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宿桐廬江寄廣陵舊遊 | |
孟浩然 |
山暝聽猿愁,
滄江急夜流。
風鳴兩岸葉,
月照一孤舟。
建德非吾土,
維揚憶舊遊。
還將兩行涙,
遙寄海西頭。
******
桐廬江に宿して 廣陵の舊遊に寄す
山 暝くして 猿愁を聽き,
滄江 急ぎて夜に流る。
風は鳴る 兩岸の葉 ,
月は照らす 一孤舟。
建德は 吾が土に非ず,
維揚は 舊遊を憶ふ。
還た 兩行の涙を將って,
遙かに 海西の頭に寄す。
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◎ 私感註釈
※孟浩然:盛唐の詩人。689年(嗣聖六年)~740年(開元二十八年)襄陽の人。官途に不遇で、郷里の鹿門山に隠れ棲んだ。山水詩に長じている。
※宿桐廬江寄廣陵舊遊:桐廬江沿いの現・浙江省建德市に来て滞在していたが、旧友の居る広陵(現・江蘇省揚州市)を懐かしんで、そちら(揚州)に手紙で詩を送った。 *長安での仕官活動が不調に終わった後、江浙(江淮)を旅したときの作品。 ・宿:宿泊する。泊まる。 ・桐廬江:桐江のこと。銭塘江の中流。現・浙江省桐廬県境。杭州の西南80キロメートルのところ。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)55-56ページ「唐 江南東道」にある。 ・寄:手紙で詩を贈る。 ・廣陵:現・江蘇省揚州市の旧名。後出の「維揚」「海西頭」の指すところに同じ。『中国歴史地図集』第二冊 秦・西漢・東漢時期(中国地図出版社)51-52ページ「東漢 揚州刺史部」では廣陵となっている。 ・舊遊:古い交際。旧交。以前、共に遊んだことのある友だち。また、昔、そこに旅したこと。ここは、前者の意で、作者がこの詩を送った昔馴染みの居場所。
※山暝聽猿愁:(浙江省建德附近の桐廬江一帯は)山は暗くなって猿のもの悲しい鳴き声を聽き。 ・暝:〔めい;ming2◎〕暗い。日が暮れる。 ・聽:耳をすまして聞く。聞き耳を立てて聞く。ここは「聞」とするのもあるが、その場合は「聞こえてくる」の意。 ・猿愁:猿のもの悲しい鳴き声。
※滄江急夜流:青々として深い川は急な流れで夜も流れている。 ・滄江:青い川。作者の今居るところの桐廬江を指す。 ・急:急な流れ。 ・夜流:夜にも流れる。
※風鳴兩岸葉:風は、兩岸の木の葉を鳴らして。
※月照一孤舟:月は、一人の旅人の孤舟を照らしている。 ・孤舟:ただ一つの舟。孤独な(人生の)旅人の形容。
※建德非吾土:(上述のような悲愴な感じが漂う)建德(現・浙江省桐廬県の南)は、わたしの故郷・本拠地とするところではなく。 ・建德:現・浙江省建德市。杭州の西南100余キロメートルのところ。前出・桐廬の南南西50キロメートルのところ。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)55-56ページ「唐 江南東道」にある。 ・非:(…は)…ではない。あらず。「A非B」の「A」「B」は名詞性の語。 ・吾土:わたしの居住するところ。 ・土:居住する。
※維揚憶舊遊:維揚(現・揚州)に昔出かけたときの人(この詩を差し出す相手のこと)のことを思い出している。 ・維揚:古代の揚州の発祥地で、現・江蘇省揚州市区の西部の地名に遺る。詩題中の「廣陵」や詩中の「海西頭」の指すところと実質上同じ。作者がこの詩を送った相手の居場所。この語(地名)の古さを証明するのに屡々孔子編纂の『尚書・禹貢』に「淮、海惟揚州:彭蠡既猪,陽鳥攸居;三江既入,震澤厎定。筿簜既敷。」というのを参照するが、「惟揚州」とあるのは「維揚」のことではなく、「惟(これ)、揚州」の意ではないのか。維揚は、『史記本紀・夏本紀』「淮海維揚州:彭蠡既都,陽鳥所居。」とあるが、ここの「維」も「これ」の意。 ・憶:思い出す。また、思う。覚える。ここは、前者の意。
※還將兩行涙:なおまた、二筋の涙をもって。 ・還:なおまた。 ・將:…をもって。…を。文語の「以」に近い働きをする。 ・兩行涙:(両目からの)二筋の涙。唐・岑參の『西過渭州見渭水思秦川』に「渭水東流去,何時到雍州。憑添兩行涙,寄向故園流。」とある。 ・行:〔ぎゃう;hang2○〕すじ。
※遙寄海西頭:遙かに海西(江蘇省)のほとりのあなたの許(もと)に、この詩文を差しだそう。 ・遙寄:遥か遠くに手紙で詩を送る。 ・寄:手紙で(詩を)送る。前出・岑參の『西過渭州見渭水思秦川』に「憑添兩行涙,寄向故園流。」とある。 ・海西頭:現・江蘇省揚州市一帯。詩題中の「廣陵」や、詩中の「維揚」の指すところに同じ。作者がこの詩を送った相手の居場所。
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◎ 構成について
韻式は、「AAAAA」。韻脚は「愁流舟遊頭」で、平水韻下平十一尤。この作品の平仄は、次の通り。
○◎○○○,(韻)
○○●●○。(韻)
○○●●●,
●●●○○。(韻)
●●○○●,
○○●●○。(韻)
○○●○●,
○●●●○。(韻)
2008.9. 7 9. 8 9.13 |
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