貧女 | |
秦韜玉 |
蓬門未識綺羅香,
擬託良媒益自傷。
誰愛風流高格調,
共憐時世儉梳妝。
敢將十指誇偏巧,
不把雙眉鬥畫長。
苦恨年年壓金線,
爲他人作嫁衣裳。
******
貧女
蓬門 未だ識らず 綺羅の香,
良媒に 託せんと擬するも 亦自ら傷む。
誰か愛でん 風流の 高 格調,
共に憐れむ 時世の 儉 梳妝。
敢へて十指を將って 針の巧みなるを誇り,
雙眉を把って 畫くことの長きを 鬥はさず。
苦だ恨む 年年 金線を壓し,
他人の爲に 嫁の衣裳を作るを。
****************
◎ 私感註釈
※秦韜玉:唐末〜の詩人。字は仲明。京兆(現・西安)の人。中和二年(882年)に進士及第を賜った。
※貧女:貧民の女子。
※蓬門未識綺羅香:貧しい家なので、綾織りの素晴らしさをまだ知らないで。 ・蓬門:〔ほうもん;peng2men2○○〕蓬(よもぎ)で屋根を葺いた門。貧しい家のこと。この詩の「貧女」の家庭のこと。盛唐・杜甫の『客至』に「舍南舍北皆春水,但見群鷗日日來。花徑不曾緣客掃,蓬門今始爲君開。盤飧市遠無兼味,樽酒家貧只舊醅。肯與鄰翁相對飮,隔籬呼取盡餘杯。」とある。 ・未識:まだ知らない。ニュアンスの差違は別として、「未識」は●●で、本来詩句中「●●」とすべきところで用い、「未知」は●○で、本来詩句中「○○」とすべきところで用いる。 ・綺羅:〔きら;qi3luo2●○〕綾絹とうすぎぬ。美しい着物。転じて、繁栄しているさまをいう。 ・綺羅香:良家の子女の纏う綾絹やうすぎぬのほのかな香(か)。
※擬託良媒益自傷:良い仲人(なこうど)に頼みたいと思うものの、(あきらめて)また自分で傷ついてしまう。 ・擬:〔ぎ;ni3●〕…しようとする。ほっする。 ・託:たのむ。まかせる。 ・良媒:良い仲人(なこうど)。 ・媒:仲人(なこうど)。 ・益:ますます。いよいよ。 ・自傷:自分で傷つく。
※誰愛風流高格調:(貧しい家の女性の)高雅な品性を誰が愛(め)でてくれようか。 ・誰愛:誰が愛(め)で認めようか。 ・風流:風雅。優雅な趣き。 ・高格調:高雅な品性。高い格調。 ・格調:人の品格。人格。詩歌の体裁と調子。
※共憐時世儉梳妝:(世の中の)だれもが皆、流行(はやり)の薄化粧を大切にしている。 ・共憐:皆大切にする。 ・時世:当世流行の。今はやり。 ・儉梳妝:薄化粧。この語、分かりにくい。あるいは「儉」字を「險」字と見て、「險梳妝」(奇怪な髪型ファッション)と解するが…。 ・梳妝:〔そしゃう;shu1zhuang1○○〕化粧する。
※敢將十指誇偏巧:(貧女は)恐れずに十本の指の 針仕事の巧みなこと(生活能力)を誇りにして。 ・敢將:恐れずに…を。敢(あ)えて…を將(も)って。 ・十指:十本の指での手先の仕事。生活をしていくための手先での生業(なりわい)。 ・偏:ひとえに。ひたすら。一途(いちず)に。 ・巧:巧みである。
※不把雙眉鬥畫長:(華美な化粧である)ふたつ並んだ眉を長く眉をきりっとつりあげて画くことをしない。 ・不把:…を(し)ない。 ・雙眉:ふたつ並んだ眉。 ・鬥:〔とう;dou4●〕眉のはしをきりっとつり上げる。 ・畫:えがく。
※苦恨年年壓金線:本当に恨めしいのは、毎年、金糸(きんし)で刺繍をするが。 ・苦:はなはだ。 ・年年:毎年。 ・壓金線:金糸(きんし)で刺繍をする。
※爲他人作嫁衣裳:他人のために、嫁入り衣裳を作っていることなのだ。 ・他人:他の人。よそさま。 ・嫁衣裳:嫁入り衣裳。
***********
◎ 構成について
韻式は、「AAAAA」。韻脚は「香傷妝長裳」で、平水韻下平七陽。この作品の平仄は、次の通り。
○○●●●○○,(韻)
●●○○●●○。(韻)
○●○○○●●,
●○○●●○○。(韻)
○○●●○○●,
●●○○●●○。(韻)
●●○○●○●,
●○○●●○○。(韻)
2009.3. 2 3. 3 |
次の詩へ 前の詩へ 抒情詩選メニューへ ************ 詩詞概説 唐詩格律 之一 宋詞格律 詞牌・詞譜 詞韻 唐詩格律 之一 詩韻 詩詞用語解説 詩詞引用原文解説 詩詞民族呼称集 天安門革命詩抄 秋瑾詩詞 碧血の詩編 李U詞 辛棄疾詞 李C照詞 陶淵明集 花間集 婉約詞:香残詞 毛澤東詩詞 碇豐長自作詩詞 漢訳和歌 参考文献(詩詞格律) 参考文献(宋詞) 本ホームページの構成・他 |