四時田園雜興・夏日 | |
南宋・范成大> |
采菱辛苦廢犁鉏,
血指流丹鬼質枯。
無力買田聊種水,
近來湖面亦收租。
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四時 の田園雜興・夏日
采菱 の辛苦 犁鉏 を廢 し,
血指丹 を流して鬼質 枯 る。
田を買ふに 力 無くして聊 か水に種 う,
近來 湖面も亦 た租 を收 む。
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◎ 私感註釈
※范成大:南宋の愛国詩人・田園詩人と謂われる。1126年(靖康元年)〜1193年(紹煕四年)。字は致能で、石湖居士と号している。江蘇省呉県の人。司戸参軍、参知政事…等を歴任した。『石湖居士詩集』『石湖詞』等がある。
※四時田園雑興:四季の田園のさまざまな事物に感じて感興を述べた詩。 *長閑(のどか)な春の田舎生活を描写している。 ・四時:〔しいじ;si4shi2●○〕四季。春・夏・秋・冬の四つの季節の総称。このページの詩は「夏日」で、強烈な政治諷刺の詩。 ・田園:いなか。田と畑。 ・雑興:さまざまな事物に感じて感興を述べた詩の題。 ・夏日:作者は四季の「田園雑興」を「春日」「晩春」「夏日」「秋日」「冬日」とそれぞれを詠い、各十二首で、全六十首ある。(本サイトでは、他のページでも採り上げているので、要参照)。国立国会図書館の『范石湖四時田園雑興詩鈔』(三頁)にある。このページの詩は、痩せ衰えた農民の勤労の様子を詠い、税はヒシの実の栽培にまで及ぶという苛烈さを詠み込んでいる。
※采菱辛苦廃犁鉏:ヒシの実を採取するのに苦労する(のは、)農耕を止めてしまった(からであって)。 ・采菱:〔さいりょう;cailing2●○〕(農婦が食用として)ヒシの実を採取する。=「採菱」。盛唐・王維の『田園樂七首之三』に「采菱渡頭風急,策杖林西日斜。杏樹壇邊魚父,桃花源裏人家。」とある。 ・采:〔さい;cai3●〕採(と)る。つみとる。=採:〔さい;cai3●〕。 ・菱:〔りょう;ling2○〕ヒシ。ヒシの実。秋に菱角(りょうかく)のある実を結び、実は食用になる。 ・辛苦:つらく苦しい思いをする。 ・廃:すたれる。おとろえる。 ・犁鉏:〔りしょ;li2chu2○〕農耕を指す。 犁:〔り;li2○〕すく。すき。農耕の道具。 ・鉏:〔しょ;chu2○〕すく。すき。農耕の道具。≒鋤〔しょ;chu2○〕すく。すき。
※血指流丹鬼質枯:血を流した指先を真っ赤に染めて、幽鬼のようにやつれ果てている。 ・血指:血を流した指先、を謂う。 ・丹:赤。赤く塗る。ここでは、血を謂う。 ・鬼質:幽鬼のようにやつれ果てたさま、を謂う。 ・枯:かれる。ここでは、やつれ果てることを謂う。
※無力買田聊種水:田を買うだけの力がないので、少し、湖水に種を播いて(、ヒシを栽培しているが)。 ・無力買田:田を買うだけの力がない、意。意味が通じるように読み下せば:「田を買ふに力 無し」。 ・聊:いささか。わずか。少し。しばらく。 ・種水:(湖)水に種を播く。(湖)水に植える、意。「種」は動詞としての使用。その場合は、種:〔しゅ;zhong4●〕。
※近来湖面亦收租:近頃(ごろ)は、湖面にも(租税の)取り立てがある(ようになった)。 ・近来:近ごろ。 ・亦:…もまた。 ・收租:(家賃、地代などを)もらう。取り立てる。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「鉏枯租」で、平水韻上平七虞。この作品の平仄は、次の通り。
●○○●●○○,(韻)
●●○○●●○。(韻)
○●●○○●●,
●○○●●○○。(韻)
2021.10.3 10.4 10.5 |
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