節婦吟 寄東平李司空師道 | |
張籍 |
君知妾有夫,
贈妾雙明珠。
感君纏綿意,
繋在紅羅襦。
妾家高樓連苑起,
良人執戟明光裏。
知君用心如日月,
事夫誓擬同生死。
還君明珠雙涙垂,
何不相逢未嫁時。
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節婦吟 東平の李司空師道に寄す
君は 妾に 夫有るを 知りて,
妾に 雙明珠を 贈れり。
君が纏綿の意に 感じて,
紅の羅襦に 繋ぎて在り。
妾家の高樓は 苑に連なり起ち,
良人 戟を 明光の裏に執る。
君が心を用ゐるは 日月の如きと知れども,
夫に事へて 誓って生死を同にせんと擬す。
君に明珠を還して 雙涙 垂る,
恨むらくは 未だ嫁がざる時に相ひ逢はざりしを。
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◎ 私感註釈
※張籍:中唐の詩人。字は文昌。和州(かしゅう)烏江(安徽省和県)の人。768年(大暦三年)〜830年(太和四年)。師友の韓愈に目をかけられ、その推薦によって、国子博士となった。楽府に長じている。
※節婦吟寄東平李司空師道:東平にいる司空の官である李師道に寄せる節婦の詩。 *男女問題を詠った詩だが、政治的な含意があり、厚遇に感謝しつつも、本然の節義を貫きたい、という婉曲的な謝絶の詩。 ・節婦:節操の正しい婦人。貞節な女性。 ・吟:うた。古詩や楽府題の末尾に用いて『……吟』とする。『白頭吟』など。 ・寄:手紙で詩を送る。 ・東平:地名。現・山東省鄲県の東にある隋の郡名。現・山東省東平県の東にある漢の東平国、南朝・宋の郡名。但し、『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)44−45ページ「唐 都畿道 河南道」や、48−49ページ「唐 河北道南部」にはないようだ。 ・李:真珠を渡してきた男性・李師道の姓。 ・司空:官名。周代の官名。土地、人民をつかさどる。漢代の御史大夫。 ・師道:男性の名。李師道とは、平盧淄青節度使。
※君知妾有夫:あなた(男性)は、わたし(女性)に、夫(おっと)がいることを知りながら。 ・君:相手の男性を指す。 ・知:分かっている。 ・妾:わたくしめ。謙譲の意を込めた女性の一人称。 ・有夫:おっとがいる(既婚女性)。
※贈妾雙明珠:わたし(女性)に一対の輝き光る真珠を贈くってくれました。 ・雙:ふたつの。一対の。 ・明珠:輝き光る玉。
※感君纏綿意:あなたの思いが深く離れがたくまとわりついているのに感じて。 ・纏綿:〔てんめん;chan2mian2◎○〕心がまつわりついて離れないさま。情緒の深いさま。 ・意:思い。
※繋在紅羅襦:(その思いは)紅(くれない)の薄絹の短い上着に繋(つな)ぎとめておきましょう。 ・繋在:…につなぎとめる。 ・繋:〔けい;ji4●〕つなぎとめる。 ・在:…に(…する)。 ・羅:薄絹。 ・襦:〔じゅ;ru2○〕短い上着。短い下着。
※妾家高樓連苑起:わたしの家の高楼(たかどの)は、苑(にわ)に連(つら)なって起(た)っており。 ・高樓:たかどの。二階建て。 ・連:つらなる ・苑:庭。 ・起:たつ。
※良人執戟明光裏:良人(おっと)は、戟(ほこ)を持って皇宮に勤めにあがっています。 ・良人:おっと。 ・執:(物をかたく)とる。 ・戟:〔げき;ji3●〕(枝刃のある)ほこ。 ・明光:明光殿のことで、皇宮を指す。明光殿は漢の宮殿名で、未央宮の西にあり、金玉珠璣を以て簾箔となし、昼夜光明あったという。また、明光宮のことで、明光宮は漢の宮殿名で、武帝が建てたもの。 ・裏:…の内で。
※知君用心如日月:あなたのお心遣(づか)いのほどは、明瞭に分かりましたが。 ・用心:心遣(づか)い。 ・日月:太陽と月。ここでは、太陽と月のように明瞭なことの譬喩で使われている。
※事夫誓擬同生死:わたしは夫(おっと)につかえて、誓って生死を共にしたいと思っております。 ・事夫:おっとにつかえる。 ・事:つかえる。動詞。 ・誓:誓って…。願望、決意を表現する。 ・擬:〔ぎ;ni3●〕…するつもりである。ほっする。しようとする。 ・同生死:生きることと死ぬことを同じくする。運命を同じくすること。
※還君明珠雙涙垂:あなたに真珠をお返し致しますが、両目から涙が流れてまいります。 *相手の厚意を謝絶するものの、心が揺れ動くことをいう。 ・雙涙:両目から流れ出る涙。
※何不相逢未嫁時:恨めしいのは、まだ嫁(とつ)いでいない時にお逢(あ)いできなかったことです。 ・何不:なぜ…しない。 ・相逢:(偶然に)出逢う。 ・未嫁時:まだ嫁(とつ)がない(未婚の)時。
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◎ 構成について
韻式は、「AAAbbbCC」で、韻脚は「夫珠襦 起裏死 垂時」で、平水韻上平七虞、上声四紙、上平四支。この作品の平仄は、次の通り。
○○●●○,(A韻)
●●○○○。(A韻)
●○◎○●,
●●○○○。(A韻)
●○○○○●●,(b韻)
○○●●○○●。(b韻)
○○●○○●●,
●○●●○○●。(b韻)
○○○○○●○,(C韻)
○●○○●●○。(C韻)
2008.10.16 10.17 |
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