士懷憤激,安能守虚沖。乘我大宛馬,撫我繁弱弓。長劍九野,高冠拂玄穹。慷慨成素霓,嘯咤起C風。震響駭八荒,奮威曜四戎。濯鱗滄海畔,馳騁大漠中。獨歩聖明世,四海稱英雄。」とある。 ・意:思い。心。 ・転:なんとなく。ますます。うたた。 ・疎:うとい。遠ざかる。
※独騎痩馬取長途:独(ひと)りで痩せ馬に跨(またが)って、長い道をやってきた。 ・騎:(動詞)〔き;qi2;○〕(馬や自転車など、またがって)乗る。またがる。 なお、(名詞)は〔き;ji4●〕のりうま。乗馬。ここは、前者の意。
※孤村到暁猶灯火:辺鄙(へんぴ)な村里で、夜明けになるまでなおまだ灯火を灯(とも)している(ところがあるが)。 ・孤村:ぽつんと離れた村。辺鄙な村里。宋・蒋氏女の『減字木蘭花 題雄州驛』に「朝雲度。轆轆車聲如水去。白草黄沙。月照孤村三兩家。 飛鴻過也。萬結愁腸無晝夜。漸近燕山。回首ク關歸路難。」とある。 ・到暁:夜明けになるまでの意。 ・猶:なお。まだ。ちょうど…のようだ。なお…ごとし。
※知有人家夜読書:書物を読んで勉学に励み、(立身出世を図っている)者のいることが分かった。 ・知:知る。読み下しでの「知んぬ」は「知りぬ」の音便形。 ・人家:人の住む家。また、人さま。他人。また、彼。ここは、前者の意。 ・読書:本を読む。書物を読んで、勉学に励む。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「疎途書」で、平水韻上平六魚(疎書)・上平七虞(途)。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●●○,(韻)
●○●●●○○。(韻)
○○●●○○●,
○●○○●●○。(韻)
2017.10.22 10.23 10.27 |
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