田園樂七首之三 | |
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唐・王維 |
采菱渡頭風急,
策杖林西日斜。
杏樹壇邊魚父,
桃花源裏人家。
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田園樂 七首の三
菱を采 れば渡頭 に風 急 なり,
杖 を策 けば林西 に日 斜 なり。
杏樹壇邊 の魚父 ,
桃花源 裏 の 人家。
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◎ 私感註釈
※王維:盛唐の詩人。701年(長安元年)?〜761年(上元二年)。字は摩詰。太原祁県(現・山西省祁県東南)の人。進士となり、右拾遺…尚書右丞等を歴任。晩年は仏教に傾倒した。
※田園楽七首之三:田園(生活)はすばらしい。作者の罔川での田園生活を指すか。これは七首のうちのその三。水辺の村の超俗的な光景を詠う。 *この六言詩の前半の節奏は「□□+□□・□□」となっており、前二語とその後の間の切れ目が大きい(=「□□+□□・□□」)。後半の節奏は、「□□□□+□□」となっている。なお、(『楚辭』などを除いて、)一般的に七言詩の節奏は「□□・□□+□□□」(=「□□・□□+□□・□」or「□□・□□+□・□□」)であり、五言詩の節奏は「□□+□□□」(=「□□+□□・□」or「□□+□・□□」。)(『楚辭』の場合では、七言句、五言句の場合も上述の形式は当て嵌まらない場合が多い)。
※采菱渡頭風急:(農婦が、食用として)ヒシの実を採取している渡し場のほとりでは、風が強く(/風が出ており)。 *この句、「菱を采とれば」との表現が定着しているようなので、それに倣うが、句自体に「…れば」(…たら/…ので)の意はない。「渡し場のほとりでヒシの実を採取している(その)渡し場のほとりは、風が強い(/風が出た)」の意。 ・采菱:(農婦が、食用として)ヒシの実を採取する。=「採菱」。南宋・范成大の『四時田園雜興・夏日』に「采菱辛苦廢犁鉏,血指流丹鬼質枯。無力買田聊種水,近來湖面亦收租。」とある。 ・渡頭:渡し場のほとり。 ・風急:風が強い。「急」を「起」ともする。「風起」は:風が出る意。
※策杖林西日斜:(杖をついて)散策をすれば、林の西の方に太陽が(西に)傾いている。 *この句、「(杖を策(つ)けば」との表現が定着しているようなので、それに倣うが、句自体に「杖をつけば」(…たら/…ので)の意はない。 ・策杖:(杖をついて)散策をする。 ・日斜:太陽が(西に)傾く意。
『莊子・雜篇・漁父第三十一』 『楚辭・漁父』−1 『楚辭・漁父』−2 『楚辭・漁父』−3 『楚辭・漁父』 『桃花源記』
※杏樹壇辺魚父:杏(アンズ)の樹のある高くなったところ(=孔子が学問を講じた杏壇のところ)近くの漁師のじいさん(=超俗的な光景)に。 *『莊子・雜篇・漁父第三十一』に「孔子遊乎緇帷之林,休坐乎杏壇之上。弟子讀書,孔子絃(/弦)歌鼓琴,奏曲未半。有漁父者,下船而來,須眉交白,被髮揄袂,行原以上,距陸而止,左手據膝,右手持頤以聽。曲終而招子貢、子路,二人倶對。客指孔子曰:『彼何爲者也?』子路對曰:『魯之君子也。』客問其族。子路對曰:『族孔氏。』客曰:『孔氏者何治也?』子路未應,子貢對曰:『孔氏者,性服忠信,身行仁義,飾禮樂,選人倫,上以忠於世主,下以化於齊民,將以利天下。此孔氏之所治也。』又問曰:『有土之君與?』子貢曰:『非也。』『侯王之佐與?』子貢曰:『非也。』客乃笑而還,行言曰:『仁則仁矣,恐不免其身;苦心勞形以危其真。嗚呼!遠哉其分於道也!』とある。 ・杏樹壇辺:杏(アンズ)の樹のある高くなったところ。孔子が学問を講じたところに基づき、その壇の周りには、杏(アンズ)の木があったところから謂う。(なお、そのことに因り、山東省曲阜の孔子廟の前にある学問所、やがては学問をするところを広く指した)。=「杏壇」のこと。前出・『莊子・漁父』の紫字部分「杏壇」を参照。なお、この語はここ(=『莊子・漁父』)より生まれた。 ・魚父:〔ぎょほ;yu2fu2○●〕漁師のじいさん。老漁師。=漁翁。通常、「漁父」と書き表す。詩詞では、漁師は樵夫とともに、半俗半仙であって、隠逸の人のような扱いを受ける。(ただし、『莊子』・『楚辭』の「漁父」からは、体制への奉仕者に対して、現実主義的な批判者としての姿が見受けられるのだが…)。『楚辭・漁父』に「屈原既放,游於江潭,行吟澤畔,顏色憔悴,形容枯槁。漁父見而問之曰:『子非三閭大夫與?何故至於斯?』屈原曰:『舉世皆濁我獨C,衆人皆醉我獨醒,是以見放。』漁父曰:『聖人不凝滯於物,而能與世推移。世人皆濁,何不淈其泥而揚其波?衆人皆醉,何不餔其糟而歠其釃?何故深思高舉,自令放爲?』屈原曰:『吾聞之:新沐者必彈冠,新浴者必振衣。安能以身之察察,受物之汶汶者乎?寧赴湘流,葬於江魚之腹中,安能以皓皓之白,而蒙世俗之塵埃乎?』漁父莞爾而笑,鼓竡ァ去。乃歌曰:『滄浪之水C兮,可以濯我纓,滄浪之水濁兮,可以濯我足。』遂去,不復與言。」とある。
※桃花源裏人家:桃源郷(=理想郷)の中の家々(のような幻想的な光景)。 ・桃花源裏:「桃花源」の中。桃源郷の。理想郷の中の。桃の花の繁っている水源の谷間の奥。東晋・陶淵明の『桃花源記』にうたわれた桃花源(=桃源郷)のこと(=理想郷)を謂う。『桃花源記』「晉太元中,武陵人捕魚爲業,縁溪行,忘路之遠近,忽逢桃花林。夾岸數百歩,中無雜樹。芳草鮮美,落英繽紛。漁人甚異之,復前行,欲窮其林。林盡水源,便得一山。山有小口。髣髴若有光。便舎船從口入。初極狹,纔通人。復行數十歩,豁然開焉B土地平曠,屋舍儼然,有良田美池桑竹之屬。阡陌交通,鷄犬相聞。其中往來種作,男女衣著,悉如外人。黄髮垂髫,並怡然自樂。見漁人,乃大驚,問所從來。具答之,便要還家。設酒殺鷄作食。村中聞有此人,咸來問訊。自云:先世避秦時亂,率妻子邑人來此絶境,不復出焉。遂與外人間隔。」とあり、同・『桃花源詩』には「氏亂天紀,賢者避其世。黄綺之商山,伊人亦云逝。往跡浸復湮,來逕遂蕪廢。相命肆農耕,日入從所憩。桑竹垂餘蔭,菽稷隨時藝。春蠶收長絲,秋熟靡王税。荒路曖交通,鷄犬互鳴吠。俎豆猶古法,衣裳無新製。童孺縱行歌,斑白歡游詣。草榮識節和,木衰知風氏B雖無紀歴志,四時自成歳。怡然有餘樂,于何勞智慧。奇蹤隱五百,一朝敞神界。淳薄既異源,旋復還幽蔽。借問游方士,焉測塵囂外。願言躡輕風,高舉尋吾契。」とうたわれている。後世、中(?)唐・張志和は『漁歌子』で「西塞山前白鷺飛,桃花流水魚肥。笠,獄ェ衣,斜風細雨不須歸。」とうたい、中唐・柳宗元は『江雪』で「千山鳥飛絶,萬徑人蹤滅。孤舟簑笠翁,獨釣寒江雪。」や、盛唐・李白に『山中問答』「問余何意棲碧山,笑而不答心自閑。桃花流水杳然去,別有天地非人間。」とうたい、金・段繼昌は『一溪』で「一溪流水走蛇,春在江邊漁父家。竹外寒梅看欲盡,C香移入小桃花。」とし、北宋・蘇軾は『浣溪沙』で「西塞山邊白鷺飛,散花洲外片帆微。桃花流水鱖魚肥。 自庇一身箬笠,相隨到處獄ェ衣。斜風細雨不須歸。」とする。 ・人家:人の住む家、の意の外に、(「家」の意が薄くなった)…の人。…の身。…の身分、の意がある。
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「斜家」で、平水韻下平六麻。この作品の平仄は、次の通り。
●○●○○●,
●●○○●○。(韻)
●●○○○●,
○○○●○○。(韻)
2014.5.24 5.252021.10.27 |
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