詠田家 | |
聶夷中 |
二月賣新絲,
五月糶新穀。
醫得眼前瘡,
剜卻心頭肉。
我願君王心,
化作光明燭。
不照綺羅筵,
只照逃亡屋。
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田家を詠む
二月 新絲を 賣り,
五月 新穀を 糶す。
眼前の瘡を 醫やし得て,
心頭の肉を 剜卻す。
我は願ふ 君王の心,
化して作らん 光明の燭と。
綺羅の筵を 照らさずして,
只だ 逃亡の屋を 照らさんことを。
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『古文眞寶』
◎ 私感註釈
※聶夷中:唐末〜の詩人。字は坦之。河東の人。咸通十二年(871年)に、科挙に合格する。官は華陰尉。
※詠田家:農家を詠う。 ・田家:農家。農民。いなか家。『古文眞寶』では『傷田家』(農家をいたむ)とする。(写真:上)
※二月賣新絲:二月には、新たにできた絹を売(う)り。 ・新絲:その年に新たにできた絹糸。
※五月糶新穀:五月には、新たにとれた穀物を売り出す。 ・五月: ・糶:〔てう;tiao4●〕米や穀物を売り出す。うりよね(す)。だしよね(す)。ここでは、動詞の用法。
※醫得眼前瘡:眼前(がんぜん)の瘡(きず)を癒(いや)そうとして。 ・醫得:病気を治そうとして。病気を癒(いや)そうとして。 ・醫:病気を治す。癒(いや)す。ここでは、動詞の用法。 ・-得:動詞の後に附き、その動詞の表す動作・状態などの結果、方法、また程度を表す。 ・眼前:(時間的な)眼前(がんぜん)。目前(もくぜん)。目先(めさき)の。 ・瘡:〔さう;chuangf1○〕きず。かさ。
※剜卻心頭肉:胸の肉を剔(えぐ)り出す。 *「醫得眼前瘡,剜卻心頭肉」で、一時しのぎをするということ。「剜肉醫瘡」(肉を剜(えぐ)って瘡(きず)を醫(い)やす=肉を剔(えぐ)って傷を癒(いや)す)。体の健全な部分の肉を剔(えぐ)り取って怪我をした傷口にあてがってうめ、傷を癒(いや)す、という意味で、本質的な解決をするのではなくて、急場しのぎをする意。 ・剜卻:〔わんきゃく;wan1que4○●〕えぐりとる。削りとる。「-卻」は動詞の後に附き、動詞を強調「…し棄てる」「…し去る」。 ・心頭:胸。胸中。こころ。むなさき。念頭。心中。「-頭」は接尾辞で、…の上。名詞化する働き。
※我願君王心:わたしは、領主の心が…であってほしいと願う。 ・君王:〔くんわう(くんなう→くんのう);jun1wang2○○〕君主。天子。国君。殿様。
※化作光明燭:(君主の心が)仏の慈悲の光となって(ほしい)。 ・化作:かわって(新しい物の)…となる。≒化爲。「化作」は●●で、本来詩句中「●●」とすべきところで用い、「化爲。」は●○で、本来詩句中「○○」とすべきところで用いる。 ・光明:光。光り輝く。仏語で仏の徳の光。知慧や慈悲を表わす。 ・燭:〔しょく;zhu2●〕ともしび。明かり。たいまつ。かがり火。手燭。
※不照綺羅筵:(君王の徳の光明は)美しく立派な、権勢盛んな人の座席を照らし出さないで。 ・綺羅:〔きら;qi3luo2●○〕綾絹とうすぎぬ。美しい着物。転じて、栄華を極め、威光が盛んであるさまをいう。 ・筵:〔えん;yan2○〕敷物の総称。竹製のむしろ。たかむしろ。
※只照逃亡屋:(生活に苦しくて)夜逃げした人の家屋をこそ照らし出して(ほしい)。 ・只:ただ…だけ。 ・逃亡:夜逃げ。居所から不法に離れて行方不明になる行為。逃散(ちょうさん)。 ・屋:家屋。家。
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◎ 構成について
韻式は、「aaaa」。韻脚は「穀肉燭屋」で、平水韻入声一屋(屋肉穀)、入声二沃(燭)。この作品の平仄は、次の通り。
●●●○○,
●●●○●。(韻)
○●●○○,
○●○○●。(韻)
●●○○○,
●●○○●。(韻)
●●●○○,
●●○○●。(韻)
2009.2.23 2.28 3. 1 3. 2 |
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