湖州歌 | |
南宋・汪元量> |
丙子正月十有三,
撾鞞伐鼓下江南。
皐亭山上青煙起,
宰執相看似醉酣。
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湖州 の歌
丙子 の正月 十有三,
鞞 を撾 ち鼓 を伐 ちて江南 に下 る。
皐亭 山上青煙 起こり,
宰執 相 ひ看て醉 ひて酣 なるに似たり。
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◎ 私感註釈
※汪元量:南宋の詩人。生没年不詳。字は大有。号して水雲。錢塘の人。南宋の宮廷琴師で、南宋の滅亡後、北方に抑留された。その詩集『水雲集』は南宋の滅亡までを忠実にうたいあげ、宋亡国の詩史と呼ばれる。晩年は西湖の畔に隠棲した。
※湖州歌:湖州の歌。作者は宮廷琴師として、南宋の滅亡後、北方に抑留されるが、1276年(徳祐二年/景炎元年)、その出発点・太湖南岸の湖州の情景の詩。 ・湖州:現・浙江省湖州市。浙江省の太湖南岸にある。『中国歴史地図集』第六冊 宋・遼・金時期(中国地図出版社)59−60ページ「両浙西路 両浙東路 江南東路」にある。
※丙子正月十有三:南宋・徳祐二年/景炎元年=元・至元十三年(1276年)の正月十八日(二月四日)に。 ・丙子:〔へいし;bing3zi3●●〕ひのえね。干支の十三番目。ここでは、南宋・徳祐二年/景炎元年=元・至元十三年(1276年)のこと。南宋滅亡の年。「丙子」は、干支で表した年。干支とは、十干と十二支の組み合わされた序列の表記法のこと。十干とは、「甲乙丙丁戊己庚辛壬癸」のことをいい、十二支とは「子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥」のことをいう。十干のはじめの「甲」、十二支のはじめの「子」から順に、次のように組み合わせていく: 甲子、乙丑、丙寅、丁卯、戊辰、己巳、庚午、辛未、壬申、癸酉、(以上、10組で、ここで十干は再び第一位の「甲」に戻り、11組目が始まる)甲戌、乙亥、……(ここで、十二支は「子」に戻り、13組目以降は)丙子、丁丑…となって、合計は(ページの)60組になる。これで、1から60までの順を表し、年月日の表示などに使われる。なお、61番目は、1番目の甲子にもどる。還暦である。それ故、丙子年は、徳祐二年/景炎元年=元・至元十三年(1276年)だけに限らず、±60年(の倍数年)も丙子年となる。(例えば:1336年、1396年、1456年…と。また、1216年、1156年…と)。 ・正月十有三:南宋が亡んだ1276年(=元・至元十三年)の正月十八日(二月四日)の五日前。五日後の正月十八日(二月四日)に、元軍が南宋の都である臨安(現・杭州)を攻め落とし、五歳の皇帝である恭帝を捕虜とし、南宋の王朝は亡んだ。その滅亡の五日前。
※撾鞞伐鼓下江南:(元軍が、軍馬の馬上の)つづみを打ち、太鼓をたたき、長江下流域の江南へ南下してきた。 ・撾鞞:太鼓を打つ。 ・撾:〔た;zhua1○〕(太鼓を)打つ。(太鼓を)たたく。なぐる。 ・鞞:〔へい;bing3●〕おおつづみ。刀のさや。=鼙へい;bing3●〕。 ・伐鼓:太鼓をたたく。 ・伐:〔ばつ;fa2●〕たたく。(つづみを)撃つ。 ・下:くだる。南下する。 ・江南:長江下流域の南方にある江蘇省南部から浙江省北部にかけての地域。
※皐亭山上青煙起:(南宋の首都である臨安=杭州の近くの)皐亭山(こうていざん)に青いけむりがあがった(が)。 ・皐亭山:〔かうていざん;Gao1ting2shan1○○○〕杭州市中心より北北東15キロメートルのところにある低い山(海拔361.1メートル)で、東西9キロメートル、南北2.5キロメートル。西から、半山(上掲の地図中央にある)、黄鶴山、元宝山、皋亭山、桐扣山、佛日山等があり、その中で皋亭山が最も高く、海拔361.1メートルで、これらの峰をあわせて皋亭山ともいう。要地。臨平湖に近い。清・王又曾の『臨平道中 同人看白荷花』「皐亭來往省年時,香飮蓮筒醉不辭。莫怪花容渾是雪,看花人亦髩成絲。」とある。 ・青煙:青いけむり。
※宰執相看似醉酣:(我が方=南宋の)宰相は、じっと見れば、心ゆくまで酒を飲んで楽しんでいる(最中の)ようである。 ・宰執:政治を行う最高の官職=宰相。 ・相看:じっと見る。注視する。観察する。 ・似:…のようである。 ・醉酣:心ゆくまで酒を飲んで楽しむ。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「三南酣」で、平水韻下平十三覃。この作品の平仄は、次の通り。
●●○●●●○,(韻)
○●●●●○○。(韻)
○○○●○○●,
●●○◎●●○。(韻)
2019.10.13 10.14 |
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