獨酌 | |
唐・杜牧 |
窗外正風雪,
擁爐開酒缸。
何如釣船雨,
蓬底睡秋江。
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獨酌
窗外 正に 風雪,
爐を擁して 酒缸を 開く。
何如ぞ 釣船の雨に,
蓬底 秋江に睡ると。
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◎ 私感註釈
※杜牧:晩唐の詩人。803年(貞元十九年)〜852年(大中六年)。字は牧之。京兆萬年(現・陝西省西安)の人。進士になった後、中書舍人となる。杜甫を「老杜」と呼び、杜牧を「小杜」ともいう。李商隠と共に味わい深い詩風で、歴史や風雅を詠ったことで有名である。
※独酌:ひとりで酒を飲む。=独侑。 *この詩、自分の現在の境遇と、漁父の境涯を比較して詠った。当時、漁父や樵は半隠者として、隠者に相当するものとして捉えられており、それに憧れるといった表現スタイルの作品が多い。そういう考え方が文人の間に深くあったためだ。ここでは、「官僚として恵まれた生活と、半隠者である漁父の暮らし」のどちらがよいのだろうか、という問いかけを、「暖かい部屋でお酒を飲んでいる(官僚である自分)と、雨や雪の降りかかる舟の中(の半隠者である漁父)」として表現したもの。
※窓外正風雪:窓の外は、ちょうど風まじりの雪(なの)で。 ・窓外:窓の外。この言葉で、作者は暖かい室内でおり、寒々とした窓外の光景を見て、心に感じたことを詠ったことがわかる。中唐・白居易は『問劉十九』で「螘新醅酒,紅泥小火壚。晩來天欲雪,能飮一杯無。」と、寒中の(燗)酒を詠う。 ・正:ちょうど。 ・風雪:吹雪(ふぶき)。風と雪。風まじりの雪。「風霜」ともする。ただし、この詩の韻脚は「缸」「江」で、平水韻上平三江。「霜」は下平七陽で通韻しない(現代語韻では可)。そのために、年を経るとともに(『全唐詩』成立以前に)「雪」と修正されていったのか。劉長卿の『逢雪宿芙蓉山主人』に「日暮蒼山遠,天寒白屋貧。柴門聞犬吠,風雪夜歸人。」とある。
※擁炉開酒缸:(部屋の中で)炉にあたって(暖を取りながら)酒がめを開いた。 ・擁炉:炉にあた(って暖を取)る。火鉢にあたる。 ・酒缸:〔しゅかう;jiu3gang1●○〕酒を入れたかめ。酒がめ。=酒甕。ここを「酒甕」などとしないで、「酒缸」としたのは、「缸」が韻脚(平水韻上平三江)となっているため。
※何如釣船雨:どのようなものであろうか、(それは)漁師の舟で、雨の中(の)。 ・何如:〔かじょ;he2ru2○○〕どのようであるか。「いかん」。方法・状態・是非などを問う。=何若。蛇足になるが、「如何」(≒奈何)は、どうするか。どうしようか。「いかん」「いかんせん」。対処・処置などの手段・方法を問う、ということであり、意味が異なる。 ・釣船:釣りをする漁師の舟のこと。後出・紫字参照。
※蓬底睡秋江:とま葺(ぶ)きの)舟の中で、(漁師として世を過ごして)秋の川に眠ることと(どちらがよいことだろうか)。 ・蓬底:〔ほうてい;peng2di3○●〕(とま葺(ぶ)きの舟の)舟の中。舟底。なおこの語句、清代の『全唐詩』の木版(康熙揚州詩局本)や現代の『杜牧詩選』(繆鉞選註 新月出版社 1961年香港)では「蓬底」〔ほうてい;peng2di3○●〕となっているが、広く「篷底」〔ほうてい;peng2di3○●〕が通用して「篷底睡秋江」とされていることが多い。但し、言葉としては「蓬底」よりも、「篷底」が正しい。その意味で、「篷底」が通用していることには納得が出来る。 ・睡:ねむる。中唐・司空曙の『江村即事』「釣罷歸來不繋船,江村月落正堪眠。縱然一夜風吹去,只在蘆花淺水邊。」に基づいた。 ・秋江:秋の川。
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「缸江」で、平水韻上平三江。この作品の平仄は、次の通り。
○●●○●,
○○○●○。(韻)
○○●○●,
○●●○○。(韻)
2010.10.12 10.13 |
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