我昔未生時 | |
唐・王梵志 |
我昔未生時,
冥冥無所知。
天公強生我,
生我復何爲。
無衣使我寒,
無食使我饑。
還你天公我,
還我未生時。
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我 昔 未だ生まれざりし時
我 昔 未だ生まれざる時,
冥冥として 知る所 無し。
天公 強ひて 我を生み,
我を生みて 復た 何をか爲せる。
衣 無くして 我をして寒からしめ,
食 無くして 我をして饑ゑしむ。
你・天公に 我を還さん,
我に 未だ生まれざりし時を 還せ。
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◎ 私感註釈
※王梵志:唐の初期・七世紀後半の詩僧。原名は梵天。衛州の黎陽(現・河南省浚県)の人。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)44−45ページ「都畿道 河南道」にある。開封の北100キロメートルのところ。
※我昔未生時:わたしが昔、未だ生まれてこなかった頃。 *この詩の題は、寒山詩のように本来の詩題が附けられていないものと思われる。(原典未確認)。第一句を詩題とした。 *この詩、現代語に通ずる表現や語彙が見受けられる。(=白話詩で、俗語的表現が多い。「我」「天公」)。 ・我昔:わたしが昔に。わたしは以前に。 ・未生時:未だ生まれてなかった時。
※我昔未生時:わたしが昔、未だ生まれてこなかった頃。
※冥冥無所知:遥かに奥深く、(その頃の“わたし”には、歓喜や苦悩といったものが)分かる事では無かった。 ・冥冥:〔めいめい;ming2ming2○○〕遙かに奥深い。遙かで遠い。漢魏・蔡文姫の『悲憤詩』其一に「馬邊縣男頭,馬後載婦女。長驅西入關,迥路險且阻。還顧邈冥冥,肝脾爲爛腐。所略有萬計,不得令屯聚。或有骨肉倶,欲言不敢語。失意機微閨C輒言斃降虜。要當以亭刃,我曹不活汝。豈復惜性命,不堪其詈罵。」とある。 ・所知:知る所。知ること。知る時。「知」の名詞化。
※天公強生我:天帝は、無理矢理にわたしを生んで。 ・天公:〔てんこう;tian1gong1○○〕天。天帝。お天道さま。 ・強:〔きゃう;qiang3●〕無理に(…する)。強(し)いて。強引(ごういん)に。副詞。蛇足になるが、形容詞「つよい」は〔きゃう;qiang2○〕。 ・生我:わたしを生む。
※生我復何爲:わたしを生んでまた、一体、何をしてくれたのか。 ・復:また。語調を整えるためにも使う。陶淵明の時代の詩に多い。 ・何爲:〔かゐ;he2wei2○○〕何ゆえ。なんすれぞ。詰(なじ)る気持ちを含んだ表現。
※無衣使我寒:(天がしてくれた事といえば、)衣類が無くて、わたしに寒い思いをさせて。 ・無衣:衣類が無い。 ・使我:わたしに…させる。使役表現。 ・寒:寒さ。後出・「飢」とともに「飢寒」:飢えと寒さ。貧窮生活を謂う。
※無食使我饑:食糧がなく、わたしに飢えてひもじい思いをさせた(事ぐらいが、天のしてくれた事だろう)。 ・無食:食糧がない。 ・饑:飢え(させ)る。
※還你天公我:お天道さんよ、お前さん(=なんじ・天帝)にわたしというものを返す(から)。 *「還你天公我」の句の構成は「還+你天公+我」で、「『你天公』に『我』を『還』す」ということ。「還す 你天公に 我を」で、現代語でもこの配列。 ・還:〔くゎん;huan2○〕かえす。返還する。 ・你:〔ni3〕あなた。なんぢ。なお、この語は現代語でも、標準的な二人称として使う。
※還我未生時:(その替わり、)わたしに、(苦悩というものを知らなかった)まだ生まれる前の時を返してほしい。 ・還我:…を返せ! わたしに…を返す。現代語でもよくある表現。
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◎ 構成について
韻式は、「AAAAA」。韻脚は「時知爲飢饑時」で、平水韻上平四支。この作品の平仄は、次の通り。
●●●○○,(韻)
○○○●○。(韻)
○○●○●,
○●●○○。(韻)
○○●●○,
○●●●○。(韻)
○●○○●,
○●●○○。(韻)
2010. 9.28 9.29完 2018.10.21補 |
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